みかんの数え歌
―――ひとつやふたつはいいけれど
だから嫌だと言ったんだ。
そんなこと、したくないって言ったのに。
目の前に広がる漆黒の闇。
無音の世界。
第6感の告げた精一杯の警告を
無視した自分に後悔をする。
生を感じる恐怖心なんて捨てればよかった。
あいつを蹴り殺してでも振り切ればよかったんだ。
漆黒の闇をかすかに照らす真っ赤な月。
いつもは目を細めて眺めるそれすらが
気持ち悪い。
にやりと笑んだ少女の顔。
「なぁ、肝試しやんねぇか?」
全ての事の発端。それがこいつの思い付きだった。
いいね、それ。と目を輝かせるそいつらだって今の俺にとっちゃ悪魔。
真夏の蒸し暑さが嫌になってか。
それともただの興味本位か。
「な、来るよな?」
首を振った俺の肩を掴んでにっこり笑う。手には中毒になっている火のついたタバコ。
否を唱えることは許されず
非難の言葉を唱えることも許されず
肯定の意をもつうなずき。
―――みっつミカンを食べ過ぎて
俺の住んでいる村には高くそびえる山がある。
その山には、決して入ってはいけないと祖母に何度も言われた。
村人は死んだらそこに行くと、昔から言われ続けているからだ。
だが、山の精に拒まれた奴は山に入ることはできずに、ふもとの雑木林でうろうろするしかない。
例えばそれは罪人であったり親より先に死んだ人だったりだ。
親より先に死ぬことほど親不孝なことはない、と。
親が死に、迎えに来てくれた者だけが一緒に山に登れるとも聞いたが。
だから怨念を抱いているよくないものが多いから、と。
とにかく俺たちはその山のふもとの雑木林にいった。
先頭を威張りきって歩いているのはこんな企画をたてたあいつだ。
俺は最後尾をトボトボ歩いている。
雑木林にある小屋。
そこに一泊する。
それが今回の肝試しだ。
村で言われ続けていることを証明するために。
「あった。小屋だ」
―――よっつ夜中に腹下し
小屋は思ったより広かった。
中に入りドアを閉めると真っ暗で、あいつの持ってきていた懐中電灯だけが唯一の光だった。
それを囲むようにして俺たち5人は座り込む。
「なんか薄気味悪いな、やっぱ」
うつむきながら、あいつは言った。
そんなこと言うんなら最初からしなければいいのに。
しーんとした状態が続く。
聞こえてくるのは風の音と、小屋のきしむ音。
それから俺の鼓動。
―――いつついつものお医者さん
突然連中の1人が頭を抱えてうずくまった。
「頭・・・いてぇ・・・」
その後ろで笑っている、いるはずのないモノ。
見えなければよかったのに。
見えてしまわなければよかったのに。
恐怖で心臓につめを立てられているようだ。
「か・・・帰ろっか・・・」
恐る恐る言ったあいつの目にも、何かが見えていたのだろうか。
突然、あいつは小屋から飛び出した。
それに続くように、俺も、他の連中も小屋から逃げ出す。
途中で頭痛を訴えた奴が崩れたが誰も足を止めない。
―――むっつ迎えの看護婦さん
先頭を走っていたあいつがいきなり座り込んだ。
震えを止めようともせずにガチガチ鳴る口でつぶやく。
「も、もう・・・帰れない・・・帰れない・・・帰れない・・・」
手には砕けた懐中電灯。
横にはお手玉で遊んでいる女の子。
―――ななつなかなか治らない
崩れるようにしゃがみこむ他の連中。
毒々しいほど赤い月だけがあたりを照らす。
女の子は楽しそうに歌う。
―――やっつやっぱり治らない
ザンと風が吹く。
舞う葉と砂から守るために、反射的に目をつぶる。
次にあけたときにはあいつらがいなくなっていることも知らずに。
風が吹き荒れる。
何かを訴えるかのように吹き荒れる。
その強い風の中でもはっきりききとれる女の子の声。
―――ここのつこの子はもうだめだ
風がやむ。
目を開ける。
イマスグニゲナキャ。ハシッテ。ハシッテ。ココカラデナキャ。
全神経がそう命令を出しているのに。
身体はぴくりとも動かない。
風がやんで、しんとなった雑木林。
やがて感じる何かの気配。
視覚でも、聴覚でも、嗅覚でもない。
第六感の感じる気配。
だから嫌だと言ったんだ。
女の子の声は脳に直接響く。
それに重ね合わせるように背後に迫る何かが唇を動かす。
―――とおでとうとう死んじゃった
ホラーを書くのは初めてなのでホラーになったかどうか不安でいっぱいです・・・。
ホラーを読むのが苦手なので本当に思いつきでやってしまったみたいです。
感想、評価もらえると嬉しいです。エネルギーになります。
機会があればまた。三沢でした。