第二十一話、二人はこんな会話してました
第二十一話です
よろしくお願いします
勇者と魔王はお互いに攻撃を繰り出しながら言葉を投げ掛けることを続けていた。
それは今までの戦いでも行われてきたことであるが、決戦とも言えるこの場で彼らのテンションは爆上がりであった。
本人たちは『中二病チック』ということすら意識することなく、おそらく黒歴史になるだろう台詞を量産していく。あくまで彼、彼女は真剣に戦っているが、あまりにも『らしい』言葉の連続であった
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勇者が主戦力にしているのは、その手に持つ聖剣から放たれる光の斬撃である。
聖剣を振るう度に標的に飛んでいくそれは、縦横無尽に駆け巡り空を大地を切り裂いていく。
「どうだ魔王!」
自分がもたらす破壊の結果には目もくれず、その視界には魔王の姿しか映っていないのではないかというほどの集中力だ。
また一つ斬撃が魔王に直撃する軌道を描いて飛ぶ。眷族の力で強化されているそれは当たればただでは済まない威力が込められている。
「それは些か浅慮というものだ」
その脅威に対し、空中に陣取る魔王は慌てることはない。
弧を描くようにして二発の魔弾を射出し、それぞれが別の軌道で斬撃に向かっていく。
交差するようにして放たれた魔弾は、斬撃を挟み折る形で消滅させる。
威力で勝る相手に対し技量によってその差を埋め、立ち回りで攻撃の頻度を下げて無駄弾を撃たずに済ましている。
「芸が無いな」
これまでも繰り返されてきた展開に、冷めた目で相手を見つめる魔王モーン。
彼女はこれまでで一番弱いと断定できる今代の勇者、神田橋の全くと言っていいほどの成長のなさに呆れていた。
「このくらいはやって貰わなければ張り合いがない」
魔王が手に持つ魔杖から、今度は五つの魔弾が打ち出される。
さらに複雑な動きで勇者に迫る魔弾を勇者は回避することで振り払おうとする。
「・・・!? なんだこれは!?」
一つの魔弾を避けたかと思えば他の魔弾が迫り、その間に避けたはずの魔弾が戻ってくる。
さながら躍るように回避を続けるが、まるで終わりが見えない。
「追尾弾か!?」
「見れば分かることを。やはり愚図だな」
察しの悪さで無駄に体力を消費している勇者のその姿に、魔王は嘲りの言葉をかける。
打開策を閃くのすら遅い。こんな相手でも本気を出して貰わなければ自分の望みは叶わないところに苛立ちを感じてしまう。
その感情を押さえつつも、まだ追いかけ回されている勇者に語りかけを行う。
「どうした勇者よ。その『追っかけ者共』は当たるまで消えんぞ」
「・・・・・・!? そうか!!」
その言葉で魔弾の性質にやっと気づけたらしく、背後にきていた魔弾を、今度は避けるではなく聖剣で斬りつけることで消滅させる。
それを繰り返し、ようやく魔弾の拘束から抜け出した。しかしかなり体力を消耗させているようで、荒い息を吐いては呼吸を落ち着かせることに意識を割いている。もちろんこの時に視線を向けるようなことをこの勇者ができようはずもない。
「理解できないな」
「はぁ・・・はぁ・・・。・・・なんの話だ・・・・・・?」
このままではこちらが攻めるだけで終わってしまうので、休憩させてやることに。その間に今まで疑問に思っていたことを改めて問いかけることにした。
「お前はなぜ自身の魔神から戦術を聞かない? 今の魔弾も、以前の戦いで何度も使っている。対処の方法などいくらでも考案されてきた」
こうして拙い技量であっても、それを補う知識があればここまでの醜態を晒すようなこともないはず。
それをせず、必要以上に困難な戦いをしていることにどんな理由があるのか。
「全力で来い。そうでなければ我が野望、真の意味で叶うことはない」
我が『力による支配』の大願。
それによってもたらされる平穏こそが、あの乱れた世界を正す唯一の手段。
力に目覚めることは自然の摂理。その力をどう扱うかが問題。我が支配は力の暴走を抑え、これ以上の災厄を呼び起こさないためのもの。
