第十九話、来る決戦の時
第十九話です
よろしくお願いします
それから俺は今夜の決戦に向けて準備を始めた。
家にある分の必要のない金属や、使えそうな物をミゼルに取り込んでもらい出来ることを増やしていく作業に集中して取りかかった。
取り込んだ物に関しては金属製の物であれば『鋼』の容量次第で再現できるらしいので無くなる心配はない。
これで俺は『自転車』を取り込んでもらい、移動手段を確保した訳だ。
しかし、すごいもんだ。
自転車のタイヤをどうするのかと思ったが、まさか『ゴムの特性を持った金属』で再現するとは。
「お前さんやっぱ便利だな」
「じゃが、よかったのか? 言っておくが取り返しは付かんのじゃぞ? 取り込んだものはもう『鋼』としてわしの一部になっておる。返すことはできん」
「いいんだよ。もともと使ってなかったし、今回で終わらせるんだろ?」
「無論じゃ」
「なら構わない。俺は長引かせるつもりはねぇんだ。全力でやってやんよ」
そのためならこのくらい訳ねぇんだ。ふへ、ふへへへへ。
「やってやる・・・俺はやってやるぞ・・・・・・」
「いかんこやつ。闇落ちしておる」
ほーれ目を覚ませい。
ミゼルから放たれた魔導の光によって若干錯乱していた精神が安定していくのを感じる。
「・・・あー、悪い。ちょっとブラック入ってた」
「気にするでないぞ。審判役をするとはいえ、戦いに立ち会うのじゃ。普通の精神でおる方がむしろ心配じゃからの」
まあ確かにそうかもな。人生でこんなことになるなんて考えたことなかった訳だし、なんたって勇者と魔王だ。
一大決戦の目撃者になるわけだ。笑えねぇ。
「早めに行っておこう。世紀の戦いだ。遅れていいことないだろう?」
「よかろう」
こうして俺達は戦いの場へと赴く。さあ、素敵な夜の始まりだ。
◾
「おー、速ぇー速ぇー!!」
「なかなか爽快ではないか!!」
『『イヤッホー!!』』
いいねぇいいねぇ!! ご機嫌だねぇ!!!
こいつはいい!!
取り込んだ自転車で移動していたが、これ自分で漕がなくてもいんじゃね? と思って実際やってみたんだが、これがなかなかいい感じだ。
若干速すぎて制御がしにくいが、それ以上にこの爽快感。癖になりそうだ。
「もうついちまうぞ!」
「かまわんこのままいけい!」
「了解だぁ!!」
学校の外周を囲うように設置されたフェンスを、その手前にある坂道からさらに加速してダイナミックに飛び越える。
着地の衝撃が足を伝うが、今の俺には軽いもんだ。
ドリフトをかまして強制的に停車させた。
「『武装』の検証にもなったか」
「ふふん。わし自慢の一品じゃ」
俺の両手足には今、ミゼルの機能『忌鋼』で構成された防具が着けられている。
「具合はどうじゃ?」
「悪いなんて冗談でも言えないね」
実際これはかなり凄いぜ。
指先から肘、膝を覆うまであり、鈍く光るシンプルなデザインで出来ている。各所にミゼルの紋様が刻まれていてその魔力と同じ青白い光を放っている。
膂力を向上させるばかりか、見た目通り身の守りも固くなるってもんだ。これなら万が一があっても身の安全は保証できるだろうか。
一応警棒も準備しているが、使わないことを祈ろう。
「さーて、そんじゃ。舞台作りといきますか」
「うむ。ではこれを設置していくのじゃ」
そう言ってミゼルが取り出したのは杭のような形状の、特殊な結界を張るための触媒だ。
今まで場当たり的に損壊があった場所を修復してきたそうだが、本来であればこういったものを使って、その中の戦いで傷ついたところを直す手助けをするらしい。
これがあるのとないのとではかなり負担は違うらしく、ミゼルの魔力が少なくなっていたのもそれが原因らしい。
認識阻害の防壁を張り、俺は作業に掛かる。
ミゼルの指示に従い、校庭の隅に杭を打ち込んでいく。そうこうしている内に本日の主役の片割れが来たようだ。
「ほう、愁傷な態度で励んでいるようじゃないか」
魔王委員長こと魔神モーンのご到着だ。まだ戦闘態勢ではないようで学生服のまま、あの痴女的スタイルでの登場とならずこちらとしては安心だ。
