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第六話、前進のために

第六話です

よろしくお願いします

 内なる決意を迎えた朝。

 この一週間、変わらない五月の朝がまた始まった。

 

 行動を起こすまでまだまだ時間がある。決行の夜までにできる限りのことをしよう。とはいえ、そこまでだいそれたことはできないし、学校にも普通に向かう。

 

 理由としては、犯人がどこまで俺の行動を把握しているかわからないからだ。もしかしたらこちらの外での行動、全部とはいかずとも家の出入りぐらいは見られているかもしれないからだ。

 休校日でもないのに学校に行かなければ不審に思われるのではないか。こちらとしてはいつも通りの行動を犯人にしてもらいたい。そういった考えもあり学校にはいつも通り行くことにした。

 

 そうすると実際に対策に使える時間は学校から帰ってからになる。より確実に成功させるためにも学校では対策の穴がないかよく確認しなければ。

 

 さあ、そうと決まればさっさと行こう。こんなことをした後悔を、深く深くさせてやる。

 

 

◾ 

 

 

 特のこれといったことはなく学校には到着した。

 途中でまた神田橋がトラブっていたがそんなものに気を取られている暇はないので積極的に無視しておいた。

 さて、まずはあいつのところに話をしに行こう。

 

 三組の教室に来たはいいが、肝心の標的が周りを囲まれていてどうにも接触できそうにない。

 

 天道貞虎朝の恒例行事、甘味献上会である。

 

 天道と御近づきになりたい女子がやつの好物である『甘いもの』を献上することで好感度を得ようとする、早い話がバカ騒ぎの一ついうわけだ。

 しかし困った。朝の内にこいつに任せておきたいことがあったんだが、この様子ではそれもできそうにない。人が普段しない頼み事をしようってときになんて間の悪い。

 

 一旦三組の教室から距離をあける。

 しかし本当に困った。早めに頼んでおかないとあいつも対応できない可能性がある。そうなってしまえば不安要素を抱えたまま今夜の作戦を行わなくてはならなくなる。あいにく頼もうとしているのは専門的な知識や技術がなければ用意できないものだ。これがあるかどうかでかなり成功率が変わってきてしまう。

 

 通路の影でどうやって渡りをつけるか考えていると、背後から人が近付いて来る音が耳に入ってきた。

 

「あれ、日駆じゃん。どしたの?」

 

 声に反応し振り返ると、そこにはアクション俳優かぶれ、左近司翔馬のこちらを不思議そうに見る姿があった。

 まあたしかに疑問はあるだろう。普段近づくことはない他組の教室の中を窺うようにしている俺のことは、見るものが見れば相当怪しいだろう。

 

「左近司か。いや、ちょっとな」

「中のやつになんか用事でもあんのか?」

「そうなんだが・・・、あの様子じゃ無理だろうな」

「ああ、献上会か。またやってんのね」

 

 他のクラスからも集まる盛況ぶりに、左近司も辟易とした顔で中の騒ぎを覗いている。

 実際、あの騒ぎのせいで三組の他の生徒はギリギリまで自分の席にすら座れないなんてこともある。天道もそのことはわかっているが、自分が強く言えないことや甘い誘惑に釣られてしまい、なかなか収集がつかないでいる。

 

「どうしたもんかね、これ?」

「このままじゃ無理そうだな」

 

 諦めかけていたそのとき、ふと重要なことに気づいた。

 

「左近司、お前もたしか三組だったな」

「おお、だから困ってんのよ」

 

 ちょうどいい、こいつにメッセンジャーになってもらおうではないか。

 

「左近司、少し頼まれてくれないか?」

「やだ!」

 

 それはいっそ清々しいくらいの拒否であった。返しが早いわ。

 

「そう言わずに、頼むよ」

「おいおい旦那、俺はわかってるんだぜ」

 

 左近司はビシッと教室内を指差し、普段はしないような愉快な表情でこちらに顔を向けてくる。

 

