第二十話、異世界タイトルマッチ
第二十話です
よろしくお願いします
蛍川を横に置き、俺は目の前の戦いを眺めていた。
二人の戦いは、はっきり言えばアニメのそれをまさに現実にしたようなものだった。
黄色い光を纏う勇者が剣を振るえば、衝撃が飛び地面がはぜる。
紫の光弾を魔王が放ち、空を切り裂くように飛んでいく。
それぞれが攻撃して避けてを繰り返し、周りの環境を破壊している。
「まじでクソファンタジーじゃん」
そしてマジモンの災害ですわこれ。
「こんなもんが毎夜町中で起こってたのかよ・・・」
「今日は特別気合いが入っとるだけじゃ。さすがのあやつらもそこには気をつけておるわい」
戦闘の開始を告げるため離れてたミゼルが戻ってくる。視線は二人の方に向いているが会話には支障はないみたいだ。
「これで本当にあいつら納得するのか? これ見て改めて思うけど、どっちも負けず嫌いなんだったよな?」
「前にも言ったがこの勝敗がそのまま、という訳にはいかんことはこれまでの経験で分かっておる。もう一戦を餌にして元いた世界に帰ることを最終的な目的にしてわしらは行動するわけじゃ」
「具体的には?」
「勝った方に味方する」
「了解」
「あんたら何言ってんのよ!!」
さすがは経験者、躊躇ないその作戦嫌いじゃないぜ。むしろ叫ぶようにツッコんできた蛍川はなんだというんだ。
「あんたら審判なんでしょうが! どっちかに肩入れするなんてふざけたこと言ってんじゃないわよ!!」
恐ろしい剣幕でこちらに怒鳴る蛍川だが、その発言は的はずれだ。
「なにも戦ってる最中にって話じゃないさ。これの決着が着いて、それでも駄々言う時に対応できるようにするだけだ」
「それでなんでそうなるのよ!?」
やれやれ、こいつはなんて察しが悪いんだ。そんなもん魔神の皆様にスムーズに帰って頂くために決まってんだろうが。
俺は彼女に向き直り、その認識のズレを説明するため話しを始めた。
「いいか? お前らがそっちの魔神にどんな説明されたかは知らないけどな、こっちの世界でドンパチやられりゃそれだけで困るんだよ」
「なにが!?」
「現状見ろよ。目の前だ見えんだろ? あれをこれからもこの世界でやらせるつもりか?」
俺はまだまだ小手調べといった具合で戦闘を続ける勇者と魔王の二人を指差す。蛍川の視界にだってその光景がはっきり映っているはずだ。
校庭は穴だらけで無事な地面を渡るのにも苦労しそうなどの有り様。そこかしこから煙が上がり、なんとなく嫌な臭いもしてくる。
二人が攻めればその回数が地面に刻まれるスコアボード状態だ。
風だってえらいもんだ。
どうしたってあの目にも止まらん動きを繰り返せばそれだけ空気は撹乱され、打ち合えば甲高く響く武器同士の衝突音。それはもはや衝撃を伴うほどのものだ。
「これを、この惨状を、俺はどうにも良いもんだとは思えない。世紀の対決か? そのまま異世界でやっとけって話だ」
どれほど崇高な目的でも、別の世界まで来て決めるこっちゃねぇだろ。こんな形で異世界交流したくなかったわ。
「それは魔王が悪いんじゃない! あっちの世界で悪いことしてたんでしょ!? そんなやつに好きにさせて良いわけないじゃない!!」
「大勢抱えて君主政治するのが悪いことか?」
「当たり前でしょ! 妙ねぇの体乗っ取って戦ってるようなやつが正しいわけがないじゃない!」
ああ、そこがダメなわけか。こいつらから見れば確かに悪者だろうな。そうでなくても散々ヘイトスピーチは聞かされているだろうし、印象は最悪な状態ってことね。
「だからなんだよ」
「え?」
俺の言ったことが理解できないのか、一瞬呆けた顔になる蛍川。分かったときにはその顔を先程より怒りの感情で染めていた。
「あんたフザケてんの!? 妙ねぇの意思を無視してこんなことさせてるのが、悪いことじゃなくてなんなわけ!! 妙ねぇだって無理矢理戦わされて苦しんでるかもしれないんだよ!?」
「・・・本当にそう思うか?」
こいつら、まず前提条件から忘れてるんじゃないだろうな。もしそうなら言ってもいいのかね、これは。
「本当にって・・・それ以外なにがあるっていうのよ!!」
まあ、俺が直接関わるわけじゃないし、こいつらの問題を今まで放置してきたのが悪いんだ。精々悩んでもらおう。日頃の恨みだ。
「神田橋がそっちの魔神と契約するとき、どうやった?」
「え? そ、それは私は見てないから分からないけど、それがなんだっていうの?」
「なあミゼル。契約の仕方は共通なんだよな?」
専門家であるミゼルに質問する。俺の相方は視線を寄越すことなく答えてくれた。
「無論じゃ。書式は違えど契約の仕方は同じじゃ。その辺りはカイエン様が御作りになられたものじゃからの」
「だってよ」
「だから、それのなにが問題なのよ?」
契約のやり方を知らない蛍川には、まず自分がどうやって眷族になったかのほうからおさらいした方がいいらしい。
「ミゼル、もう一個質問。眷族はどうやって作るんだ?」
「あれはそれぞれの魔神特有のものでの。他の魔神のやり方は生憎詳しくはないのじゃ」
「じゃあ蛍川。どうやったんだ?」
「え!? ええとその、あんまし言いたくないというか人に話すことじゃないというか女の子にそういうこと聞くのってどういう神経してじゃなくてえええええーーーー!!!!」
なにがどうしたんだこいつ。まるでさっきと様子が違うぞ。
こいつ特有のものかは分からんが、顔を別の意味で赤らめているみたいだ。これってもしかして・・・・・・
「キスしたのか」
「な、なんでわかるのよ!?」
ビンゴ。ドンピシャだ。
図星を突かれた蛍川は焦ったようにこちらと距離をとる。あまり離れるともしもの時に対応できないのでやめてほしいんだがね。
「そんな態度取られちゃな。分かってくれっていってるもんだぜ」
しかしキスとは。とことん主人公してるなあの野郎。全然羨ましくないのはなんでだろうな。やっぱり人選か?
