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日常

第二話です

よろしくお願いします

 パッと目覚めた。

 初めに疑問に思ったのは、自分がどうしてこんな所で起きたのかと言うことだった。

 

「・・・・・・なんでだ」

 

 昨日の夜は確か、月を見ようとして・・・・・・、

 見ようとして、どうなった?

 

「思い・・・出せない・・・?」

 

 でも、こうして俺は部屋を出て、床で寝ていた。ということは、部屋に何かあった、のか?

 空いた扉から部屋を見てみる。

 パッと見、どこか変わった感じはない。

 

「何があったってんだ」

 

 立ち上がって部屋に入る。身体に違和感はない。むしろ今までで一番爽快な目覚めですらある。だからこそ、おかしい。

 改めて部屋を見渡してみる。

 窓、ベッド、本棚、勉強机。

 何も、変化なし。

 掃除だってこまめにしていたから綺麗なもんで、目立つようなゴミならすぐさま捨ててる。

 

 が、しかし、

 

「木屑、だよな」

 

 そんな部屋に限ればあり得ないことにそれは存在していた。

 

「どういうこったよ」

 

 何かがあったことは確かだ。だがそれに、自分は全く心当たりがない。快適な目覚めとは裏腹に、気分は最悪だった。

 

「勘弁してくれよ」

 

 そんな気持ちとは関係なく、時間というのは過ぎていくもので。

 ジリリリリリリリリリリリリ、と。

 登校を呼び掛けるチャイムは鳴り響くのだった。

 

 手早く朝食を用意しにかかる。昨日の残り物である肉野菜炒めを二枚のトーストにいい感じに盛り、その上にチーズを乗せてトースターにイン。後は焼くだけぇ、てな感じの簡単朝食レシピだ。

 焼き上がりを待ちつつスマフォをいじる。なにかさっきのことに繋がる情報はないかと探すがどうにもめぼしいものはない。

 

 チーンという音が鳴り焼き上がりを告げる。思考を一旦切り替えてトーストを確保する。うむ、よい焼き

 加減である。

 豪快にむしゃり。ふむ、なかなかにうまし。

 

 二枚目もペロリと平らげ、さあじゃあ行くか、学校。

 

 

 ◾

 

 

 朝の異常に後ろ髪を引かれつつも、俺は自分の生活を続けるため電車に十五分ほど揺られ、歩きで五分のところにある我らの学舎、尾井上おいがみ高校へと歩を向けていた。

 それなりに歴史があるというが俺にとっては立地がよく、小綺麗なところだということと少々騒がしい以外は感想に困るだろう。そんなことを聞かれる機会があればだが。

 下駄箱で靴を履き替え、二年一組の教室を目指す。廊下が少し長いのが不満だ。距離だけで言えば三組がよかった。

 三十人少々のクラス、窓際真ん中、もう少し後ろなら小説の設定のあれやこれやで思考するのも楽しかったろうに。

 俺の登校時間は運動部には遅く、普通よりかは早い。あまりクラスのやつらに遭遇したくないのが理由だが、こんなやつに絡んでくるほうも稀だろう。教室内は誰もおらずバックの類いがちらほら机に置いてある。係りの仕事にでも行っているのだろう。

 いつも誰かの声があるここに、風や木、葉の擦れる音で満ちている。なんとも貴重な時間を過ごしている、そんな感覚がまたなんとも言えなかった。

 さて、そんな感慨深さもそろそろ終わるだろう。もう少しすればあいつが来るだろう。騒がしい、稀なタイプの人間が。

 

「おっはよ~ん、そうちん元気かにゃ」

「お前がもう少し静かにしてくれればもっと元気さ」

「もう~、またそんなこというし~」

 

 現れたのは小柄な男子。後ろ髪を小さくまとめ、全体的につんつんとした金髪をしている。俺より頭二つ下で旋毛が見えるくらい。驚くべきことにこれで可愛い系の顔面をしていやがるのでモテにモテる。こいつの周りにはそれはもうキャーキャーと女子が群がるので、耳に響いて気分が悪くなるもんだからあまり近寄ってほしくない。

