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8 ラブレターをもらいました

(言えない……

 一週間以上、予約投稿し忘れてた事に気付かなかったなんて言えない……)

 えー、突然ですが、嫌なお知らせがございます。



 実は私の友人、お婆ちゃんが最近いじめ被害にあっているのであります。それも、陰湿で過激ないじめです。


 ぶっちゃけ、ホント、マヂ許せないし! 激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだよ!





 事の発端は分からない。

 いつ頃からかは分からないけれど、たぶんモブオと付き合う少し前くらいだろう。


 先日、大量の漫画本を売るお婆ちゃんを目撃した時は気づかなかった。だが、なんとなく嫌な予感がしたから調べてみたら、このザマだ。

 すぐさまお婆ちゃんに詰め寄ると、渋々いじめに関して認めた。しかし、私が解決しようと提案するよりも前に『絶対に手を出さないでください』と釘を刺されてしまったのだ。

 意味が分からない。何故、助けを拒むのかが分からない。


 そもそも、考えてみるとお婆ちゃんはいじめについて私に隠そうとしていた節がある。

 そのせいで私がこの事を知る頃には、かなりエスカレートしていた。具体的に言えば、お婆ちゃんが廊下を歩くだけで見ず知らずの生徒にクスクスと笑われたり小突かれたりする。

 どうやら根も葉もないお婆ちゃんの悪評が学校中に広まっているらしいのだ。

 …………友達超少ないから知らなかったよ。




 錵部小糸が悪役令嬢をするゲームでは、主人公を攻略キャラが助けるのだが、何故かこの世界では攻略キャラが動く気配は今のところ無い。

 それどころか、風紀委員や教員達も動かない。


 ……分からない事だらけだ。

 でも、私はお婆ちゃんを助けたい。それが友人というものだろう。


 さて、露骨に助けたらお婆ちゃんは嫌がるし、どうしたら良いものだろうか…………






「錵部さん、おはようございます」

「あ……ご機嫌よう」



 哲学書に偽装したラノベを読みながら、お婆ちゃんの事について思案していると、当の本人が登校してきた。

 いや、たぶんもっと早くに登校していたはずだ。きっと、イタズラされたアレコレを片付けてから来たのだろう……


 それにしても、本当にいじめられているのかと疑ってしまう程に、表面上は普通だ。私にいじめがバレた後でも、こんな風に振る舞えるなんて、ある意味すごい精神力だと思う。


 でも私は知っている。靴をイタズラをされないように、カバンの中に入れている為に荷物が多い事を。教科書の落書き対策で、ノートに内容を書き写している事を。


 何故、頼ってくれないのか。

 何故、いじめを解決しようと差し伸べた手を、払ったのか。


 何故、と疑問は尽きない。しかし、お婆ちゃんは決して答えてくれない。

 なら、解決策すらない今は、せめてお婆ちゃんの望むように“知らんふり”するしかない。

 ……これで良いはずがないのは分かっているのに。





「ねえ、聞いてます!?」

「……へ!?」

「やっぱり聞いてなかったんですね」



 や、やめておくれ!

 そんなジト目を私に向けないで!

 可愛らしさに嫉妬しちゃうから!



「ごめんなさい。

 それで、何の話だったかしら?」

「だから、錵部さんは彼氏をつくらないのか、って話ですよ」

「あ、ああ、彼氏ね。彼氏、カレシ…………

 彼氏!?」



 ナニユエ!?

 私がテキトーに相づちをしている間に、私たちはどんな会話をしていたのよ!?



「お婆ちゃん、視力大丈夫?

 私の顔、ちゃんと見えてる?

 それとも、どこかで頭をぶつけたの?」


 ゴリラ顔だよ?

 恋愛から程遠い顔だよ?



「素面ですよ。

 顔よりも性格だって男の人も絶対にいますよ。錵部さん、性格は良いですし。

 誰か気になっている人いないんですか?」



 ああ、何で恋愛トークをする女子高生の顔は輝いているのかしら。

 いや、私も一応女子高生なんだけれども。



「お婆ちゃん、顔よりも性格を選ぶ男だって、結局は顔を見ているのよ」

「え? 顔よりも性格って言っているのに?」



 小首を傾げるお婆ちゃん。



「性格を重視すると言っても、それは相手が人間だからであって、例えばウシガエルと恋愛できないでしょう?

