第二十四話、決着にはまだ遠く
第二十四話です
まだまだ決着は着きません
辺り一帯を包み込んだ電光が収まって、だんだんと視界が元の景色を映し出す。
溜めた大量の電気を一気に放出し拘束している髪の毛を根本から麻痺させる算段だったが、一部の電撃を制御しきれず自分にも食らってしまった。
「---ぅ・・・うご--・・・ぉがっ・・・・・・!?」
『・・・・・・ぐぁ--・・・ぐ・・・うっ・・・!!』
だがしかし、当初の目的である拘束解除は成功したようであり、痺れる身体を縛り付ける力はさほども無くなっている。これならいける。
「ミ、ミ・・・ゼル・・・・・・!」
「無茶をしすぎじゃ!!」
自力では動けないので上手く待避していたミゼルに紋様のあるところまでの進行を任せる。大雑把に身体を操作されるので一歩進むだけでガクつくのが物理的に頭にクる。あかんわこれ、装具だけで操られているせいでバランスが崩れまくりだ。
「・・・ガクガクやんけ」
「文句をいうでない!!」
なんか知らんがご立腹なんですけど。それでもなんとか生え際まで辿り着き、紋様が見える位置まで髪を掻き分けこれましたと。
「高いわ・・・」
「さっさとやるのじゃ」
学校の屋上近くまであるような高さから下を見る。深夜の暗さで不鮮明になってさらに恐怖感が増すのであまり下を見たくはないが、覗き込むようにしなければ額の前には出れなので致し方ない。
俺はそのまま身を乗り出すようにして、魔王の額に刻まれた紋様に手を伸ばす。
『や、やめ・・・ろ・・・』
やめるもんですかってだ。
魔王の制止を当然のごとく無視し、ミゼルは俺の身体で止めを刺すために右腕の装具から刃物を作り出す。長くした鉄棒の先に湾曲した刃、鎌のような見た目のそれはこの不安定な場所からでも真下にある紋様を傷つけるくらいは簡単にできるだろう。
『こうなれば・・・!』
「今さらなにをしようが無駄じゃ!」
なにやら魔王様にはまだ奥の手があるのか、紋様からまた光が発生しだす。頭の真上で電撃食らわしてまだまだ動けるとか、勘弁してほしいんですけど。
ミゼルはそれを阻止するように鎌っぽいものを振り下ろすが、魔王の対応のほうが早かった。また何事かを呟いたかと思えば、ガクンとその体が振動した。
「なんじゃと!?」
そのせいで攻撃の軌道がずれ、額の端のほうに刺さってしまう。もう一度振り上げようとしたとき、さらに振動が起こり体勢が崩れてしまう。
尻餅をつく形で背後に倒れていくが、なにかおかしい。
「崩れて・・・いるのか?」
「こやつやりよった!」
手を着いた箇所の感触が変わっている。しっかりした安定感が無くなり、グズグズと崩れていくのを感じる。
「なにやりやがった!」
「魔力をほどいて元に戻る気じゃ! このままでは落ちるぞ!!」
そいつは大変だ。
「どうすんだおい!」
「さっきのやつでなんとかならんか!」
パラソルにそこまでの機能はねぇ! ここ何メートル上だと思ってんだ!
でも今用意できる手段で建設的なものはそれしかねぇ!
