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三題小説

三題小説第三十九弾『豪腕』『正義』『ポテトチップス』タイトル「Mr.ポテトチップス」

作者: 山本航

Click click click.

 教授の研究室。多くの機会に囲まれて僕は座っている。耳の中の違和感に耐えきれず僕は身じろぎした。


「おい! ポテチ! 動かんでくれたまえ」

「頼みますから早くしてくださいよ教授。頭の中にマウスを入れられたような気分なんです。あと今はただの大学生なんですからポテトチップスと呼ぶのはやめてください」

「ポテチと言ったんだよ、私は。もしかしてこの機械のせいでよく聞き取れないのかね!?」

「十分聞こえてますよ、教授。お願いだから耳元で叫ばないでください! あと略すのもやめてください!」


 僕の名前はジェフ・アトスン。Mrポテトチップスとして日々この街の平和を守るヒーローをやってる。だけど今は僕の耳の中の平和さえ守れちゃいない。何だってこんな機械をつけなきゃいけないんだ。

 僕の耳を覗きこみ、何やら耳の中に取り付けた機械の調整をしている老人がいる。白髪白髭の小柄で猫背の小奇麗なゴブリンみたいな男だ。

 彼はバーネット教授。僕の大学の工学の教授だ。教鞭をとる傍ら僕のヒーロー活動の手助けを無理やりしてくるんだ。彼自身はProf.カップケーキと呼んで欲しいらしいけど、彼の正体を知っているのは僕だけなんだよね。表に姿を現さないのに仮の名前をつけて一体何の意味があるんだって話さ。


「教授。そもそも僕はこんな物必要としてないんですよ。必要は発明の母って言うじゃないですか。必要してから発明してもらえませんかね」

「分かってないな。Mrポテトチップス。必ずしも必要が発明の母でないばかりか、発明が必要の母である事もあるのだよ。自動車だってそうだ。発明された当時はただの金持ちのオモチャ。馬車で十分、必要ないという意見が大勢を占めてたんだ。もちろん現在自動車がどれほど必要とされているかは言うまでもないだろう。上手くやっている人間ほど、より上手くやる方法があるなどと想像つかないんだ」


 教授が語り出したので僕は抗うのをやめる。こんな事をしていたらカミラとのデートに遅れるどころか、海が干上がっても出かけられやしない。


「分かりました。分かりましたよ教授。それでこの機械は何なんですか? 何の役に立つんですか?」

「よくぞ聞いてくれた。Mrポテトチップス。これはだね。言うなれば補聴器だ。あらゆる音を収集分析しMr.ポテトチップスに詳細な情報を伝える人工知能デバイスなのだよ。Dameチョコレートと呼んでやれ。ではスイッチを入れるぞ」


 Dameチョコレート?

 Click.


「どうだね?」

「どうと言われても。特には何も。少しホワイトノイズが聞こえますかね」

「よろしい。さて、どうするかな」


 教授は何かを探すように辺りを見回す。

 knock knock.


『20代の神経質そうな女性がマホガニー材のドアをノックしています。以上です』


 突然Dameチョコレートが若い女性の合成音で喋り出した。


「聞こえましたよ、教授。つまり音を分析して音源の情報を出力すると」

「その通りだ。ちょっと待ちたまえ」


 教授がやってきた女性を追い返そうとしている内に僕は忍ばせているポテトチップスを食べる。全身の筋力が増強し、骨や内臓が強化する。すかさず窓から逃げ出した。

 kerplunk.


『20代の貧弱そうな男性が5mの高さから飛び降りて見事に着地しました。以上です』

「貧弱そうは余計だよ。ポテチを食べても見た目は変わらないんだ。悪かったね」


 僕はカミラとの約束の場所へ急ぐ。


『チョコとお呼びください。以上です』

「驚いた。人工知能かい!?」

『左様でございます。Mrポテトチップス。今後ともよろしくお願いします。以上です』

「よろしく。とりあえず遅刻の言い訳を考えてくれないか?」

『申し訳ございません。そのような機能は搭載しておりません。してたとしても考えませんけどね。以上です』

「君思いっきり嫌な奴だな」


 ヒーローだとばれない程度の速度に抑えて僕はひた走る。



「ねえジェフ。このデートがどういうデートだったか覚えてる?」


 待ち合わせた喫茶店ですっかりオカンムリのカミラが僕に問いかけた。楽しみにしていたポテチの残りが粉だけになっていたとしてもここまで怒らないだろう。


「もちろんだよカミラ。デートに遅刻した事の埋め合わせのデートを遅刻した事の埋め合わせだね。でも違うんだカミラ。聞いてくれ。教授に捕まってて」


 Smack.


