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とある三人組の怖い話

作者: 京洛紫音

「怖い話をしよう」


「また、唐突に・・・」


「いいじゃん、折角集まったんだし、やろうぜ。つーわけで、まず、あきら!」


「・・・・・・」


「怖い話を・・・・」


「・・・・・・」


「だんまりかよ、ノリわりーな」


「じゃあ、次はかつや、頼む」


「僕?まあ、いいけど。ちょうどいいネタもあるしね」


「お、期待してるぜ」




「あれは、三年ぐらい前だったかな、雨が降ってじめじめして鬱陶しかったのを今でも覚えてる」


「お、実体験か?」


「まあね。皆はさ、自分の名前をパソコンで調べたことってある?」


「いや?」


「俺はあるぞ。知らんおっさんが出てきたけど」


「普通はそうなるよね。僕も大した理由があって検索したわけじゃない。実際調べても同姓同名のおっさんすら出てこなかった」


「何だよ、何も怖くねーじゃんか」


「最後まで聞いてよ、そこで、何を思ったのか僕は名前の後に『死亡』ってつけ足して検索したんだ」


「それで?」


「ヒットした。同姓同名の死亡事件。ただ一つおかしなことがあったんだ」


「何がおかしかったんだ?」


「うん、日付がね。過去じゃなくて、未来だったんだ」


「は?」


「未来?」


「正確には三年後のある日付を指していた」


「お前、もしかして、それ・・・・」


「うん、今日」


「・・・・・・」

「・・・・・・・・」


「い、悪戯だろ、どうせ」


「どうだろうね。とにかくこれが僕の怖い話。どうだった?」


「どうもこうも・・・・死ぬなよ?」


「はは、何それ。大丈夫、もし死にそうになったらみんな道連れにするから」


「ちょっ、それ冗談になってないって!」


「冗談冗談、検索の話も作り話だよ」


「何だよ、びっくりさせやがって」


「あ。怖かった?」


「そんなわけねーだろ!」


「むきになるなよ」




「とにかく、次だね、けんじ、GO!」


「GO!じゃねえよ、何処行かせる気だよ・・・あー、でもそれで思い出した」


「お前も実体験か?」


「ああ。あれは・・・・まあ、いつもの帰り道だな。俺たちの学校、正門出ると、すっげー坂道あるだろ」


「ああ、地獄の心臓破りの坂だな」


「何それ、初めて聞いたんだけど」


「俺も初めて言った」


「おい」


「まあまあ、続きをどうぞ」


「ったく、それでさ俺は自転車登校で、まあ、辛いんだわ登りが」


「だろうな、あれだけ急で、長いと」


「それでもその分下りは滅茶苦茶気持ちいいわけよ」


「ああ、わかるわかる」


「危ないからって先生が注意してるだろうに・・・」


「そんなん聞く奴いねえよ」


「で、それが怖い話にどうつながるんだ?」


「ああまあ、いつものように俺は坂道で飛ばしてたんだ。すっげー風が気持ちよかった。そんな時、ふと、服の裾が引かれたような気がしたんだ」


「裾を?」


「ああ。自転車に乗った状態で、しかも飛ばしまくってる。誰かが触れるはずない。気のせいだと最初は思ったんだ」


「気のせいじゃなかったと」


「いうなよ。その通り、何回かその後も引っ張られる感覚があって、もう何なんだよって引っ張られた側の後ろを振り返った」


「おお」


「すると、いた。知らない女の首が俺の裾を噛んでた、真っ青な顔で俺を睨み付けながら」


「うおおおおおおやべええええええ」


「うるさいよそこ」


「瞬間、俺はガードレールにぶつかった。当然だよな、後ろ見たまま硬直したんだから」


「それで、どうなったの?」


「俺は、鳥になった」


「うわあ」


「自転車から放り出された俺はガードレール向こうの空中を飛んでた。急激に地面が迫ってた。今思い出しても身の毛もよだつ・・・しかも落下中、ずっとあの生首がにやにやしながら俺を見てたんだ・・・」


「それで、どうなった?」


「どうもこうも、見ての通り、俺は今こうしてお前らと話してる。あの生首がなんだったのかは分からずじまいだ」


「うわあやべええええええええ」


「ほら終わったぞ、俺の怖い話、次はお前な」


「ちょ、もっと余韻に浸らせろよ」


「言いだしっぺ、早くする」


「はいはいわかってますよ~言いだしっぺですからね~」


「いらっとする」


「そこは穏便に。ええー、まあこれは俺が中学の時の話だ」


「結局お前も実体験じゃねえか」


「それに加えて下校中てのもお前と同じだ。俺の中学、家から遠くてさ。徒歩で行ってた俺は、毎日ひいひい言いながら帰ってたんだ」


「お前って○○中学だっけ?あ~確かに距離あるなお前の家からだと」


「確かに。一時間ぐらいかかりそうだよね。自転車使えばいいのに」


「うん、俺もそう思う。途中から意地になってた、まあそんな登下校で一番の問題が何かわかるか?」


「わからいでか」


「うん、わかるよ」


「ああ、お察しの通り・・・トイレだ!」


「「あ、そっち」」


「え、違った?」


「いや、まあ、そうだろうな」


「うんうん続けて、続けて」


「そうか?まあ一時間も歩いてると小便したくなるんだよ、幸い途中に公園があってそこにトイレがある。いつも休憩所として利用してた」


「ふんふん」


「で、このトイレが話の中心」


「トイレの花子さん?」


「何で公園にいるんだよ、出張かよ」


「ある日、いつものように俺はそこで小便してた。立ってするとこって、正面に窓がある所、あるだろ?曇りガラスって言うのかな?ふと、ガラスの向こうが気になったんだ、はっきりとは見えないけどなんか肌色のものが見えた」


