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この世の終わりまで生きる男

 余命3年の不治の病を患い、未来の医療に希望を託したとある老科学者は、瞬間冷凍自動解凍カプセルを製作し、それに入ってその病気を治そうと現代社会から未来の世界への長い長い冷解凍の旅に向かった。

 そして彼の目論見どおり、100年後の未来の医学でその不治の病を完治させた老科学者はこれまで以上に健康に気を配る毎日を過ごし、彼の研究課題は「不老不死」に関するものだけになっていった。

 しかし10年後、今度は「老い」というまたその時代では治すことのできない死の病にさいなまれた。

 それゆえ彼は老いた体を引きずるようにカプセルに乗り込み、今度は300年後の未来まで瞬間冷解凍した。

 その新世界で彼はすべてのボディーを機械化し、機械の体を手にした彼にはもはや腰痛で悩むことも、腹膜炎で消化不良をおこすことも、認知症で天才とうたわれた頭脳を劣化させることも、宇宙に行って窒息死することもない。

 そればかりか人間の頭脳と肉体をはるかに超えた能力と体力を身につけることに成功した。

 だが、いかに機械の体を手に入れたといってもそのメンテナンス代は馬鹿にならない。

 何かの間違いで全財産(ipodやWii、Xboxといった旧世界のコレクターアイテム)を失うかもしれないし、そもそも機体が故障し、修復不能におちいったり、事故や災害はたまた何かの事件に巻き込まれて破壊されてしまうことも考えられる。

 それに燃料切れで停止したり、その燃料自体が枯渇しても、ヤマハ永久発動機に機種変すればいいのだが、いつなんどき何かの異変で地球が壊滅し、その地球に繁栄をもたらす太陽がなくなってしまうとも考えられる。

 彼は自動メンテナンス緊急起動装置を新たに開発し、それを24世紀最高の素材で装甲をほどこし、宇宙空間でも稼動するその時代で一番優秀な自動危険回避瞬間移動型シェルターに装着させ、考えられる限りのありとあらゆる大事変や大異変がおころうとも安全に居住者を守れるよう設計した。

 そしておよそ10000年間、危険に満ちた外界には顔を出さず、シェルターに閉じこもって研究を続けていた彼の母なる大地では彼が予期したとおりの大事変と大異変が勃発していた。

 未来人類を二分した二つの勢力が互いに争いあい、地球は灰燼に帰し、その争いの火種がなんと枯渇しかかった太陽エネルギーの権益争いだったのだ。

 自動危険回避システムのおかげで難を逃れ、地球上空に飛び上がったはずだが、地球と思しき母なる大地には月のように山も海も大気もない。

 しかしそこには霊気だけが満ち満ちていた。

 その時代、地球人類は新たな進化といっていい発展をとげ、機械化した機体から具象化した幽体に変貌していたのである。

 機械化科学者はその二つの新人類による太陽系第三惑星地球戦域における形のばらばらな幽体同士の息もつかせぬ霊力と魔力がぶつかりあう魔法大戦に心を奪われた。

 これこそが10000年間の長の歳月にわたり、寝食を忘れて研究に研究を重ね、その血のにじむような切磋琢磨のすえようやく探しあてた究極の生命体、幽幻体だ。

 機械化博士は感動に打ち震えながら、すでに古びた既存のテクノロジーになっていた幽体離脱装置を「PS3000」で売買し、はれて幽幻体としてデビューしたのであった。

 装置に入る前から頭をかすめていたものが、装置から出た後になってようやくわかりかけてきた。

 幽幻体になるっていうことはつまり幽霊になるっていうことであったのだ。

 彼はそれに気づくとさっそく自分が冷却の旅にはじめてでたあの時代にワープ(霊魂はどの場所でもどの時代でも行き来できる)し、その恐るべき霊力と魔力で女の子たちを怖がらせるといった大人気ない病的な趣味にとりつかれながら、死にたくても死ねない終わりのない第20の人生を過ごしたのであった。


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[一言] はじめまして、この度感想を残させていただいた武倉と申します。 御作の「この世の終わりまで生きる男」大変興味深く拝読させていただきました。 到達を果たした科学は魔法と変わらない、なんて言葉も…
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