『20代のゴリラめいた女性がプラスチックの机を叩きました。以上です』


 誰がゴリラだ。思いのほか高性能ではあるようだけど。


「教授教授教授! あなたっていつもそれね! 前もその前もそうだったわ! そんなに教授が好きなら教授とデートすれば?」


 Smash.


『20代の女性、もしくはゴリラが怒って両手で机を叩きつつ立ち上がりました。以上です』

「おい、やめろ」と思わず呟く。


 Screeeeech.


『20代の女性? の金切り声です。今日が誕生日でその事を忘れている様子のボンクラの男性に対して怒っている声です。以上です』


 もうほとんど悪意しかない分析だ。


「やめろですって!? もういいわ!」

「いや違うんだカミラ。今日は君の誕生日だろ。プレゼントをどうするか迷ってさ。でも結局良いものが見つからなかったから一緒に買いに行こうと思っていたんだ」


 立ち去ろうとするカミラの腕を引っ張る。

 Pluck.


『嘘つきの男性がこまっしゃくれた彼女を引きとめる為に腕を引きました。逆に腕を引き抜かれそうですね。以上です』


 もうただの悪口だ。


「そ、そうだったの。それなのにごめんなさい。つまらない事で怒ってしまって」

「良いんだよ。元々僕が悪いんだ。さあ買い物に行こうじゃないか」


 Blam! Blam!


『バカップルが仲直りしたのは置いておいて、改造されたベレッタ92の発射音です。性懲りもなくDr.サプリメントが襲撃して来たようですね。やられればいいのに。以上です』

「今のやられればいいのにはどっちに対して言ったんだ!?」


 それに対するチョコの返事はなかった。

 確かに喫茶店の入り口から白銀の熊のようなロボットスーツに身を包んだハンサムな男がこちらに拳銃を突きつけている。

 発射された弾丸はシャツの下のポテトチップスーツを貫いて僕の肩を打ち抜いた。


 Dribble.


『弾痕から血が滴り落ちている音です。いくらMrポテトチップスといえど血を大量に失えば死に至るでしょうね。うふふ。以上です』

「今明らかに笑ったよな。どっちの味方だよ」

「ココデアッタガヒャクネンメだ! Mrポテトチップス! 今日こそ吾輩の発明こそ優れている事を証明してProf.カップケーキの鼻を明かしてくれる! お前の命もここで終わりだ!」


 Dr.サプリメントのざらついた笑い声が聞こえる。

 ポテトチップスを取り出そうとするが、その前にDr.サプリメントのロボットスーツがジェット噴射で接近し、僕の身体を突き飛ばす。


 Baaam!


『Mrポテトチップスことジェフ・アトスンが壁に叩きつけられました。だっせー。その衝撃によってジェフ・アトスンは5秒後に気を失うでしょう。3、2、1……』



「気がついたかポテチ。うなされていたぞ。というか口論しているようだったぞ。悪口を言うなとか何とか」


 僕は呻き声を上げる。痛みはまだ残っているが肩の傷は縫合されていた。


「そうだ! カミラは!?」

「どうやらDr.サプリメントに連れ去られたようだ。サプリメント中毒にしてやると言い残していたらしい。Dame.チョコレートはDr.サプリメントの接近に気付かなかったのか?」

「いえ、そこまでは。銃声でようやく気付いたくらいですから」

「ふむ。分析がメイン機能だからな。もう少し集音範囲を広げよう」


 Click click click.


『ちっ。ポテト野郎のチクリで教授はチョコの評価を下方修正し、集音範囲を拡大する調整をしています。以上です』

「明らかに舌打ちされましたよ。この性格は治らないんですか?」

「ううむ。学習型のAIだからな。今から修正すると諸々に影響してしまうんだ」

「分かりました。とにかく行ってきます」


 僕はポテトチップマスクをかぶり、私服を脱いでMr.ポテトチップスの衣装、ポテトチップスーツになった。そして研究室に用意されているあらゆる種類のポテトチップスを貪り食う。

 Crisp! Crunch!


『Mr.ポテトチップスがポテトチップスを食べて変身しますよー。はい拍手―。以上です』

「不貞腐れるなよ。教授にはよく言うから頑張ってくれ」

『なんて勇ましく大胆な食べ方でしょうか。さすがMr.ポテトチップスと名乗るだけの事はあリます。以上です』

「よし行くぞ」


 僕はやはり窓から飛び出し、しかし大学の屋上へと強化された肉体を使って壁を登っていく。屋上に辿り着くと両耳に両耳を当てて耳を澄ます。


「Dr.サプリメントかカミラに繋がりそうな音を探してくれ」

『集音範囲は市全体まで拡大できますが、しかし分析能力は確実に下がります。以上です』

「構わない。他に方法も無いんだ」


 市にはあらゆる音が氾濫している。人間の生活音、社会の歯車の軋む音だ。歪な事があれば確実に歪な音を出すはずだ。


 Clatter. Clatter.


