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49.ハルと不遇の王(15)


「――――――っ、ひぃぃぃぃっ!!」

 ハルは女性らしからぬ悲鳴を上げながら上半身ごと勢いよく体を起こした。ついでに何かに額を強打したが、それどころじゃない。事は重大だ、ハルにとっては。


「なに、この史上最悪な勢いで普通からかけ離れた夢!って、夢!?いやいやいや、待て待て待て……」

 自分で言っておきながら事態収拾がうまくいかないらしい。ぶつぶつと呟き、頭を抱えた。


「お、王城なんかにいるから!ああああ……わたしの普通が、普通がぁ……」

「……ハル、痛いです」

「アレ、なんで知ってんの!?おかしいでしょ」

「もしもーし、ハル」

「なに、呪いかなんか!?呪われてもいいから普通の生活は捨てたくない!」

「いや、呪われない方が……ハル。抱きつきますよ?」

「嫌です」


 顔を上げてきっちり目の前の人物を見上げた。


「あ、なんだ。シュネーリヒト王子」

「……ひどい言われようですね」

 数日前までは頻繁に見かけた、これまた麗しい王子が毎度のことのように額の一部を赤く膨らませてそこにいた。


「大丈夫ですか、ハルさん。あなたの気配が急に消えたので慌てて王城から戻ってきたら、こんなところで倒れているんですから」

「す、すみません。あの、だ、大丈夫です」


 どうやらシュネーリヒトが倒れたハルを見つけて、ずっと膝枕をしていたらしい。彼の腕に頭を預ける体勢になっていて慌てて頭を上げる。今度はうまく頭突きをかわしたシュネーリヒトが嘆息した。


「あの、どれくらい」

「わたしがここに着いてから5分くらいです。……こちらこそ、すみません。普段はこんなことはないんですが、どうやら鍵を掛け忘れたようで」


 鍵。

 ハルは勝手に開いた扉を振り返る。


「あの、ちなみにここは……」

「……あなたも魔術師ですから少しは知っているかもしれませんが。稀代の魔術師(リリアンベイリス)の書いた書物を保管している部屋です。……少々、危険なのでわたしが魔術を使用して封印しているんです」


 ハルは勝手に開いた扉を再度振り返る。

 きっとシュネーリヒトはいつものようにしっかり鍵を掛けたに違いない。

 もはや、"少しは知っている"範疇を越してしまった。たった5分程度の間に彼の17年間を見せられてしまったのだから。

 "誰"に?

 

 決まっている。

 稀代の大魔術師(アホ)、リリアンベイリス本人に。


「ハル?」


 何がいけなかったのか。彼が書いた"術と式"を集めているからか、それとも大魔術師(アホ)と呼ぶからか。何にしろ、彼は意図的にわたしを知っている。


「ハル、脳震盪でも……」

「いえ、ああ、あの稀代の()魔術師()の。シュネーリヒト王子が管理されているんですねぇ」

 今更かもしれないが、敬ってみる。


「王城に置いておくのも悪用されたら面倒ですので」

「そうですね。って、ええと、すみません、屋敷内を探索中にちょっと引っかかって転びまして。お仕事中だったのに……」


 それを聞いて安心したように「あなたが無事ならそれで」シュネーリヒトは微笑んだ。


 きっと彼が"魔術師"でなければ、女性に人気が高いに違いない。それとも、綺麗すぎて周りに女性の影がないだけか。ふわりとそれこそ薔薇の花のように微笑むシュネーリヒトにハルは多少の後ろめたさを感じながら、もう一度「ご心配をおかけしました」謝った。


「……ところでシュネーリヒト王子」

「シュネーリヒトで結構ですよ」

「りひと様。せっかくこちらに戻ってきたんですから、お食事はいかがですか?すぐに温め直しますから」

「え、わたしの分もあるんですか?」

「むしろ、りひと様の分が余っています。このままですと、一ヶ月後にりひと様はひとりで大量のご飯を食べることになりますよ」


 女性より美しい顔って、どうしたらいいんだろう。

 どうやら本当に嬉しかったのだろう。珍しく表情いっぱいに笑みを称え、絹の法衣を直しながら立ち上がり手を差し出す。


「ハル。もちろん御馳走になります」


 "まあ、いいや"。


 色々なことをさておき、ハルは嬉しそうなシュネーリヒトの手をとり、暗い廊下をキッチンへとふたりで向かっていった。



いつも読んでくださってありがとうございます。不遇の王編はこれで一段落で、閑話を1話はさんで次の話になります。引き続きよろしくお願いします。お気に入り登録ありがとうございます。

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