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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の壱 絡新婦

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9/12

絡新婦(9)

「え……先輩……何を言って……。だって…愛莉は……昔から……」

「そうだ。昔からこいつは人などではない。母親の腹の中にいた時からすでに蜘蛛だった。そして生まれて出た時から今までずっとその本性を内に隠し続け、萩原愛莉という人の姿を騙り生きてきた」

「最初……から?――ゴホッ!――ゲホッ!ゲホッ!」


 物部の言葉に意識を持っていかれた瞬間、晴香の気管支へと焼けるような熱さの煙が流れ込む。


「本来なら萩原愛莉として生まれてくるはずだった命に憑りつき、その肉体を仮初の姿とし、己が目的の為にお前を含めた周囲を騙し続けてきた。これはそういうモノだ」


(先輩が何を言っているのか分からない……)


「晴香にそんなことを説明しても無駄よ先輩。だって晴香は私の親友だもの。この姿になった私を見たからといって、これまでの思い出にある愛莉の姿を捨てきるなんて出来ないわ。だって、その思い出の中の私も、この蜘蛛の姿の私も、何偽りのない私自身なんだから!」

「散々人を騙っておいて、よくそんな戯言を言えるものだな」

「ふふふ。私は誰も騙してなんていない。だって、誰も私が人間かどうかなんて聞いてこなかったんですものねえ!」

「ねえ……愛莉……本当に……あなたなの?出会った時と同じ愛莉なの?」


 床に伏せた体勢で言葉を絞りだす晴香。

 その愛莉を見つめる瞳はどこか虚ろではあったが、それまでのような恐れを抱くような感情は見て取れない。


「ええそうよ。あなたが知っている愛莉よ。子供の頃からずっと一緒だった、あなたの親友。あなたは私にとって、ここの家族以上に愛おしい存在。両親や、涼くんよりもずっとずっとずーっと、大大大好きなの!」


 そう言うと愛莉は爛れた顔に狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 そんな会話の間にも火の手は部屋中に回り、すでに二階や他の部屋にも延焼を続けている。

 床に転がっていた三人の亡骸は、着ていた衣服に燃え移った炎がぱちぱちと音を立て、その身を焼く不快な焦げた匂いが晴香の鼻腔へと届いていた。


「じゃあ……なんで?なんでこんなことをするの……。お母さんたちだって、涼くんだって、私だって!愛莉のことが大好きだったんだよ!!」


 それは晴香の心からの叫び。

 晴香はこの世界に理不尽というものがあるのなら、今この時以上のことなど存在しないだろうと思った。


「それはね――あなたたちのことが大好きだからよ。だから食べるの。私はそういう存在として生み出された。これは本能というべきものだから仕方ないの。晴香なら分かってくれるよね?ね?」

「……そんなの……分かるわけないじゃない。分かるわけ……ない……」


 晴香の体はぶつけようのない悔しさに震え、溢れる涙を隠すように顔を伏せた。そしてその言葉の最後は燃え盛る炎の音にかき消された。


「鬼の都合を人に押し付けるなよ。貴様らが人の想いから生み出されたとはいえ、その糞みたいな理屈が人の世で通ると勘違いされては困るな」

「あら?まだ私のことを鬼と呼ぶ余裕があるんですね?でもそろそろ限界なんじゃないですか?呪符の光が明らかに弱まっていますよ?せ・ん・ぱ・い?」

「鬼と呼ばれることを嫌っておきながら、自らを百鬼夜行に連なるものだと自負する。所詮は妖。物部を馬鹿に出来る程の高尚な存在だとはとても思えない幼稚さだな」

「ふふふ。馬鹿に出来ますよ。だって先輩は今どうすることも出来ないまま死にかけているじゃないですかあ?ここから先輩に何か出来ることがあるんですかねえ?さっさと逃げたらいかがです?今だったら見逃してあげなくもないですよ?先輩には元々興味が無いですからあ」

「ふん。俺は陰陽師である前に貴様らの高校の風紀委員長でもある。生徒に危害を加え、風紀を乱そうとする鬼を放っておけるはずがないだろう」

「ハハハッ!陰陽師の前に風紀委員長ですか!そうですね!式神も使えない出来損ないの先輩にはそっちの方がお似合いですよ!なら、陰陽師としてではなく、馬鹿な風紀委員として鬼に殺されて死んでくださいな!」



「――言質は取ったぞ」




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