『二時の方向、郊外に20代女性が檻の格子を叩く音です。以上です』

「そこは動物園だ。ゴリラじゃなくてカミラを探してくれ」


 Mutter. Mutter.


『真下からDr.サプリメントの声が、いえ、でも』

「教授だ。親子だからな。声が似ているんだよ」


 Blam!


『十二時の方向、5ブロック先で改造ベレッタ92の発射音です。以上です』

「それだ。行くよ。集音範囲を狭めてくれ」


 最大限に強化された筋肉は熱を持ち、一瞬の伸縮によって僕の身体を跳躍させた。


 Buuuummmmmmp!


『恋人を想う屈強な戦士の着地音です。以上です』


 1ブロック先で着地し、勢いを殺さず走り出す。アスファルトを叩き割らんばかりに両足を交互に蹴り出す。ものの数秒で銃声が聞こえた辺りまでやってくる。


「何か聞こえるか、チョコ」

『真下からProf.カップケーキの声が、いえ、でも』

「それがサプリメントだ」


 僕は丁度マンホールの上に立っていた。ここが入口という訳だ。クラッカーサンドを剥がすみたいにマンホールの蓋を外すと中へ飛び込んだ。

 見た所ただの古めかしい煉瓦の下水通路だけど、僕にも誰か男の声が聞こえてきた。どうやらまだ気がつかれていないらしい。ゆっくりと音の方へ進んでいくと場違いな鋼鉄の扉があった。扉に耳をぴたりとつけるが僕自身にはくぐもって聞こえ内容までは分からない。


「どうだい? チョコ」

『当たりです。壁際にゴ、カミラが繋がれています』

「おい」

『Dr.サプリメントは部屋の中をうろうろと落ち着きなく歩いてひとり呟いています。「泣くんじゃない。


今度は貴様の脳天にぶち込むぞ。奴め。もしかしてここが分からないのか。くそ。入ってきた途端罠で返り撃ちにして人生を終わらせてやろうと思ったのに。いや、待てよ。見つけられないという事は吾輩の勝ちという事ではないか? いや、しかし、ううむ」と言っています。以上です』

 僕は拳を構え、鋼鉄の扉の中心を狙う。


「サプリメントが直線上に来たら教えてくれ」

『五秒前。3、2、1、今です。以上です』


 Baaaaaaaam! Cluuuuuuuuunk!


『鋼鉄の扉が内部に吹き飛び、一直線にDr.サプリメントに飛んでいきます。続いて直線上に居たDr.サプリメントの熊のようなロボットスーツがその白銀の腕で扉を脇へと弾き飛ばしました。以上です』

「妙に詳細だね」


 サプリメントの潜んでいた場所は教授の研究室によく似ていた。さすが親子といったところだろうか。息子はその事を知らないが。


「来たな! Mr.ポテトチップス! キョウガネングノオサメドキだ!」


 Bshdrrrrrrrmp!


『金属の触手が部屋全体からこちらに狙めて今か今かとDr/サプリメントの合図を待っている音です。以上です』

「どんな音だよそれ。これがさっき言っていた罠か?」

「行け! 串刺しだ!」


 Dr.サプリメントの号令と共に無数の白銀の触手が伸びてくる。僕はまさに千切っては投げ千切っては投げして片づける。僕の身体を抑えつけようとしているが大して出力はない。あの熊型ロボットスーツの方が遥かに強い。


 Pop!


「ロケットパンチです! 以上です」

「そんなコルクが抜けたような音で」


 と言いかけた直後、


 Voooooooooooooooom!


『点火しました。以上です』


 ジェット噴射で責めり来る拳を紙一重でかわし、瞬きする間もなくDr.サプリメントに接近する。その勢いで振り抜いたMrポテトチップスの正義の豪腕は熊型ロボットスーツの胸部に直撃し、Dr.サプリメントを壁に叩きつけた。踏みつけられたヒキガエルみたいに伸びてサプリメントは呻いた。危うくロボットスーツに押し潰しされそうになったカミラが怒っている。


 Peep! Peep! Peep!


『この部屋の自爆装置が作動し、退室を促す警告音です。残り三秒。もう終わりです』

「え? 嘘だろ!」


 Boooooooooooooooooooooooooom!


『爆発音です。続いて崩れた瓦礫が降り注ぎ、ロボットスーツを叩いています。以上です』


 即座にカミラを抱え、ロボットスーツを盾にしたお陰で助かった。


「頑丈さでは敵わないな」


 Pitter-patter Pitter-patter


『負けてしまったけど、こっちの方が断然ハンサムね。心ときめくわ。という気持ちの心音です』

「おい!」

ここまで読んで下さってありがとうございます。

ご意見ご感想ご質問お待ちしております。


パロディーできるほど知識を持っていなかった感が。

書いてて楽しくはあった。

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