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本当は怖い日本語  作者: 瀬戸内残月
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かくれんぼ

昔の子供たちには、ゲームやスポーツなどありませんでした。それでも、いつの時代でも子供は遊びの天才です。身の回りのあらゆるものから遊びの種を見つけ、工夫し、ルールを決め、みんなで楽しく遊びました。


そんな子供たちの遊びの中には、まわりの大人たちの姿や日常の生活を見て、その行動や習慣を真似ることから生まれた遊びがたくさんあります。


いつの時代でも、子供は大人の姿を真似るものなのです。


昔の子供達はそうやって、社会のルールや習慣、罰則などを、友達同士の遊びの中に上手に組み込み、それを少しづつ経験しながら学んでいきました。


おままごとがその最たるものですが、かくれんぼもそうした遊びの一つです。


中世の時代の男女には自由恋愛などありません。その時代の日本の婚姻の形は、妻問婚と呼ばれる形態で、男が女の元に通い、女がそれを許せば婚姻に至るという実におおらかなものでした。


これを「ヨバヒ」と言います。この言葉にはその後「夜這い」という漢字が当てられ、その風習は地方の山村などでは昭和の前半ぐらいまで残りました。


なお、身もふたもない話しですが、夜這いが成立するかどうかはその娘の親が決めます。


親が子供の寝床の窓の鍵をわざと開けておき、村の若人が夜中にその部屋に忍び込むのですが、親のお眼鏡にかなう若者であればそのまま放置し、そうでない者が入り込んできたらすぐさま叩き出しました。


見ず知らずの者が入り込むなど今も昔も単なる犯罪です。


当たり前の話ですが、たとえ夜這いであっても、当事者同士は以前から顔見知りで、かつ親同士も公認の場合に限ります。つまりそれは、大昔の風習からつながる儀式イベントのようなものです。


さて、そんな中世の牧歌的なヨバヒに対して何ともロマンチックな情景を思い浮かべる方もいるかと思いますが、それも大きな勘違いです。


中世の時代においては、相思相愛などというのは希で、多くの場合、娘の相手は親の都合で半ば勝手に決められました。そこに女性側の好みや個人的感情が入り混む余地はありません。


あくまでも、その家にとって都合が良いかどうかだけで相手が決められました。つまり、女性はその家を発展させるための道具でしかなかったのです。


夜這いという文化は、男性の目線で見れば、自由で牧歌的な雰囲気を感じさせますが、女性の目線から見れば何の希望もありません


男性の目線だけで成り立っている社会というのは世界の中には未だに多く残されていますし、日本の中世の時代もそういう社会でした。


さて、話は飛びますが、ストーカーというのは一種の精神的な病です。そしてそれは、現代になって突然生まれたものではありません。


男の方から女性に対して一方的に恋愛感情を抱き、拉致同然でさらっていくという行為は昔からたくさんありました。神隠しなどという言葉がありますが、それは神秘的な出来事でも何でも無く、単なる拉致・誘拐です。ただ、そのように考えないと、親として諦めがつかないわけです。


前段で、中世においては女性は道具であったと書きましたが、もちろんそのような家庭ばかりではありません。男であろうが、女であろうが、おなかを痛めて生んだ我が子に幸せになって欲しいと願う親の気持ちはいつの時代でも変わりません。


親としてはどこの馬の骨ともわからない破落戸ならずものに大切な娘をさらわれたらたまりません。


しかし、現代社会とは違って、警察などありません。自分たちで自衛するしかないのです。ですから、年頃の娘がいる家では、かまくわなど、身を守るための道具をそばに置いて寝ました。また、異変を察知できるように、庭では鶏を飼い、馬小屋の近くに寝床を構えました。家族みんなで大切な娘を守ったのです。


しかし、親もずっと娘のそばにいるわけにはいきません。家族みんなが生きていくためには、薪まきを拾いに森に行かねばなりませんし、水を汲くみに川にも行かねばなりません、食べ物を手に入れるために畑にも出ねばなりません。鬼であるストーカーは、そういう時を狙ってやってきます。ですから、そういう時には、娘を家の中に隠してかくまいました。そんなとき、娘は、土間どまの隅や、軒下《のきしたなど、暗い隙間に隠れ、震えながら親の帰りを待ちました。


暗い部屋、探す鬼、隠れて震える娘。そんな村の様子を見て、子供たちは無邪気な遊びを生み出しました。ゆえに、隔恋慕かくれんぼです。


 …○○ちゃん、みぃつけた。

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