「それを否定するお前達を、その全力を、我は打ち砕く」
でなければ大願成就はありえない。さあ、もういいだろう。今度はどれほど舞えるか、試してやろうか。
魔杖を構え直すこちらに、勇者もまた応えるように聖剣を持ち上げる。
「お前は間違っている。人の意思を縛るなんて、そんなことしちゃいけない。そんなことで本当の平和が出来るわけがない!!」
相変わらず叫ぶだけ。理想を語るのなら、実現できるものだけにしておくべきだ。
「それが出来る世界であれば、こんなことをする必要はない。貴様の語ることは『夢』でしかない。目を開けずに現実が見えるものか」
「それでもお前のやり方はあんまりだ! お前の目指す世界じゃ自由なんてないじゃないか!」
「自由だと? 強者にあるのは義務のみだ。力を振るう義務を果たしていない者が自由など・・・笑わせる」
ところ構わず力を振るい、そのせいで起こる戦乱、混沌、恐心の、その災禍を知らないが故の発言だろう。
「お前は『生きる』ということを勘違いしている。規律なき生物は害獣と変わらん。我が支配はあまねく生物の規律となるもの。自由など、我が支配に比べれば価値を持たん」
いつまでも話しておく時間はあるまい。我の理想はお前には重く、理解できはしないのだろう。この戦いをしている間にも戦禍が広がり民草が泣いているのだ。それを分からず喚くか。
「軽いのだ、その考えが」
「・・・っだとしても!!!」
吼え、構えた聖剣で斬りかかってくる勇者。その瞳にはまだ折れていない意思の光が見える。
「契約者の意思すら封じて! 無理矢理に体を使うような奴が作る世界が! 良くなるなんて僕には思えない!!」
その刃にはそれまで放つだけだった光の斬撃を押し止め、一回り大きな剣の形を成している。いわば大聖剣というべきか。
「食らえぇえーーー!!!」
渾身だろうその一撃。今まで以上の魔力が込められているそれは、確かに食らえばこの戦いを終わらせることが出来るだろう。
「僕が妙ねぇを救うんだ!!」
だが、それはやはり、甘いと言わざるを得ない。
「剣を使えるのはお前だけではない」
--剣身よ。あれ--
短い詠唱で紡がれたのは、魔杖を新たな姿に変えるもの。魔王とて一つの武装だけで戦う訳ではない。この魔杖とて、自らの力を効率よく振るうためのもの。その形は魔王の意思でいくらでも変わるのだ。
僅か数瞬の内に魔剣へと変形したその形状は、魔杖の時の意匠を持ちつつも華美な印象はなく、月明かりを鋭く反射する。
勇者のそれと比べ少し小さい魔剣は、しかし。
ぶつかりあった勇者の聖剣を弾き飛ばし、ありありとその強大さを見せつけていた。
「そ、そんな・・・・・・」
衝撃で吹き飛ばされた勇者。彼はその光景を信じられなかった。
今まで自分がやってきたことで、ここまで苦戦したことはない。それでも自分には出来るという思いがあった。
乾坤一擲のこの一撃。自分の今できる全てを掛けた一振りが、ああも容易く吹き飛ばされ、今、彼の心は折れかけていた。
「勝負ありだ。つまらん戦いだった」
そんな姿を見逃す魔王ではなく、魔杖に戻した武装で勇者の動きを抑えるようにしている。幸い近くに聖剣が落ちているが、その隙を作るような魔王ではない。
「終わりだ」
「ぼ、僕は・・・まだ・・・・・・」
ほぼ、決着はついた。
これで審判が勝者を決め、勝敗を決することができればこの世界にいることもなくなる。元の世界に帰還し、本来の目的を果たせる。
そんな考えが魔王の頭を過り、つい意識が逸れた。
その瞬間を狙ったのかは、生憎分からなかった。
「---正道!!」
声が聞こえたかと思えば体に小さな衝撃が。
勇者の眷族になった女が自身の体を拘束しようとしてか、抱きついてきて。
それを振り払ったと思えば、腹部に熱を感じ。
「--貴様・・・・・・」
手を当てて、その赤色がなんであるか理解したとき。
---魔王はその暴威を解放することに、躊躇は無かった。
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