第七話、昼間の会談と決戦への仕込み
第七話です
よろしくお願いします
対策について自分の席で考えていると周りの話の中にいくらか気になる話題を見つけた。
少し前からあった深夜に鳴ったという大きな音について、新たな情報が入ってきたというのだ。
話を盗み聞きする限りではこれも確かな情報という訳ではないらしい。どうにもそれらしい音を聞いたという生徒がいるらしいというぐらいで信憑性はそこまでないようだ。
ただそれまで教師からしかその話題が上がらなかっただけに生徒の間で噂に対する好奇心が再熱しているようだ。まあこっちはそれどころではなかったからな。自分のことで精一杯で周りのことを気にする余裕なんてないわけだし。
周りの声から意識を手元のメモ帳に戻す。一応ここに対抗策として使えそうなものを書き出してはいるが実際に使えそうなもの、時間が足らず用意できそうにないもの様々だ。
主軸となるものはできてはいるがそれだけでは少々不安が残る。それが効果を発揮しなかったとき、また相手に眠らされたりしていたら目も当てられない。こっちが対策をしていることがバレて今度はどんなことをしてくるかも不明だ。できる限り一度で勝負をつけたい。
そんなことを考えていると教室に入ってくる委員長の姿が視界に写り込んできた。
聞いてはいたがやはり顔色が悪い。こちらもそれなりに不調だがあそこまではっきりと顔には出ていないだろう。神田川達との関係が改善できていないのがかなりきているようだ。
今日もまたその様子を心配したクラスの女子が彼女の周りを囲んでいる。気丈に振る舞って対応しているがどうにも覇気がない。目元の隈も化粧で誤魔化してはいるがバレバレだ。
いくつか話をして彼女たちもそれぞれの席へ帰っていった。そろそろ朝礼の時間だ。俺も一旦メモをしまっておこう。
それから担任からいくらかの注意点などが聞かされた。その際に例の噂についても聞くことができた。広まっているものと大差なかったがやはり聞いたという生徒がいるらしいことがわかった。しかし今日まで生徒に聞こえなかった音が聞こえるようになったというのはなにか理由があるんだろうか。
まあそんなことを気にしている余裕なんて欠片もないので考えてもしょうがないんだけどな。
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そんなこんなで授業は進み、合間に思い付いたことをメモに書き込んでは消してを繰り返し、いつしか約束の昼になっていた。
早速かばんから今日の昼飯を取り出して屋上へと向かう。天道との交渉材料のために多めに作ってきたが、巻き込んでしまった左近司の分には少し足らないだろう。すでに渡してある前金で勘弁してもらおう。
早足に教室を出て、屋上に繋がる階段を目指しているとなにやらまた騒ぎが起きているようで下の階からドタドタと、まるで何十人もの人間が走り回っているような音が聞こえてきた。
なにが起こっているかはわからないがこんなところで時間を食うわけにもいかない。さっさと屋上に逃げ込んでしまおう。
喧騒から距離を置くようにしてやってきた屋上は下の騒ぎなどまるで別の世界のことかのように感じられるほど穏やかな場所だった。
以前からちょいちょい来てはいたがここ数日の心休まらない日々のせいでなんとも特別な場所のように思える。
大きなフェンスで囲まれてはいるがワイヤーを交差させたような隙間のあるタイプのもので、風通しもよい。難点は天候に左右されてしまうことだがそれは仕方ないだろう。あいにく今日は太陽に雲が重なっていて少し肌寒い。風が弱いのが幸いか。
スマフォの時計をチラリと見たが、もうそろそろ昼休みに入って十分ほど経つ。天道たちも来ていいくらいだがなにかあったんだろうか。このままだとろくに話も出来ないし頼み事の確認も出来ない。そうなると結構まずい。迎えに行くべきか?