「やるしかない!」
頭部の構成が崩れ落ちていくのに合わせ鉄棒を変形させ、せめてもの抵抗としてさっきよりも大きなパラソルを作り出していくのだが、踏ん張りが効かず十分な大きさになる前にずり落ちてしまった。
「いひぃーーー!!!」
「ぬあーーー!!!」
だめだ軽減しきれん!! いくら強度があるからってそもそもこういう使い方じゃないものではどうしたって無理がある。
そのままの速度で投げ出され、それでもなんとかして落下の速度を落とそうとしたが自然の摂理には逆らえずにどんどんと地面に近づいていく。
もうすぐそこまで差し迫ったところで傘を一気に降り下げ、急停止を掛けつつも地面との衝撃的な再会を果たした。
ぶつかるような着地を脚の方から行い、その衝撃が下から上に登るのを感じながらも生存できていることに驚いている。
「めちゃくそ怖ぇ!!」
「まだじゃ! 巻き込まれるぞ!!」
安堵の感情で一杯になっていた頭にミゼルの警告が刺さるように響く。反射的に身を任せミゼルの操作で動く身体を使いさらに距離を取れば、その背後から鳴る重いものが落ちる音が連続して聞こえてくる。異形と化していたその体を構成していたものが次々と崩れていっているのだろう。
崩壊の範囲から退去し改めて一息入れることができた俺は、あの巨体が見事に崩れ去り跡形も無くなっているのを見ることができた。土煙とともに消えていき、中から現れたのは元の人間形態の魔王様の姿。神田橋からの傷は治っているようだが、大量の魔力を使った反動かその姿はからは勇者と戦っていたときの力強さを感じない。げんに魔杖を支えにすることで辛うじて立っていられているようなものだ。
「・・・やってくれたな・・・・・・」
その発言にも覇気はなく、憎々しげな表情にも疲労の色が濃く出ている。よほど電撃が堪えたか、あの巨体を維持するための魔力を生成するための無茶が祟ったのだろう。どう見たって戦えるような状態ではないのが分かる。
「それが目的なもんでね。気に入ってもらえたみたいだな」
「・・・最悪な気分だ」
「それこそやった甲斐があったってもんだ」
こちらも正直戦えるような体調ではないが、ミゼルが密かに回復させてくれているようで徐々にだが身体の自由が戻りつつある。ここで弱気な態度を取らずにいるのもそれを悟らせないようにするためだ。戦えるくらいまで調子を戻すのにはもうしばらくかかる。時間を稼げればそれだけ勝率は上がるのだ。やって損はない。
「どうだい魔王様。ここらで手打ちにしてくれりゃ、今度はきちんと役目を果たすと誓うぜ? 審判として不甲斐ないのは分かってるんでな」
「それが出来れば苦労はないが、またあの男と戦う気はない。あれの醜悪さにはほとほと呆れた。やつに勇者などという役割は果たせまい。ここで引導を下してやる」
どうやらあちらはまだやる気のようで、戦意はまだまだあるらしい。委員長の魔力とやらがどこまであるのか分からないが、こっちがやりくりで頭悩ましてるのに休息なしで連戦できるとか、よっぽど恵まれてやがる。まあそのせいで選ばれてんのは不幸なのかわからんがね。
「そんじゃどうする魔王様? こっちはあんたを止めるつもりで動いてる。別にあいつがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、それに委員長の手を使わせるつもりはねぇぜ?」
「この娘が契約者であることがそんなに問題か? それにしてはなかなか容赦のないことだ」
「特に親しい訳でもないが、その人には殺しなんて似合わん。本人の意思なくそういうことすんのはどうなのかってだけさ」
俺のその言葉に、魔王はニヤリと顔を歪める。それは今までの彼女の表情のなかで一番といっていいくらい悪い顔をしていた。
「---なら聞かせてやろう。こやつの想いを」
ああ、ここでくるのか。
魔王の言葉で、なにをするのかがわかってしまう。
彼女は額にある紋様に手を翳し、それを退けたときには魔王としての人格が抜け、契約者である委員長、前畑 妙子の顔になっていた。
こちらを見る彼女の表情は穏やかで、とてもではないが先ほどまで戦っていた相手を見るようなものではない。
「日駆君、こんばんわ」
いつも挨拶するような態度でこちらに言葉を掛けてくれる。その姿がいつも通りすぎて、やっぱりそうなんだなと、確信を深める。
「ああ、こんばんわだな委員長。いいのかい? 素行不良で捕まっちまうぜ」
「あら、こんな素敵な夜だもの。人目なんて気にしてられないわ」
今夜は特に月がいいわ。そんな言葉を溢すようにして、ここ数日見たこともないような透き通った顔をする。
「一応聞くけど、そうなんだよな?」
「ええ。あなたが考えている通りよ」
なんだ、じゃあ答え合わせは簡単だ。
「あんたのほうが殺る気なんだろ?」
それでも、なんだ、本人確認は大切だろ?
答えてくれよ。
「そう。私はあの子を殺すわ」
変わらない笑顔で、彼女はそう答える。魔王の殺意の源は、意外でもなんでもなく、魔王じゃなくてこの人からのものだった。
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