 そのウシガエルが人の言葉を話せて、とても理想的な性格だったとしても」

「あー……ウシガエルとは流石に……

 でも錵部さんは人間じゃないですか」

「あのね、男の言うこの“人間”てのは、自分の理想の顔をした人間を指すのよ。

 人間の顔を想像してみなさい、と言われて不細工な顔を想像しないでしょう?」

「そりゃあ、そうです、けど」

「つまり『俺は顔よりも性格を重視するんだゼ!』とか言っている男も、結局は顔を見ているわけ。

 理想とする想像上の顔にどれだけ近いか、そしてどれだけ性格が良いか。相手を選ぶ基準を二つも設けている時点で、顔だけで相手を選ぶ下半身思考男よりも性質(たち)が悪いわ」



 したがって、顔も性格も悪い私がモテるなんて事はありえない。ありえないんだ……

 偉そうにお婆ちゃんに話したが、思いがけぬブーメランになってしまった……



「うーん、でも錵部さんなら、きっと誰か良い人と巡り会う気がしますよ?」



 皮肉も何も感じられない純粋な笑顔で言われた。

 眩しすぎて某大佐じゃないけれど、目が潰れちゃいそうなんですけれど……



「……あ、そろそろ先生が来る時間なんで、わたし、席に戻りますね」

「ええ」



 本当に、なんでこの子がいじめられるのだろう…………

 お婆ちゃんと話している間は楽しいのに、お婆ちゃんの後ろ姿を見ていると、そんな思いばかりが浮かんでくる。





 そんな日々の中に、転機が訪れた。

 いじめ問題に頭を悩ませつつも、何の進展もないまま数日が経過した、ある日の事だ。

 私が登校すると、下駄箱に可愛らしい封筒が入っていた。女子特有の丸みのある可愛らしい文字で“錵部様へ”と書かれている。

 ……見紛う事なきラブレターです。ハートのシールで封をされているし、絶対ラブレターだコレ。


 ゴリラ顔で過ごしてきて十七年。初めてラブレターをもらいました。

 これがモテ期ってヤツですか?

 封筒からして女子からだろうけど、この際、女の子同士でも問題ないよね?



『錵部さん……下駄箱に入れた手紙、読んで頂けましたか……?』

『ええ、読みましたわよ』

『それで……あの……』


【可愛らしい女の子が頬を染めながら言いかけた言葉は、私の人差し指によって遮られた。その指先は相手の口の上に優しく乗っている。】


『言わないで頂戴。言葉にすると安っぽくなっちゃうわよ?』

『……に、錵部さん!』

『女の子!』


【涙を少し浮かべながら抱きしめ合う私たちは、この日カップルになった。

 女の子同士だって、きっとやっていける! 私たちの愛は本物だ!】



 などと、妄想しながら封筒を開ける。

 やだ……ドキドキしちゃう……

 いじめに悩むお婆ちゃんには悪いけど、人生初のモテ期には逆らえないよ……ごめん……



 ああ……どんな事が書いてあるんだろう……

 情熱的な娘かな? それとも大人しい娘? いや、変化球で――――

 ふるふると震える指先で、内封されていた手紙を開く。



“錵部小糸

 放課後、校舎裏まで来い”



 手紙には無駄に達筆な文体で、そう書かれていた。


 ……なにこれ。封筒と手紙の内容が全然違うんですけど。

 ラブレター風の果たし状? それとも果たし状だと思わせておいて、校舎裏で告白イベント?

 斬新すぎて理解が出来ない……



 * * *



 放課後。結局、私は校舎裏に来ていた。

 だって、仮に告白イベントだとしたら、来ないのは相手に失礼すぎるじゃん?



「へへ……どんな子かなぁ……

 うへへへ……うへ、へへぇ……」



 おっと、本音が……

   ・

   ・

   ・



 どのくらい待っただろうか。

 期待と不安と妄想で胸がポワンポワンしてきた私のもとに、ようやく手紙の主が現れた。



「お待たせしました、小糸さん!」



 波花志遊でした。


 ……え? なんで志遊が手を振りながら小走りで向かって来るの?