「肌色・・・」


「一瞬顔かなと思ったけど、多分なんか置いてあるんだろと思った。でも一瞬でも顔だと思った後で窓を開けて確かめるのは少し怖い」


「怖いってガキじゃあるめーし」


「「お前が言うな」」


「え?」


「それで、トイレから出た後に裏に回って確認してみた。なんてことは無い、植木鉢が積んであったよ。何でこんなところに、とは、思ったけど」


「ふーん」


「で、その後もトイレに通う日が続いた」


「なんかお前の青春、トイレに費やしてねーか?」


「言っちゃダメだよ」


「・・・・・。ただ、やっぱり、その肌色のものが気になった。肌色の植木鉢だってことはわかってる。なのに、顔に見えてしょうがないんだ」


「ああ、天井のシミが顔に見えるとかそういうやつか」


「そんなとこだと、思ってた。でも違った。正体が植木鉢だってわかってる俺は窓を開けた。安心が欲しくて。でも結果は正反対だった」


「え?それって・・・」


「覗いてた、顔が。男。瞬時に俺の頭は疑問で埋め尽くされた。女子トイレならともかく、何で男が男のトイレを覗くのか」


「まあ、そういう趣味なら一緒に入ればいいよな」


「けんじ、お前・・・・」


「ち、ちげーよ、例えばの話だ!」


「だからむきになっちゃダメだってば・・・」


「ただ、それ以上に気になったのは俺がその顔を知っていたこと。いや、俺のクラスメイト、Aくんだった」


「え・・・」


「Aくんは俺に見つかって逃げるでもなく誤魔化すでもなく、ただ俺を見つめてきた。一瞬で小便が止まった」


「やばいな・・・」


「俺はいちもつをしまうと、一目散に逃げ出した。裏に回ってAくんを問いただすことなんてできなかった」


「まあ、そうなるよね」


「怖いのは次の日だ。Aくんと顔を合わせなければならない。そもそも俺はAくんと話したことがない。全くの無関係と言っていいほど関係は希薄だった」


「それで・・・?」


「ああ。正直休みたかったが、皆勤賞がかかってた。休むわけにはいかない」


「理由・・・・」


「結論から言うと何も無かった。Aくんと話すことも無ければ視線を感じることも無かった」


「結局、そのまま下校。しかし、最悪なことにその日も尿意を覚えてしまった。もう、あそこで用を足すことが習慣になってしまっていたんだ!」


「お、恐ろしい・・・」


「え、ここが、怖がりどころ!?」


「だが、昨日のことがある・・・俺は裏に回った。するといたんだ。Aくんが・・・」


「うわあ・・・・」


「俺に気付いたAくんはしばらく黙っていたかと思うと踵を返していなくなった」


「どう考えてもやばいやつじゃねえか」


「そんなとき俺のあそこは警告を鳴らしてきた」


「緊張感ないね」


「まあAくんもいなくなったし安心して用を足せる。窓に肌色のものが映らないことに安心しつつも、同時に今までずっと覗かれていた事実におののきながら」


「植木鉢はなんだったの?」


「ダミーだ」


「え?」


「俺を安心させるためのダミーだったんだよ。普段は植木鉢を置いておいて覗くときはその植木鉢をどけていたんだ」


「用意周到すぎんだろ・・・」


「でも、それだけでは終わらなかった・・・もうすぐ用を足し終える、そんなとき、また、窓に映ったんだ肌色の・・・顔のようなものが」


「戻ってきたあ・・・」


「ど、どうしたんだよ」


「小便が止まった」


「そんなこと聞いてねえ!」


「俺は意を決してAくんに物申すことにした。窓を大きく開け放ちAくんに怒鳴った『覗いてんじゃねえ!どういうつもりだ!』って。俺は必死だった。自らの憩いの場を守るために」


「トイレ・・・・」


「Aくんはやっぱり黙ったままだった。だけど不意に窓から離れ姿を消した。俺はやったんだ・・・と達成感に包まれているところに冷や水をかぶせるようにトイレの入り口にAくんが立ってた」


「やばいやばいやばい」


「そこからは無我夢中だった。俺は背負っていたリュックで思いっきりAくんを殴りつけた。俺の突然の攻撃をAくんはなすすべなく喰らいよろめいたところを突き飛ばして、逃げ出した」


