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ほっとけない女神  作者: 常葉ゐつか
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初めまして、ヒロインです


「結倉まりかと申します。これからよろしくお願いいたします」 

 無難に挨拶したつもりだったけれど、ちょっと堅苦しかったかな。

 そう思いながらわたしは教室の黒板の前に立ったまま、席に座るクラスメイト達を見やる。

 水町先生とともに教室に行くと、そこにはもうすでにクラスメイトたちが教室に揃っていた。そして、なぜかそのままわたしは編入生としてみんなの前で自己紹介をすることになった。

 何の面白みもない自己紹介をしたわたしに、教室全体の視線が集中しているのをビシビシと肌に感じる。

 うう。なんていうか、新参者って良くも悪くも注目されやすいんだよなぁ。特にここって中高一貫教育だから、もうある程度関係性って出来上がっているだろうし。

「それじゃあ、えーっと空いてる席は……、深沢ふかざわさんの後ろ、そこ空いてる? じゃ、そこへ結倉さん」

 そう促されるまま、わたしは窓際の列に一つ、ぽつんと存在する空いた席へと移動した。

 端の列の前から三番目。

 ゲームでも思ったが、なぜこんな中途半端な席が空いているんだろう? ご都合主義ってやつなんだろうか?

 そんな疑問を頭に抱きつつ空いたその席へと着席する。

「私は深沢弥生(やよい)。これからよろしくね、結倉さん」

 席に座ると前に座っていた長い黒髪の楚々とした美人がこちらを振り返り、にこりと上品に微笑み掛けてきた。

 それにわたしは「よろしく」と愛想良く返す。


 ピコンッ!

≫深沢 弥生 ふかざわ やよい

≫私立叡ノ森学園高等科・2ーA女子生徒


 おう、またか。いい加減にしろよわたしのゲーヲタ脳。

 そうなんです。主要キャラ達と会うと、ゲームのときはこんなふうに、その人の簡単なパーソナルデータが表示されたのです。

 ちなみにこの深沢さんという女子生徒は、ヒロインのお助け役。いわゆるサポートキャラという役割をゲームでは担っていた。ただし、ある攻略対象キャラを攻略しようとすると……という隠し要素あり。さすが『EdgeCompany』、一筋縄じゃいかないぜ。

 深沢さんが前を向くと、すかさず今度は隣の席の男子生徒が話し掛けてきた。

「オレは土屋つちやひろむ。困ったことがあったら何でも言ってね」

 色白の小作りな顔に、人形のように美しく整った繊細な顔立ち。長い睫毛に縁取られた大きな黒い瞳が印象的な美少年が、そこにいた。やや中性的な容貌を持つその彼は、その円らな瞳を好奇心に輝かせてこちらを見つめている。


 ピコンッ!

≫土屋 弘 つちや ひろむ

≫私立叡ノ森学園高等科・2ーA男子生徒


 はい、主要キャラです。というかぶっちゃけ攻略対象キャラです。ちなみに攻略難易度は全キャラ中一番低く、比較的落とし易いキャラだったりする。

 続けて土屋くんは自分の前に座る男子生徒をこちらへと向けさせ、その男子生徒のことも紹介してくる。

「こいつは火野ひのたける。こいつもオレも、弥生と幼なじみなんだ」

 そう紹介された男子生徒はわたしと目を合わすと、「おう、よろしく」と快く笑った。

 健康的な肌の色に、凛々しい顔つき。天然なのか、髪の毛と勝ち気そうな瞳は両方とも茶褐色だった。


 ピコンッ!

≫火野 猛 ひの たける

≫私立叡ノ森学園高等科・2ーA男子生徒


 はい、こちらも攻略対象キャラ。難易度は下から二番目で、土屋くんの一つ上だ。

 あ、ついでに言っちゃうと、担任である水町先生の難易度は結構高めなほうだったりする。まあいっても大人ですからね。

 そんな美丈夫二人に、わたしは「どうも」とだけ軽く返すと、ささっと前に向き直った。

 教室の前では水町先生がこれから行われる始業式について説明をし始めている。

 愛想悪くてごめんなさい。でもねぇ、この二人ってホント微笑んだだけでも好感度上がっちゃうような人達なんだわ。いわゆるニコポキャラってやつですな。

 ふぅ、ヒロインざまぁ回避回避っと。

 そう思いつつ水町先生の話しを聴いていたら、不意に後ろから声が聞こえた。

「まさか、あんたが“まりか”だとはねぇ」

 え?

 後ろの席から放たれたその言葉と声に、わたしは一瞬頭の中が真っ白になる。

「でもまあ、あたしよりかは適役かな」

 固まって動けないわたしの背中に、さらに言葉が投げ掛けれた。わたしは耳に届くそれを、黙って受け取るしかない。

「ね、“りっちゃん”」

 わたしを、わたしのことをそのあだ名で呼ぶ人は世界でただ一人しかいない。

 わたしは恐る恐る、ぎこちない動きで後ろを振り向いた。

 まさか、と、もしかして、の感情がぜになったまま、わたしは後ろに座る人物を目に映す。

 声に出して、その名を呼んだ。

「サッ、キー?」

 振り向けば、そこには三日月型にきゅっと細められた両目と、左右の口角がくいっと吊り上げられた唇。

 姿形が変わっても、その皮肉めいた笑い方はどうやら変わらないみたいだ。


「また逢ったね。りっちゃん」


 そこには前世の親友が、悠然ゆうぜんと後ろの席に座っていた。

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