憂鬱な日常
「ふぅ・・・」
軋みをたてて椅子に腰掛ける。
「今日も疲れたなぁ」
僕はいつものようにPCの電源をオンにした。
今まで何度となく聴いた起動音がやけに耳に残る。
僕の名前は雛崎陸斗
高校3年生だ。
高校3年いえば大学受験、季節は夏・・・いよいよ本腰を入れなければならない時期に差し掛かっている。
僕は別に大学なんてどこでもよかった。
今の高校にしたって、別に自分がどうしても行きたくて受験した訳でもない。
ただ普通に受験して、普通に高校生活という環境に身を置いているだけ。
きっと、これからだって変らない・・・
唯一の暇つぶしとして選んでいるのがインターネットを使って音楽を聴く事ぐらい。
別にコレがなくたって何の支障すらない。
ネット上のニュースに目を通してみる、とはいっても大して気になるものも無く、ただただ画面を流していっているだけだ。
ある記事に目が留まった。
「ん?・・・出会い系サイト・・・相手が男・・・なにこれ?」
内容は以下のものだった。
某出会い系サイトで知り合った者同士の間でトラブルが発生、そのトラブルの発端となったのが相手が男性にも関わらず「女性」として名乗っていた事だ。
僕は恋愛は過去に一度きりだけ・・・それ以降はないし、多分これからもしばらくは今の状態が続くだろう。
「リクー、早くご飯食べちゃいなさいよ。」
「ああ、わかってるよー」
母親の呼び声に反応し、一階に食事をしに降りて行った。
「リク、あんた大学決めてるの?」
「うん、別にどこだっていいよ」
母親の質問に対し生返事で答えた。僕の家庭は特別何かがある訳でもない、「普通」の家庭だ。
父親と母親、仲も悪くなく良くも無い・・・そして兄と姉、それに妹と僕を含めての6人家族だ。
唯一珍しいと言えるのではという部分があるとすれば、我が家では必ず家族揃って夕食が行われるという事ぐらいだと思う。
兄と姉に関してだけアルバイトの時はたまに遅れる事はあるけど、滅多に誰かが欠けての食事は無かったんじゃないかと思う。
「陸斗、大学ぐらいもっと真剣に選んだらどうなんだ?」
「別に行きたいとこなんてないし」
「あんたも冴えないわね~」
父親の質問に対し、そう答えた僕に姉が言葉をかけてきた。
「姉さんにしたって兄さんにしたって別に行きたいって思って行ったところじゃないだろ?」
少し感情的になって言い返しまう。しまった、とも思ったが別にどうでもよかった。
「う~ん、私は行きたかったけどな~・・・やっぱり友達と離れんのやだし」
「俺は最後の方は何が何でも行きたいと思ってたぞ」
「カイ兄ちゃん必死だったもんね~」
「ハルもその内そうなるよぉ」
「!?ハルはちゃんとお勉強するもん」
長男の名前が海斗妹が春緋
「あんた等うるさーーーいぃ!!」
「!?」
「!?」
で、今のが長女の夏菜
長男と長女と僕は1つしか歳が違わない、妹の春緋は今年で小学3年生になる。
「ご馳走様」
食事を終えて自室へ戻った僕はPCの電源が付けっぱなしだった事に気付く。
そういえば、さっきニュース見かけたなと思い出した僕は続きを読むことにした。
内容:
某出会い系サイトで知り合った男女間でトラブルが発生
加害者の男性は自分の事を「女性」と名乗り
数人の男から数万円を騙し取ろうとした疑いがかけられている
また、この男性はネットゲーム等でも女性となっていた事から
警察では、女装癖などの方向でも調べを進めている
ネットゲームで女性?どういう事かまったく判らなかった。
何がそんなに気になったかはわからない・・・ただの変態男のニュースだ。
僕は自分に言い訳をしながらも検索してみた。
「・・・あった!?きっとコレの事かな」
ネット上ゲームが楽しめるオンラインゲーム DestinySymphony
おそらくコレがそのゲームだろう。
事前に調べてみたが、オンラインゲームの中には課金制のものもあるらしく
また、無料でも一部のアイテムやアバターといったものを入手する為には料金が発生するみたい。
この「Destiny symphony 」に関してはそういったものはまったく無く、誰でも気軽にという
コンセプトの元、完全無料をやっているらしい。
「まぁ、これといってすることも無いし・・・こういうのもいいかもな」
自分にそう言い聞かせ、そのサイトにアクセスをした。
「・・・まだかな」
インストールにこんなに時間がかかるなんて思ってもみなかった。
他の家族全員の部屋、もちろん春緋の部屋にもPCは設置されていてネットにも繋がる環境だ。
其れゆえか、皆結構PCには詳しく、兄に至ってはゲームばっかりやっているみたい。
どうでもいいけどね・・・・・・
インストールを終え、いよいよキャラクター作成。
2Dキャラはなんとも可愛らしい感じに受けて取れた、ひょっとしたら兄もこのゲームやってるのかな?
疑問が頭を過ぎった瞬間、不意に手が止まってしまった。
もし、この事が家族に知れたら・・・
嫌悪感は徐々に僕の意識を蝕んでいった。
「ふぅ・・・」
頭を切り替えよう、いちいち周りを気にし過ぎだ。
踏ん切りをつけてしまえば一気に気が楽になったのか、だんだん楽しくなってきた。
キャラクターのモデルはRPGにありがちな職業ばかり。
「ここは無難に剣士かな」
最後は名前を入力して完了みたいだ。さて、どうしたものか?
本名でやるわけにもいかないし、かといって思いつくのは・・・
部屋に視線を回し本棚を見てみる。漫画は数えるほどしかなく、後は参考書やら昔の図鑑やらが並んでいた。
「あ・・・コレにしようかな」
目に留まったのは日本史の教科書だ。
「・・・・・・よし、これでいいかな」
キャラクター名:ヤマト
戦艦大和から取ったものだ、別に戦艦が好きという訳では全く無いけど、ちょっと気に入った。
こうして僕の日常と、非日常の世界が始まった。