そんなことを考えていると目の前の扉から人影が出てきた。よかった、どうやら待ち望んでいた二人のようだ。
「ふいー、ちかれた~」
「ごめんねしょうちん。まきこんじゃって」
ようやく来てくれたはいいがどうにも二人は疲労しているみたいだった。
「大丈夫か二人とも? 何かあったのか?」
「よう大将、いや~最近の女子は怖いね」
「野獣性を解放しておった」
話を聞いてみれば、先程の騒動の原因がこいつららしい。見つからないようにどうしようしていたところ、やっぱり発見されてしまったようだ。学校のアイドル天道の存在はこうも容易く女子の理性を崩壊させてしまうのか。今まで逃げ回っていたんだな、よくやってくれた。
「これ、二人で食ってくれ」
さすがにここまでしてくれたのに何もしないのは心が痛む。そっと自分の分まで弁当を差し出した。
「おっひょう! 気が利くじゃん!」
「よろしいので~?」
「ああ、遠慮せず食ってくれ。サンドイッチだ」
コストや食事の手間を考えてのチョイスだったがもっと用意しておいてよかったかもしれない。
扉の側から離れたところで三人で弁当箱を囲むように座った。二人は早速サンドイッチに手を伸ばしている。
「あれ、蒼一君食わねぇの?」
「大丈夫だ。先に済ませた」
お前たちの行動で胸がいっぱいだよ。
「いや悪いね。さすがに腹減ったぜ」
「もふす、もふす」
おっ、これうまいね。という言葉だけが救いだな。そうでなければ作った甲斐がない。
さて、
「天道、そろそろ返答を聞いてもいいか」
「もふ?」
「・・・・・・食ってからでいい」
ハムスターかお前は。口一杯に詰め込むんじゃねぇよ。すげぇ幸せそうな顔しやがって。これはたしかに女がころころ堕ちていくわけですわ。
「・・・・・・、んぐ・・・んぐ」
「ほれ、茶を飲め。喉乾くだろう」
「あ、おいらも頂戴」
「唾液で我慢しろ」
「なんで辛辣っ!?」
なじぇなのーーー!! と無駄に叫ぶ左近司。五月蝿いやめろ、折角撒いた女子をここへ集めさせるつもりか。
「よっしゃ、どんとこい」
その間に天道も食べ終わったようだ。これで話を進めることができる。
「じゃあ早速だが」
「ノン、天道は二歩先をゆくのだ。すでに手配済みなのだよ」
「なんと」
これは予想外だ。まさかここまで速く対応してくれているとは。普段の姿からは全く想像できない仕事っぷりだ。
「親父さんは話は通っているのか?」
「もちのロンじゃよ」
「なあなあ、それっていったい何よ? おいらそういやそこんと知らない感じじゃん」
そういえば確かに左近司には話していない内容だ。聞かせておいてもいいだろう。
「実を言うとだな、ここ最近家に不審者が入り込んでいるみたいなんだ」
「はっ!? まじなの? かなりヤバげじゃん!!」
「そうだ。だから対策として天道にあるものを頼んだんだ」
「そういうわけなんですわぁ」
天道の家はある製品を中心として世界的なシェアを誇っている大企業の本家本元であり、こいつも次期社長となるべくして生まれ、英才教育を受けている本物のお坊っちゃまなのだ。
「それで何時ぐらいに出来そうなんだ?」
「午後の授業が終わったくらいには大丈夫かもって~」
「よし、それならなんとか間に合いそうだ」
「でもよう、天道もこんないきなりでよく対応できたよな。普通ならこんな早くできねぇだろ?」
左近司の疑問はもっともだが、まあそれには事情というものがあるんだよ。
「ぼくんちはね~、そうちんにちょっとした借りがあるのだ~」
「なんなんそれ? おせぇて虎えもん」
「だめだよしょう太くん、これは秘密のことなんだ」
おせぇておせぇて、としつこくねだる左近司に天道はダミ声で拒む。まああまり言いふらすことでもないからな。
じゃれついている二人の姿を見ながら、自分の準備の方も着々と進んでいるのを感じ、密かに拳に力を込める。これでようやく目処が立ってきた。
待っていやがれ犯人様よ。目にもの見してやるぜ。
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