 え、いや、確かに私に好意をガンガン向けてくるなぁとは思ってたけど……ライクじゃない、ラブな好意だったわけ……?


 と、軽くパニクってたら、もう一人姿が見えた。

 ……モブオだ。なんでモブオ?


 え? は? どういうこと?

 この二人に共通点なんて――あったなぁ……

 波花家のパーティーで、志遊とモブオが親し気に話してたって腐れお母様が言ってたじゃないか。完全に失念していた……



「…………え、えーと、この手紙はアナタ達が?」

「ええ。正確には封筒はワタシが、中の手紙は的到田君ですけれどね。

 手紙を裸のまま下駄箱に入れようとしていたので、私が封筒に入れたんです」

「……そう」



 また、分からない事が増えた。

 だが、これだけは言える。これ、告白イベントじゃねえ!

 テンションだだっ下がりだよ! 儚い夢だったよ!



「それで、私に何の用かしら?」

「ん~……ワタシは的到田君に便乗して来た身ですので、まずは的到田君からどうぞ」

「お、おう」



 おー、(ども)ってる。こうして直接話すのは初めてだけど、見た目通りだなモブオ君。

 やっぱりって感じだ。



「錵部、お前に聞きたい事があんだけどよぉ」



 …………私相手には吃らんのかい。



「お婆ちゃんと付き合ってんだけど、アイツ、俺がキスしようとしても拒否るワケよ。庶民のクセに生意気でさぁ。

 んで、流石の俺も我慢の限界なワケ。

 てぇ事で、お前、アイツと仲良いんだろ? 説得してくんね?」



 ……モブオ、君は予想以上に馬鹿なんだね。


 普通に考えて、モブオの告白をお婆ちゃんがオーケーしたのは、いじめの一環でしょ。それくらい私でも分かる。だからこそ、モブオの告白よりも前からいじめられていると推察出来たわけだし。

 それにしても、いじめの道具に使われている事すら気付かないとか……



「俺の気分一つで玉の輿に乗れるか決まるってのによ。馬鹿過ぎじゃね?

 ま、だからって俺が言ってもアレだし、錵部の方から言ってくんね?」



 言うわけないじゃん。

 はぁ……呆れ果てたわ。

 どうやったら、ここまで自意識過剰に育つもんなのかね?



「残念だけど、お断りするわ」

「……は? いや、意味わかんねーし」



 いや、意味分かれよ。脳みそ使おうよ。

 なにブツブツ文句言ってるわけ?


 最初はいじめの道具に使われてるモブオに対して思うところもあったけど、今の数分間の会話で跡形もなく消えたわ。

 ダメだわ、コイツ。




「ふざけんじゃねえぞ!

 ゴリラのクセに――!?」

「的到田君」



 激昂したモブオが叫んだ瞬間、凛とした声が割って入った。志遊だ。

 決して大きな声ではないのに、彼女の声に気圧されたようにモブオが口をつぐんだ。



「的到田君、頼み事を断られたからといって駄々をこねるのは見苦しいですよ?」

「……い、いや、だってよぉ」

「だって?」

「いや、あの……なんでもない…………」



 モブオの勢いが急に萎んだ。

 ……ああ、そっか。波花の家は医療法人のトップ、的到田の家は新興の製薬会社。

 親の職業で子供にも力関係が生まれるとか、金持ちって怖いわぁ……



「的到田君、小糸さんへの用事が済んだのなら先に帰ってくれません?

 今度は、ワタシが小糸さんとお話ししたいので」

「あ、ああ……」



 結局モブオは、志遊の言葉に従ってすごすごと帰って行った。

 波花家TUEEEE……




 * * *




「小糸さん、すみません。

 まさか的到田君の用事が、あんなふざけた事だったとは知らなくて……」



 あ、知らなかったんだ。

 まあ、あんな馬鹿げた事を言うなんて思わないわな。



「別にいいわよ。

 それで、志遊の方の用事は何?」

「…………えーと、その、ですね」



 いやいや、そんな頬を染めて押し黙られても……

 いや、まさか、ね?

 私だって学習しますよ。何度ぬか喜びしてきたと思ってんの。

 絶対、しょうもないオチに決まって――



「……ワ、ワタシ、小糸さんの事が好きなんです!

 お、お付き合いして頂けないでしょうか!」

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