モーンは委員長の意識を眠らせたまま、その体を借りて話している。いつもの彼女とはやはり違う雰囲気で、これはこれで絡みづらい。
「一足早いご到着どうもご苦労様。おたくは真面目だねぇ」
「ふん。言われるまでもない。むしろあの者達がこの戦いの意義を分かっておらんだけだ」
「俺こっち応援していい?」
「あかんぞー」
「だよな」
こんだけ真面目なのに魔王してるのってなんか、ズルいな。この魔王が民主主義に則って異世界の主権を握ってくれたら、俺はこんな苦労しなくてよかったのに。
「なあ魔王様よ。ちょっと聞いていいか?」
「なんだ?」
「いやね、俺の感想なんだがよ。あんたの性格って結構統治者向きだと思うわけなんだが、それなのに元いた世界を統一できなかったのかと思って。偏見だという自覚はあるが、力を持った奴等をまとめんのは魔王の役目って認識があるんだよね」
「そのことか。なに、我に従わぬ者達は夢を、いや野望というべきか。それを持っていたのだ」
野望、ね。
「力を持つものの共通の願いは、それによってより高みに登り積めることだ。それは王であったり、時には神になりたいという野望だ。我の統べるところではそれを目指せぬ。なんたって我が頂点に位置しているからな。だが勇者共は自由を説き、その野望を向上心だと肯定した」
その当時ことを思い返すように顔をしかめる魔王。よほど嫌な出来事だったのだろう。苦虫を噛み潰すというのがこれなんだなあ。そんな表情になんとも言えなくなる。
「我が行動するたび奴等が邪魔をするのさ。その度にやりあって本来の目的である世界の安寧を忘れ、奴等は下らん主張をする。『人々から自由を奪うな』とな。その意思がここまで土地を、他の者達の生活を脅かしたというのに」
だから我がやるのだ。
覚悟を感じる言葉とその表情に、やっぱこっち派なんだよなぁ、と思ってしまう。
こいつもそうしなければと考えなきゃならないほどの経験をしたから、契約者の意思を奪うようにして戦うようになったのかもしれない。
それを知らずに神田橋たちは戦うのか。
それきりもう話す気はないのか、こちらから顔を背けてしまった。こちらも作業に戻ると、設置が終わるのと同時ぐらいのタイミングで神田橋たちがやってきた。
「やあ、ようやく決着を着けることができるね魔王」
「来たな勇者よ。お前の言う通り、この世界での戦いは今日で終わることだろう。この勝敗を持って我らの因縁に決着にもなる」
「妙ねぇの体をこれ以上好きにはさせない」
「どのみち勝敗がつけば自由にするさ」
対峙した二人はそれぞれの戦う理由を言葉にし、すでに戦闘が始まりそうになるほどだ。さすがに今すぐ始めてもらってはこちらが困るので、俺は二人の間に入る。
「はいはい。まだおっ始めんでくれよ? 一応審判なんてもんやらせて貰ってんだ。俺たちの方から勝敗の付け方を決めさせてもらうがいいな?」
ミゼルに呼び掛け前に出てきてもらう。こいつは今までこの対決を何度も見てきているのだ。納得はしてもらうぜ。
「では魔神たちよ。出てきて宣言せよ」
それを合図にして二人からそれぞれの魔神が現れる。
「よし。ではこれまでの戦い通りの規則でこの戦いを執り行う。全力を持って戦い、その勝敗を覆すようなことをせぬように。また、今回は勇者側に眷族がおるが、これの参戦を認めず、あくまで一対一の戦いであること。これを守るのであれば『見定めし祭壇』魔神ミゼルの名においてこの決戦を取り仕切ろう」
「『支配せし大願』魔神モーン。承服しよう」
「『勇ましき証明』魔神レイ。かしこまりましました」
「ではこれを持って決戦の開始とする。始めよ!!」
俺は蛍川を下がらせつつ、その戦いが開幕するのその瞬間に意識を集中させた。
主役たる二人はその体を光で包み、それぞれの戦闘態勢に移っていく。
そして光が晴れ、一拍をおいて二人は相手に向かって攻勢をしかけた。
異世界の戦いが、こうして始まったのだ。
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