最初の冒険
雨が降っている。
幼い日の記憶、何かの漕げた匂い、煙と炎、妹との別れ、あの夏の日・・・
「いつまでねているんだい?さっさと起きちまいな」
体を起こして食卓へと向かった、ここは下宿先の家だ。
「おはようございます」
「さっさとご飯食べとくれよ、いつまでたっても片付きやしないじゃないか」
家主のおばさんに急かされて手早く食事を済ませた。
「村長さんがアンタに頼みがあるってさ、行っといでよ」
「わかりました」
そうして、扉を開けて外へと出て行った・・・
村長の家はこの村の一番大きな家になる、丁度右上に見える赤い門が見えるのがそれだ。
階段を上り、扉を開けた。
「よう来たなヤマト」
「村長さん、なんですか頼みって?」
「ふむ、実はの・・・この村を出て東へ進んだ森を向けたところに湖があるじゃろ?そこに生えておる水晶草(クリスタルリーフ)を取ってきて貰いたいのじゃ」
「水晶草ですか?」
「左様、近頃はあの森にもモンスターがよう出るでな、村の者であそこの湖まで行けるのはお主ぐらいのもんじゃろ・・・どうじゃ?頼まれてくれるかの?」
「わかりました、それでは行ってきます」
「頼んじゃぞ・・・あぁコレ、待ちなさい」
「?」
「これを持って行きなさい」
最初の剣を手に入れた
「気を付けて行くんじゃぞ」
村長の家を出てまず向かった先は先ほどの下宿先、装備か心元ないからだ。
「なんだい?お使い頼まれたんなら早く行っといで」
家の中を色々と探し回ってもみたけど、手に入ったのは薬草が2つ程だけだった。
剣を片手に森の中を入っていく。
「キシャアアアア!!!」
蜂?にしては大きめのモンスターが襲ってきた、まぁ蜂は決して「キシャアアアア!!!」なんて声は上げないし。
最初の戦闘だった。まず体を支配したのは恐怖感よりも緊張感だった、高揚感といったほうがいいのかもしれない。
まだ成れないせいかいくつか攻撃を受けてはしまったが、俺の斬撃が確かにその蜂?を捉えていた。
斬撃を受けたソレは煙のように消えてしまった。
「ん?何だろうコレ?」
蜂蜜を手にいれた。
「なるほどね、こうしてアイテムなんかを手に入れる訳だ・・・よし」
意を決したというよりは興奮に支配されている感覚だ、次々に現れるモンスターに対してひたすらに剣を振るっていく。
何度目かの戦闘で自分の力が上がったような気がした、これがLvアップというやつなんだろう。
どれぐらいそうしていたのかは記憶には無く、ふと眠気に襲われた。
「まずいなぁ・・・とにかく先に進んで、その水晶草だけでも手に入れてからじゃないと」
時刻はもうすぐ深夜になろうとしているところだった。
森を地図に沿って進んでいくと目的の場所に到着した、ここで村長からの依頼品である水晶草を手に入れればいいわけなんだけど。
湖に視線が移り、水面を捉えていた。波紋を広げ光と轟音と共にソレはヤマトの前へと姿を現す。
「うわ、凄いなこれは・・・」
優にヤマトの3倍ほどの体格、お馴染みの「ドラゴン」である。
「汝・・・何ゆえ我が眠りを妨げるか・・・」
ドラゴンがこちらに話しかけてきているようなのだが、何故か身体が思うように動かない。
妙な焦りを感じ、いつしか掌と背中にはじっとりと汗をかいていた。
「グルルル・・・封印の証欲しくば・・・汝の力、我に示せ」
封印の証?一体なんの事かさっぱりだ。村長は確か水晶草って言ってたのに・・・と思考をまとめる暇も無く、ドラゴンはヤマトへと襲い掛かってきた。
「くっ!!」
なんとか身体を動かす事に成功した、以降は動けなくなる様子はなかった。しかし、問題はまだ別に残っている。この目の前のドラゴンをいかにして倒すかという事だ。
ドラゴンの口から放たれる炎がヤマト目掛けて放たれる。その炎をまともに受けてしまい、ヤマトは岩場の方へと吹き飛ばされてしまった。
「な、なんだよこれ・・・Lvが足りなかったのか?」
動揺をするのも無理は無く、先ほどの一撃でヤマトの体力は底をつきかけていたのだ。薬草や途中に手に入れたアイテムを使っても、回復量は50パーセント程にしか至らなかった。
「くそ、一旦逃げるしかないか」
そう思って行動に移すも、事態は改善にはならなかった。
「嘘だろ?・・・出られない?」
結界のようなものが張ってあるようで、湖一帯からは抜け出せなくなっていた。
その間にも、ドラゴンの炎はヤマトに襲い掛かる。
かろうじて避けながらもひたすら出口を探したが、遂には見つけることは叶わなかった。
「てことは・・・力押ししかないのか!!」
ドラゴンへと向き直り、ヤマトは剣を構えた。
「汝・・・力・・・我に示せ」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガキンッ!!!!
「え?」
一瞬何が起こったのか把握できなかった。ヤマトの剣はドラゴンに届きはしたが、ダメージを与える事は出来なかった。それどころか、彼の剣が折れてしまったのである。
「やばい・・・やられる」
ドラゴンから炎が放たれヤマトを襲った。先ほどと同様に吹き飛ばされてしまい、今度は完全に体力も底をついてしまった。
ドラゴンがヤマトに迫るも成す術は残されてはいなかった。もう彼には、戦う力など残ってはいないからだ。
「だらしありませんね」
「!?」
刹那、雷撃がドラゴンの頭部を打ち抜いた。凄まじい威力だというのは見て取れた、灰色に石化したようになりドラゴンは崩れ消えていったのだ。
「ほら、コレ差し上げますわ」
何かのアイテムを使ってくれたのだろう、体力も全回復して仮死状態から脱する事が出来た。
「まったく、この程度の敵も倒せませんの?貴方全然素人ですのね」
助けてくれた少女の見た目は髪は茶色のショートヘア。服はドレスにも似たような感じだった。
「ははは、ありがとう。ホント助かったよ」
「耐性も付けずに挑んだんじゃありません事?それに見たところ、剣も折れているようですし」
「今日初めて来たからね、色々と判らない事だらけで」
「初めて?」
少女の表情が曇ったように思えた。
「まぁいいですわ。では私はこれにて」
「あ!ちょっと待ってよ」
「まだ何かありまして?」
「ぼ・・・俺はヤマト、君の名前は?」
「ホント素人さんですのね。私の名前はアイリスですわ」
そう告げると光と共に少女は消えてしまった。
いい人もいるなと思いながらも、本来の目的である水晶草を探す事にした。
「あ、これだな」
湖の奥の方へと進むとソレは見つかった。
「コレを村長に届けなきゃな」