第九話、準備して
第九話です
ようやく話が進んでいきます
よろしくお願いします
さて、無事天道からの贈り物を手に入れた訳だが、これを持っていて周りの人に不審がられないかという疑問を持つものもいるだろう。
その点に関してはこの曇天模様の空を見てもらえればそこまで怪しく思われることもないだろう。
まあなぜ二本も?、という別の疑問があると思うが大丈夫だ。
実は以前よりこの場所には、俺が傘を二本置いていただけのことなのだ。それを天道に頼み、まるっと取り替えておいたのさっ、ということである。
どうやって犯人に気付かれずにブツを手に入れようか考えていた時、ここに置いたままの傘の存在を思い出し、こいつに隠すことで目的を達成したわけなのだ。
というか、そろそろこれを傘と言い張るのはよそう。
それとなく周りを警戒しつつ、なんとか無事に帰宅することができた。玄関にも特に変化はない。一応安心していいだろう。
開けていた扉をすぐさま施錠。その他の部屋も見回り、窓の鍵を確認し、しっかりと閉める。
ここまでやってやっと一心地つける。
一旦玄関に置いておいた傘を一本、もう一度手に取る。
傘というその偽装を剥ぎ取り、こいつの本来の姿をあらわにさせた。
鈍く光るメタリックの棒芯、黒い持ち手から伸びるそれは特殊な合金が使用され、手荒く扱うことを前提に設計された高耐久性を持つ警棒だ。もう一つの特徴として、三段階に調整された電圧を放つスタンバトンでもある。『峰打ち』、『一閃』、『切り捨て御免』、といった具合で上がっていく威力に、この名称を考えたヤツは武士マニアであった可能性がある。
もう一本のほうも元の姿に戻し、両手に持って軽く素振りを行う。こういった警棒を使うのは初めてだがなかなかしっくりときている。次は付属のグローブを着けて振ってみた。持ち手に接する面に補強がしてあり、グリップが効いていてスッポ抜けるようなこともないだろう。
「よし、なかなか良い感じだ」
特殊電磁警棒『雷獣』
一本でも十分なこれを今回は特別に二本、万全に犯人撃退をするため用意してもらった。
これを用立てるのに通常であれば数万から十数万は掛かる。いくら借りがあるとはいえこんなものをポンと渡してくれるとは、流石は大企業、警備部門において世界でもトップクラスの業績を誇る天道グループだ。正直言ってあのときはそんなこと知らずにいたからな、後で正体を知ってかなり驚愕したものだ。
使い心地にある程度満足した俺は警棒を隅に置き、今度は偽装に使っていた傘の布地から親骨や受骨、露先を取り除いて傘布だけの状態にした。円形状になったそれをさらに分解し、鼻から口元を覆うマスクのような形状に作り直していく。
これが天道に頼んでいたモノその二、防護マスクである。
犯人はなぜかわからないが俺の意識を絶ってからことに当たっているらしい。催眠ガス等の可能性を考えた結果、どこまでその範囲に入っているか知らないこちらとして元から吸い込んでしまわないようにするほかない。そのために用意してもらった代物という訳だ。
これで一通り装備の確認はできた。
後は相手がどんな方法で侵入してくるか、それをどうやって察知するかが問題だ。
これに関しては幸い、家の中にあるもので対処ができそうである。とはいっても素人の考えたことだ、完璧には程遠いだろう。
相手の今までの行動からすると、こちらの意識を絶つために何かしらをしてから部屋に侵入してくる。となるとまずは部屋の窓、扉が警戒対象になる。まずなにかしらのアクションはあるだろう。
次に俺の部屋に来るまで、どういったルートで来るのか。
二階にある俺の部屋に来るまで、できれば最短で来たいはず。となると、窓から直通が最有力。この場合は梯子を使えば行けるだろう。 次点で玄関。これもなんらかの手段で鍵を開け侵入、そのまま部屋へGOといったところではないか。
あまり考えたくはないがその他の部屋、窓からの侵入だと警戒しても手がつけられない。単純に候補が多すぎる。
以上の点を考慮し、秘策その三、強盗チェッカーの設置場所を決めた。ちなみにこれは父親が職場でもらってきたもので、こういった貰い物が倉庫部屋に溢れている。
二つの部品に分かれ、設置した場所から窓が開けられるといったことで一定以上距離が開くと、親機のランプが青から赤に変わるのだ。
