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鳥居×モダンアート×ホットミルク
鳥居とは神を祭る聖域と人間の俗界を区画するものとして
東方の日本という国で用いられてきた、と雪洞は言っていた。
なるほど、さすがは神域への入口を示す「門」をモチーフにしているだけはある。
そこを潜ってから妙に胸がすっとする感覚をフランシスは覚えた。
--まあ、どうせ精神がネットワークに落ち着いたということだけなんだろうけれど
21世紀から数世紀たった25世紀でも、中世以前の印象派や写実主義は
更に過去のものへと追いやられる傾向にあり
変わりに21世紀のモダンアートの流れをそのままに
衰退の兆しを見せる一歩手前、つまりは最盛期を迎えていた。
芸術とは心情の発露であるとも言えるが、生憎それが他人の感覚と共鳴できないことも多い。
特に精神世界の篝では、そのずれが顕著に感じられるのだろう。
「お嬢様」
「何?」
雪洞の道を作るため前を歩いていたフランシスが、首だけ振り返って言った。
「お疲れのようですね、久々の篝は御体に合いませんようで。
神経沈静作用のあるホットミルクでも御持ちしましょうか」
「…いい。この状況でどうやって。…ああ、あなたならやりかねないのよね」