第二十六話、彼女の理由
第二十六話です
よろしくお願いします
魔王の支配から意識を戻し、元の委員長の人格としてこうして目の前にいる彼女だが、その表情は穏やかであるにも関わらずどこか冷たい印象を受けてしまう。
そう感じてしまうのは、やはりその瞳だろう。
いつものクラスメイト達を見守るような彼女の顔に浮かぶ、明確な殺意の証のようなものだろうか。こちらを見据えているそれが、突き放すような威圧感で突き刺してくる。
「あ~あ、ほんと。やんなっちゃうわよね」
こちらを見やる自身の視線に気付いていないのか、彼女の言動はその視線に比べ穏やかだ。しかし髪を弄りながらも視界の中心に据えられてこっちが下手に動かないように監視されている。
「せっかくこうして暴れる機会を得られていろいろ発散できると思ったのに。いけずよね」
「悪いな委員長。仕事なんでね」
「あら。それって離婚の原因になりやすい台詞だわ」
でも付き合っちゃう、とどうやら積極的に会話をしてくれるみたいだ。まだ思うように身体が動かないのが見抜かれているんだろう。ありがたく回復に当てさせてもらおう。
「でもびっくりしたわ。あなたのことをモーンから聞いてまさかと思ったもの」
「俺もだぜ。なんたってあの委員長が魔王だなんてな」
「そうよねぇ。でも一番驚いたのはあなたがこの戦いに参加したことだわ」
「そんなに意外か?」
「ええ。だってあなた、面倒事は御免だってタイプじゃない? そんな人がこんないかにもなことに首を突っ込んでくるなんて思わないじゃない」
髪を弄るのに飽きたのか、今度はその手に持つ魔杖を野球のバットを素振りするみたいに振り回す。その動作をしながらでもこちらを見てくるので若干怖くなってくる。
「恐怖体験を毎晩繰り返されたらそりゃね。俺だって解決のためになんだってやってやるさ」
「なんなの? それ」
「眠る時の記憶が無くて、起きたら部屋の壁や外にいるんだよ。そのくせ目覚めは爽快でな。それがまた気持ち的に不快なわけよ」
「それは不幸だったわね。なんでかしら?」
「うちのに聞いたらなんでか毎回おたくらのに家をぶっ飛ばされてたみたいだぜ」
「・・・・・・」
ここでなんだか委員長に変化が。なにやら思い当たるところでもあるのか、素振りをやめ頬に手を当てて記憶を探るような仕草をする。
「…それ私のせいかも」
「マジで?」
どうやら俺の平穏を乱していたのはこの方に原因があるようで、先ほどまでの余裕が少しばかり崩れているみたいで冷や汗が一筋流れていくのが見える。
「私一度だけあなたの家に行ったことがあって、その時のことが頭に残っているのよね。たぶんそのせいかも」
彼女が語るのはたぶん去年のことで、教室に忘れたままにしていたプリントを届けてくれたときのことだろう。その次の日に提出するものだったので届けてくれて助かったのを覚えている。
しかし、どうしてだ。
「あの時になにかした覚えないんだけど・・・」
特別なにかがあったわけではないと思うのだが、そこまで印象に残るようなことがあっただろうか。
「ていうか、魔王状態の委員長に関係あるのか? だってあっちにはそういう記憶なんてないんだろ?」
「んーそれなんだけど、私が戦闘をモーンに任せたのって最初に自分で戦ってからなのよね。その時あなたの家の方向に向かうようにしていたからその道をモーンが覚えていたのかも。どうなのモーン?」
彼女の呼び掛けに答えるようにしてその頭上に出現する魔神モーン。こちらには若干の疲労の色が表情から伺える。モーンは待機するようにそのまま頭上で停止している。
「まあそうだな」
「そんな、なんでよ?」
「理由は簡単なんだけどね」
そう言うと彼女は真っ直ぐにこちらを見据えて語りだした。
「さすがの私たちでも最初から一人で戦う気はなかったのよ。人数で有利を取れれば交渉があった時に便利でしょ? それに魔王に配下がいないのも格好がつかないじゃない。正道君が絹恵ちゃんを眷属にしたみたいに、私も眷属を探しに行動してたの」