これが三台、三ヶ所に設置できる。侵入をしてくるであろう自室の窓、扉、玄関、この三つにそれぞれ取り付けた。
いろいろと考えてはいたが自分の手を出せる範囲で出来ることはこんなことぐらいだった。正直言ってこんなことで本当に対応できるのか、少々自信がない。監視カメラくらいは用意できないかとと思ってはいたが、行動を見られているかもしれないことを考えると迂闊なことはできなかった。なんせ相手は意味不明なことを繰り返すようなヤツだからな。
今回俺は敢えて犯人を侵入させるつもりでいる。
理由としてはこちらが相手を見つけた際、咄嗟に逃げられるのを防ぎ、確実に取り押さえるためだ。
家に入れず不審がられるよりも、いつも通り行動をさせ油断してくれればそれだけこちらは助かるのだ。
こちらがある程度備えているのはこの一週間であちらも知っているはず。学校でのことを知らない限り、いつも以上の警戒をしているとは気づけないと考えてはいる。
あとは待つのみ。勝負の時は深夜である。
◾
出ていた課題を早々に片付け、早めの夕食をテレビを見ながら食べていた。
犯人がいつからこちらの様子を探っているかわからない以上、できるかぎりいつものように行動するべきだが、さすがになにもしない訳にもにもいかない。
深夜に向け体調を整えるべく夕飯は胃に優しく消化に良い、すぐにエネルギーになってくれる炭水化物であるパスタ、お湯で戻すお吸い物で和風に仕上げた。コンポタ、豆類中心のサラダなんかで脇を固める。
食事が終われば少しばかり休息を挟み、風呂に入る
なるべく体を暖め過ぎないよう気を付けながら半身浴をし、頃合いを見て肩まで浸かり一息分時間を置いたらすぐに湯船からあがる。
しっかりと体の水滴をタオルで落としていく。
浴室から部屋に上がり、身体を解しながら籠った熱を徐々に冷まして運動に最適な状態にしていく。精神安定のために最近手に入れた雨の音を部屋に掛け、落ち着いた心持ちで挑めるように集中を高める。
「・・・ふっ、・・・ふっ」
吐く出す息を意識しながら徐々に徐々に間接や筋肉の固くなっているところを柔らかくしていく。
身体の具合もちょうど良くなってきたので柔軟運動を取り止め、ついに行動を開始した。
まず。就寝するまでの残り時間、いつものように部屋の明かりを消し周囲の音に耳を澄ませている。という体で部屋の中から出る。この一週間カーテンは閉めっぱなしだったので中を見られることはないだろう。
部屋の扉に設置したセンサーを起動させ、別の部屋に置いていた道具と共に待機する。ここは自分の部屋からは死角になっており、その上階段の正面に位置している。どちらから入ってこようと対応できる位置取りだ。
さて、と。
意気込んでここまで準備を重ねたわけだが、未だに不安感が胸の中で重くのし掛かっている。チャンスは一度、捕まえられなかった時のことを思えば自然と呼吸が乱れ出すのがわかった。
センサーの変化に目を凝らし、耳を澄まして外の物音を探っている内に時間は刻々と過ぎ、草木も眠るような深い夜へと世界は変化を遂げていた。
もうすぐ。
もうすぐ来る。
緊張から一秒に刻む鼓動が速くなっていく。
自然と拳に力が入り出す。
グッ、と握り込みそうになるのを我慢して指を一本づつ解す。
万端の準備とは言えないそれを繰り返しながら、しかし---
---予想を遥かに越える形でそれは起こった。
ド---、ガァァアン!!! という音が響いたのは家全体に走ったであろう衝撃のあとにやってきた。
「---っっく、っかほ、・・・--ぁが・・・」
まったくといっていいほど予期できなかったそれを受け、背中から壁にぶつかり声も出せない。混乱する頭でもなんとか起こったことを確認しだす。
「・・・--っな、・・・なに・・・が」
なかなか押さえられない乱れた呼吸を無視し、とりあえず隠れていた部屋から廊下へ這い出した。
顔を上げその光景を見た瞬間、まず自分の頭を疑った。
そこにはほぼ全壊状態の自分の部屋の姿があり、廊下に溢れるようにその残骸が散らばっている。
大きく壁をぶち抜いたような形で外が見えるようになっており、この季節特有の生温い風に乗って煙のように埃が舞い上がっている。
そして---
---そんな景色の中で、外からこちら側を見ている存在がいた
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