「それで?」


「終わり。もう、それ以来、俺はあのトイレを使うことを止めた。俺は学習したんだ。帰る前に学校で済ませればいい・・・と」


「当たり前のことをいまさら・・・」


「Aくんは?一緒のクラスなんでしょ?」


「ああ、気まずいなんてもんじゃなかった。それでもやっぱり、Aくんは何も言わなかった。ただ、顔にあざができてた。俺が殴ったところに・・・・」


「うわあああ」


「それで、そのAくんはどうなったの?」


「どうなったって?」


「だから、どの高校にいったのか・・・とか。転校したとか?」


「ああ、なら」


 そう言って彼は部屋の隅を指さす。それまで黙って聞くことに徹していた、あきらを。


「あいつ」


「「・・・・・・」」








「ってわけでどうだった?俺たちの怖い話?え?全然怖くなかった?まじかよ、お前度胸あるな」


 最後に話していた青年は一際明るい笑顔を浮かべて飛び回っていた。


 今、僕の目の前には四人の男の人がいる。


 教室に入ってきた僕に唐突に怖い話を始めてきたのだ。


 一人は明るくおしゃべりで、


 一人は粗野でぶっきらぼう、


 一人は優しく穏やかで、


「はあ、やっぱり深夜に廃校に入ってくるような奴は俺たちみたいな幽霊を怖がってくれないのかね?」


「少し、残念」


「ふん、男なら当然だろ」


「「お前が言うな」」


「何でだよ!」


 他の二人も飛び回っている。


「あの皆さんはもしかして・・・・・幽霊?」


「あれ?もしかして、今まで気づいてなかった?そう、俺たち幽霊!怖い?」


「え~と・・・あまり・・・」


「まじかよ~」


 そういってやはりぐるぐると飛び回る。


「じゃあ、話も盛り上がってきたところで、最後の怖い話だ」


「え?でも、僕・・・」


「ああ、心配スンナ、おマエははしるだけでイイ」


「え?」


「サイゴにとびっきり怖いコトおしえてヤルヨ」


 他の二人も顔を近づけてくる。


「ボクタチノなかにね、一人だけニンゲンがイルンダヨ。死んでない、イキテル人間」


「・・・・」


 何を言っているのか、そう言おうとして口を噤む。


 今まで飄々としていた三人がただただ真剣な顔をしていたから


「ダカラ・・・逃げろ」


 彼がそう言ったときには、部屋の隅の彼が立ち上がっていたから。




 一人はただ、黙って僕を見つめていた・・・。




 三人の幽霊が姿を消す。


 僕は一心不乱に地面を蹴り廃校の出口を目指す。


 長い廊下。後ろを振り返る。


 追ってきていた。歩いて、だったらどれだけ良かったか。手を振り足を振り、全力で追ってきていた。


 一度でも転べば一瞬で捕まる。そんな考えが体を固くする。


 それでも階段を駆け下り、入るときに使った穴が開いている昇降口の扉目がけて転がるように突進し何とか脱出した。


 また、後ろを振り返る。脱出したことで、見逃してくれるのでは、と淡い期待と共に。


 だが、それは打ち砕かれる。


 男もまた昇降口を抜け、走りながら・・・こちらを見ていた。


「っ!!!」


 もう、止まっている暇はない。


 ただ、駆け下りる。人の行き交いが無くなり鬱蒼と生えた雑草を踏みつけながら校門につけてある友人の車の助手席に滑り込む。


「お、帰ってきた。どうだった?怖かったか?」


「早く、出して!」


「え?」


「いいから!車、出して!追われてるんだ!」


「追われてるって誰に・・・?」


 そう言って後ろを見ようとする友人に、


「いいから、早く!!!!」


「わ、わかったよ」


 エンジンの音が鳴る。それでもまだ、車は発進しない。それに焦れて、意を決して僕が走ってきた道を振り返る。


 幸い、まだ、追ってきていなかった。


 そのときようやく車が動き始める。


「とにかく、下まで!」


「あ、ああ」


 坂道の上にあった廃校。坂を下りきれば・・・


 何度も何度も背後をバックミラーを確認する。だが、どこにもあの姿は無かった。


 車が坂道を降り始める。ようやく一息つけた。


 まだ、視線を感じる。あの目が脳裏に焼き付いて離れない。


「で、何があったんだよ」


「人がいた」


「人?」


「うん、突然追いかけてきた」


「何だそれ、包丁とか持ってたり?」


「いや・・・何も、持ってなかった」


「何だよ。じゃあ倒しちまえばいいじゃん」


「無理いうなよ」


 そんな気の抜ける会話にどっと疲れが増す。視線を前に戻す。やはり、いない。


 良かった。逃げ切れた。


「ごめんちょっと休んでいい?」


「ん、ああ。イス、寝かせていいぞ」


「ありがと」


 イスの横についたレバーを引きイスを倒す。


 しばらく目を閉じていようと寝ころんで、後悔した。


 目が合う。


 ぎらぎらとした目が僕を見つめていた。


 後部座席と運転席の間に挟まるように、Aくんが。


 そして、こちらに伸ばされる手を、見ていることしかできなかった。














「どう、怖かった・・・かな?」


「そう」


「次は、キミノ・・・番だね。怖い話、聞カセテヨ」






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