「その最初の候補があなた」
「あなたが天道君を助けるためにいろいろやってたことは知っていたし、その行動力は目を見張るものがあったわ」
「彼に襲いかかる何十人もの女生徒から、ときに逃げときに撃退する。まるで映画のワンシーンみたいな場面を何度か見ることができたのも大きいわね」
「でも一番はあなたの家を見たときよ」
「あなたの家にはあまりにも親の影が無かったわ。ちらりと覗き込んだ玄関からの景色にはあなた以外の靴すらなかった」
「驚いたわ。まるであなた一人しか住んでないみたいで。思い返してみればあなたのご両親にあったことが一度もないのよ。授業参観にも三者面談にも来ないのよ?」
「それなのにガレージには車が出入りしているのがタイヤの跡で分かったわ。不思議に思ったの! いるのにいない、そんな存在が暮らしているのがどんな生活なのか」
「でもそんな話をいきなりするのもちょっとどうかと思うじゃない? 込み入った事情なら下手にするものじゃないし」
「聞けずじまいでいたらこの機会を得られたの。遠慮なんてしなくてもいい力と理由を手に出来たんですもの。早速あなたの家に向かったわ」
「でもそこで邪魔が入った。勇者になった正道君が追いかけてきたの」
「始めての戦闘だからかしら。なんだかとても疲れてしまったのよね。あまり暴力なんて縁遠いものだからかしら。それからはモーンに戦闘は任せていたの」
「でもやっぱり慣れないことをするものじゃないわね。戦いの記憶はなくても微妙に疲労が体に残っている感じがあって体調が優れないときもあったわ」
「そこにいつも通りあの二人が騒ぎを起こすものだから余計に疲れちゃって・・・本当にあの子達には困ったものだわ」
「小さい時から何も変わらない。自分勝手な正義感で、その場のノリで、考えなしで、そうやって起こした事件は数多くあったわ」
「尻拭いはいつも私。方々に頭を下げて事を治めてもらって、言い聞かせても改善なんてしない。すぐにまた事件が起こる。今度はさらに勇者ですって? ・・・笑えないわ」
「それでも、モーンとの出会いは代わり映えしない毎日に起こった奇跡みたいなものだったわ。その存在が魔王だとしても私には関係なかった。むしろその力強さに惹かれたわ」
「敵対する日々の中、あの夜の出来事が起こったわ。あなたが乱入してきた夜よ。後からあなたのことを聞いてもう笑えてしかたなかったわ! 明らかに敵対している二人の間を丸っきり無視して突っ切っていくんですもの。常人に出来ることじゃないし、辛辣な対応もありえないじゃない」
「この格好、あなたが言う通り確かにちょっと危ないわよね。でもこれってあなたを悩殺できればいいかなって思って頑張ったのよ?」
「プロポーションには自信があったからいけるかなって思ったけど、失敗しちゃったみたいね」
「まあ、それは置いておきましょう。もう回復はいい感じかしら。今度は私の相手をしてもらうわよ審判さん。簡単に倒れちゃダメなんだからね?」
・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・お話いただきどうも」
ストレス・・・なんだろうなぁ。
なんとかそれだけ返せたが、正直なところを言おう。
「(重くない?)」
いや、あの・・・確かにうちは共働きで滅多に家に帰らないから見掛けることはまずないだろうし、そのことに興味が沸くくらいは普通なんだろうけど、テンションがなんかおかしい。そこまでのことじゃなくない?
「それじゃあいくわよ!」
「お、おう・・・」
やばい展開についていけないぞ。拾えていないワードがまだあるのにもう戦闘に移る気でいるぞ。
彼女のテンションの落差に対応できないまま、いやがおうもなく俺は戦闘を再開するのだった。
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