「あんた、なんか失礼なこと考えたでしょ」
「い~いえぇ。これっぽっちもぉ~」
「ちょっとは誤魔化しなさいよ!?」
愉快な感じになってる蛍川の様子を見るのはそこはかとなく楽しいが、そんなことよりさっさと話を進めよう。
「その感じだとやっぱり契約の仕方は分かんないみたいだし。それじゃ答えを言いましょうかね」
「さ、さっさと教えなさいよ!」
先程の醜態をなかったことにしたいのか、強気な態度を崩さない彼女だが、これを教えてその態度のままでいられるかね。
「それじゃあ説明するが、俺たち契約者はそれぞれの魔神の本体である『教本』を使って契約する。その時にやらなきゃいけないことは、その『教本』の最初のページに手を置いて魔神の問いに答えること。簡単だろ?」
「そう・・・だけど。でも」
「落ち着けよ。この簡単なことでも重要な点があるんだ。その説明をしていない」
ここがまさに話の争点なのだ。しっかり聞いてもらわないと。
激しくなる戦いの騒音に後押しを受けるように、俺は話し出す。
「ここで重要なのは、『契約者』と『魔神』とのやり取りってところだ。この二者の間でなければ契約は出来ない」
「だから「そこでだ」
蛍川のさらなる疑問の声を、俺は絶ちきるようにして言い放つことで遮った。邪魔してくれるなよ。いいところなんだから。
「魔王陣営に注目して考えてみると、おかしなことになると思わないか?」
「それは・・・妙ねぇを魔王が乗っ取っていて」
「そこさ」
やっとこさそこにたどり着いたか。それなら後少しでわかるだろ。さあ、回答していこうじゃないの。
「魔王が委員長を乗っ取っている。これがおかしい」
「でもそれがあいつのやり方なんでしょ?」
「それがあくまで契約をしてからだったら?」
そう。
俺が言いたいことは、そこを起点にしてるんだよ。
「・・・・・・あ、え?」
いきなりの話の展開についていけないのか、彼女はまた疑問を浮かべるだけだ。もう引き伸ばすのはやめて直球で言ってやろう。それでどう思うかは、まあこいつら次第だ。
「魔王に乗っ取られた状態で、契約できる訳がないんだ。見てみりゃわかるが、あの状態の委員長に自我はない。完璧に体を操られている。そんな状態で受け答えができると思うか?」
ないというより眠らされているというのが正しいかもしれないが、まあ表現の差だろう。この事実が言えることは一つだ。ここまでくればこいつも分かったようだが、どうやら認められないみたいだ。
「嘘よ! そ、それじゃあ妙ねぇは自分から契約したって言うの!? 自分から正道の敵になったって・・・・・・そんなわけない!!」
否定を繰り返すように叫んでも、おそらくは事実だろうそれは変わらない。
どんな思惑が委員長にあったかは分からないが、魔王の契約者になるそれ相応のものがあったんだろう。それを成すために、委員長は今まで戦ってきたんだろうと思うと、その覚悟を推し量ることが俺にはできなかった。
「どうやら今回の決着が着きそうじゃの」
いつの間にか止んでいた戦闘の音のかわりに、ミゼルの声が校庭に流れるように響いた。
その声に反応し、人影を探せばそこには対照的な二つの影が土埃に映る。それが晴れ、二人の姿が見えたとき、勝敗が決したのだと分かった。
そこには倒れ込む勇者に、杖を突きつける魔王の姿があった。
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