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40.ハルと不遇の王(6)



 『友』と。

 そう言ってくれたイルルージュを絶対に守ろうと誓った。シュネーリヒトとの契約はもはやあってないもの。わたしの意志でわたしは王城ここにいる。



「……すさまじかった……」

「あはは。お疲れ様、ハルさん」

 クラウドはそう言って明るい笑みを向けた。人懐こい。昨日の今日だというのに、それこそ何年来かの友人のようだ。


「……クラウド様が天使にみえます」

 金色の髪は太陽に反射して輝いているし、屈託のない笑顔に遠巻きに見ていた城の女性たちの頬が一気に赤くなっている。あまりクラウドと仲良くしていたら、そのうち背後から刺されそうだ。


「……悪夢ですね」

「お屋敷までご案内いたします。ハルさん?どうかしましたか」

「いえ、よろしくお願いします」

「そうですか?それではどうぞ、こちらです」

 クラウドの横でそっと溜息をついた。



 イルルージュと挨拶を交わした後、軽く4時間の軟禁にあった。いや、ただ単にイルルージュの個人授業に同席しただけだけど、みっちり『歴史』『国内外の情勢』『国交』『帝王学』について寸分の隙も許されない各専属講師の目が光っていた。


「料理人が帝王学って……なんですか、一体」

 孤児が帝王学。

 魔術師が帝王学。

 引き続き、どれもありえない。


「お疲れのようですね」

「ええ、ありえない事態に収拾しかねてます」


 苦笑いのクラウドに素直に頷く。

 特に、最後の一時間はできれば思い返したくもない。長い白ひげをたくわえた初老の男クンツァイトは、すでにハルに目をつけていて、まず、自分の警護の騎士に頭を下げたことを注意した。ハルは王族の客人だから、頭を下げるなんてもってのほかと言及し、それに対してうっかり謝ってしまったものだから、さらに『客人』について滔々と説教を受けた。

 そして、基本、流れに身を任せるタイプのハルは真剣に学びすぎて、クンツァイトに気に入られた。たぶん、バカな子こそ可愛いとか、そういう感じで。そういえば、イルルージュが気の毒そうな視線を向けて午後の公務に旅立っていったのが気になるな。


「そもそも名前の発音が難しい……クン、クン」

「……もしや、クンツァイト先生ですか。歴代の王の後見人なんですけど」

「なんでそんな偉い方がわたしなんかに」

「強いて言えば、はまりやすく実直な方です」

「……わかりました。覚悟します。そういえば、レイン様は」

「わたしの代わりに部隊の鍛錬の指示を。何か御用でしたか」

「朝、かばっていただいたお礼をと」


 うやむやになってしまったからと付け加えれば、クラウドは「とんでもない、職務ですから気にしないでください」と言う。

 でも、かなり強打したはずだ。

 友、イルルージュは帝王学以前に、あの調子を注意した方が良い気がする。巻き込まれる被害が拡大する前に。


「クラウド様は部隊を率いていらっしゃるんですね。すごいです。そんな方がわたしの警護なんてもったいなさすぎます」

「すごいなんて。それほどでもありません。まだまだ上はいますから。それに実力ならばレインの方が上でしょうが、なんせあいつは……あいつですから……はぁ」

 思い当たる節があったのが、げんなりと肩を落とす。


「でも、ハルさんのことはしっかりお守りさせていただきます。我が王子の友」

 真っすぐに見据える彼の瞳は誠実だ。


「はい」

 クラウドはイルルージュを裏切らないだろう。

 ひとつ確信して、ハルは胸をなでおろした。現時点ではよくわからないが、シュネーリヒトからの情報だけならばイルルージュに信用できて使える味方(・・・・・・・・・・)がいることは心強いはずだ。



 帰りは話しながら戻ってきたからか、屋敷にあっという間に着いてしまった。


「本日午後はイルルージュ殿下は公務ですので、明日またわたくしがお伺いいたします」

「ありがとうございます。レイン様にもよろしくお伝えください」

「ええ。それと、なにか御用がございましたら、室内のベルを上げてください。あ、ええと、ハルさん」

「はい?」

「キャベツのスープ、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。ぜひまたいただきたいです」



 ハルは満面の笑顔で頷いた。


「もちろん。いつでもどうぞ」


 そうして、城内にお客様がひとり増えたのだった。



誤字・脱字等ありましたらお知らせください。読んでくださってありがとうございます!お気に入り登録もありがとうございます~

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