 俺の何がそんなに気に入っているのか、こっちの姿を見かければ所構わず声を掛けてくる。そのせいか俺に対する女子にヘイトが妙に高い。

 

「今日はどうしたの~、なんかお悩み~?」

「・・・・・・わかんのか」

「ま~ね~、いっつも見てるし」

「怖いわアホウ」

 

 ぺしっとチョップを頭に落とす。

 

「うわ~ん、いた~いよ~」

「言動を考えろ、言動を」

「むぅ~」

 

 たいして痛くもないのに大袈裟なものだ。こういった所作が女子に人気が出る由縁なんだろう。正直近くでやらないでほしい、どこで女どもが見ているかわからないんだからな。

 

「天道、お前三組だろ。わざわざこっちまでくんな」

「あ~、名前で呼んでよ~。貞虎ってさ~」

「だったらお前もそうしろ。俺の名前は蒼一だ」

 

 俺の名前は日駆かかり 蒼一そういち

 天道てんどう 貞虎さだとらの友人的存在。

 男子からは「天道係」、女子からは「天道虫」と呼ばれる俺は、静かに暮らしたいだけの男だったりする。結構真面目なことに。

 だからこの状況は、あまり歓迎できない事態なのだ。

 騒々しいのは気分が滅入る。だから俺の学校生活は楽しくないことが多い。

 

「そんで~、な~にがあったの~?」

「・・・・・・今朝ちょっとな。そこまで気にすることじゃない」

「そうなの~?」

「ああ」

 

 そんじゃきかな~い、と軽い調子で次の話題に入ろうとする。まあ今の時間帯ならもう少し雑談をしても問題ないだろう。

 

「そういえば、あいつらまた振り切って来たのか?」

「あの娘達か~、・・・・・・ん~そうだね~」

 

 こいつの熱烈なファンの中で、狂信的な三人組がいる。正直ストーカーだと思っているが本人達にその認識はないらしい。

 曰く、愛の行為。

 曰く、信仰心。

 はっきりと言って頭がどこかしら不味いことになっているのだろう。まわりの迷惑を省みることなく行動するその姿はかなりムカつく。その被害の約七割は俺に来ているのだからな。言って聞かせてもどうにもならないので度々逃走劇を繰り広げたり撃退したりしている。

 最近は頻度が少なくなっていたがおそらく布教活動でもしていたのだろう。これからの脅威に今から憂鬱だ。

 

「一度はっきり言ってやった方がいいんじゃないか?手を貸すぞ?」

「悪い娘達じゃないんだけどね~。できれば手荒な事はしたくないんだよね~」

「お優しいことで」

「君ほどじゃないかも~」

「センスの悪い冗談だ」

 

 三人衆の襲撃に巻き込まれるごとに双方無傷とはいかない事態になることがある。周りに被害が広がることも。その火消しのために動かざるを得ない事態になるのだ。ふざけんなちくしょう。

 あいつらのために動いているわけねえだろ。そうしないとどうしようもなくなる。俺の日常がだ。だからやったに過ぎない。それを優しいなどと誤解されているとは。

 

「泣きたくなるな」

「強く、生きろ」

 

 さて、もうぞろいい時間だ。このやりとりもおしまいにするべきだな。五月蝿いやつらが集まってくるしな。

 

「そろそろだ天童。教室戻れ」

「そだね~。んじゃ、ばい」

 

 てけてけてけ~、と駆けていく。また女子どものマスコットとしてやっていくことだろう。頑張れ。

 さあ、俺も壁際の住人になろう。必要なときに役を演じる。生活をスムーズにするにはそういうことも大事だ。ちなみに三人衆の対応についてはほとんどのやつは知らない。あいつらも外面は大事なんだろう。その内面を知るものは信者に限られる。

 

「勘弁してくんねぇかな」

「あら、なんの話?」

 

 思考がふっ、と漏れてしまっていた。

 普段ならそんなこともないだろうに。わからんうちに疲れがたまってるんだろうか。朝からだもんな。なんか変だもんな。

 だからだろう、いつもなら起きないことが起きたのは。

 俺に話しかけてきたのは、ありふれた日常というやつからはみ出した人物であった。

 

 

 


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