「俺に死ねってんだろ!?」

「飛躍しすぎだおバカ」

「結果的にそうなる気配がビンビンですけども!!」

「まあ聞け」

 

 グズる左近司の肩を掴み、内緒話をするように身体を近くへと寄せる。やめろ、変な反応するな、そういうことじゃねぇよ。

 

「いいか左近司。これはお前にしか出来ないことなんだ」

「そんなこと言って、また私を弄ぶのね!」

「真面目に聞け、殺すぞ」

「マジトーンは勘弁してくんないすかねぇ!?」

 

 ちょいとばかし殺気を込めたら素直になってくれた。やれやれ、初めからそうしていればいいものを。

 

「もう一度言うが、これはお前にしか頼めんことだ」

「そうは言ってもよー、どうせあの中に突撃しろってことだろ」


 なおも渋る左近司にこれ以上時間をかけている訳にもいかない。あまりやりたくなかったが、これしかあるまい。

 

「前金だ、好きに使え」

「なんなりと御申し付けください」

 

 ピラリと懐から出したのは、なけなしの小遣いである五千円だ。これでしばらく極貧生活だが背に腹は代えられん。今は一刻でも早く天道に話をつけなければならない。

 見事な掌返しを見せてくれたこいつに対し、さらに一枚の手紙を取り出した。

 

「こいつを見ろ」

「はっ」

 

 先程まで下げていた頭をもとに戻し、差し出した紙片に焦点を向ける。しかしノリノリだなこいつ。

 

「お前の役目はこの手紙を天道まで届けることだ。その際にできる限り人目には付かないようしろ」

「了解であります」

「内容にはあいつに用意してもらいたいブツのこと、それについて昼頃に話せないかということだ」

「なるほど」

「当然それまでにこれを渡してもらいたい。出来るな?」

「一つ質問をしてよろしいでしょうかぁ!」

 

 こちらの頼みたいことは伝え終えたので早速行ってもらおうとしたがなにやら聞きたいことがあるらしい。というかそのノリだんだん鬱陶しくなってきたな。

 

「なんだ?」

「その場に私も同席してもよいでしょうか」

「ん?、・・・・・・そうだな」 

 

 はっきりいって天道さえいればそれでよいのだが、前金を払ったとはいえ普段はしないような行動をしている現状、疑問を残したままでは任務を無事遂行できるか少し怪しい。ここは確実に仕事をしてもらうためにも訳を話せる場にいてもらった方がいいだろう。

 

「わかった、同席してくれ」

「よぅし!」

 

 なにがそこまで嬉しいのかガッツポーズまで決めてやがる。まあいい、それよりも時間がない。

 

「それじゃあ、集合場所を先に教えておく。屋上に席を設けるつもりだ。バレないよう行動してくれ」

「おK、んじゃいってきますわ」

 

 そう言うが早いか、すぐさま狂騒が支配する空間へと飛び込んでいった。しかし女子が作り出す鉄壁の防御のせいでまるで標的に近づけやしない。

 この騒ぎが収まるまではどうにも厳しそうだ。左近司のヤツなら期限までには天道にこちらの意思が伝わるだろうが、はたしてブツを用意してもらう時間があるだろううか。

 とにかく今はあいつに託すしかない。最悪の場合はまったく協力が得られないが、もともと俺一人の問題だ。今夜での解決をするために余裕のあるが行動できなかったが、犯人がいる確信が持てて気持ちが逸ってしまった部分もある。

 

 とにかくだ。

 今の自分ができる最善のことをきっちりとイメージし、同時に最悪なことが起こってもそれをカバーできるような心構えでいなければ。

 時間は止まってはくれないだ。

 天道たちと会えない可能性だってある。そうなったらそうなったで次善の策を考えなければいけないし、そのために用意しなければならないものだって出てくるだろう。

 

 俺はもう見えなくなってしまった左近司に願いを託し、自分の教室へと進むのだった。

 

読了ありがとうございました

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