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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の壱 絡新婦

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5/12

絡新婦(5)

 人は限界を超えた恐怖に遭遇すると逆に声も出ず、身体が硬直して逃げ出すことも出来ない。

 晴香は目の前で起こっている恐ろしすぎる非現実的な出来事から目を逸らすことも出来ずにいた。


「ハ…ルカ……」

「――ヒィッ!」


 微かに愛莉の面影を残した異形のモノは、その大きく裂けた口で晴香の名を呼ぶ。

 その声で我に返った晴香だったが、全身が自分のものではないかのように自由が利かず、逃げようとする意志とは裏腹に、その場で腰が抜けたようにへたり込んでしまった。


 尻もちを突いた勢いでそのまま後ろに倒れそうになった身体だったが、反射的に伸ばした両手が支えとなる。


 床に着いた手の平にぬるりとした感覚。

 ぎぎぎという音がしそうなほどにぎこちない動きで首を動かして手の平を見る。


 薄明りのぼんやりとした視界に映ったのは、何かに赤黒く染まった自分の手の平。

 錆びた鉄のような臭いを含んだ生臭い臭いが鼻腔を突いた。


「あ……ああ……」


 それが何なのか、晴香は瞬時に理解出来ていた。

 出来ていたからこそ、そのことに気付くことを本能が拒絶したのだ。

 思考が停止する。いや、同じところで堂々巡りを繰り返す。

 次の行動に移せない。

 次の考えが浮かばない。


 ふいに室内がほんの少しだけ明るくなった。

 見つめていた手の平に付着していたものが何なのか、それがはっきりと理解出来る程度の明るさ。

 だがそれは、灯りによって見た目の色味が変わったからなどではなく、晴香の座っていたすぐ傍に、その原因となったものの姿を確認することが出来たからだった。


「――嫌あぁぁぁぁ!!!」


 それを見た瞬間、晴香の思考は復旧した。

 それを認識し、状況を理解し――全てに恐怖した。


 そこに落ちていたのは見知った頭部。

 幼い頃から何度も見てきた、愛莉の母親の変わり果てた姿だった。

 そしてその傍にももう一つ……。


「晴香……来てくれて……ありがとう……」

「嫌……嫌……」


 涼の肩口に顎を乗せたままで愛莉だったモノがさえずるる。

 愛莉の顔で、愛莉の声で、晴香を見つめながらその名を呼ぶ。


 それまでテーブルの上で灯っていた蝋燭と思われた灯り。

 いつしか愛莉の背後にも一つ。


――ぼわ


 二つ。


――ぼわ


 三つ。四つ。五つ。


 愛莉と涼の亡骸を囲うように増えていった。


「でも……我慢出来なくなって……先に始めちゃったあー!!」


――ぐじゅ ぐちゃ ぐちゃ んぐんぐ


 再び涼の首元に噛みつき喰らい始める。


「んまあーい!!」


 愛莉は恍惚とした表情で歓喜の声を上げると、その身体の左右から長く細い爪のようなものが飛び出した。


 先の鋭く伸びた爪は途中で折れ曲がっており、その4対8本の黒い爪で立つ姿は蜘蛛を連想させた。

 愛莉の胴体から伸びた脚。

 すでに元あった手足は爪へと変化してしまったのか、蜘蛛のような身体に愛莉の顔を備えた異形の姿へと変わってしまっていた。


「ねえ、晴香も食べる?涼のこと大事にしてくれてたものね。だから晴香にも分けてあげる。私も涼のこと大好きだったからかな?お母さんやお父さんより美味しかったよ」


 そう言って、愛莉は二本の爪で器用に挟んだ涼の体を無造作に晴香に向かって放り投げた。


「ヒィッ!」


 力無く四肢を投げ出す格好で転がる涼の体。

 その首から上は無く、愛莉によって喰われた箇所からはどくどくと血が流れ出していた。


「血も新鮮だったし、肉も若いから柔らかかったよお」

「やめて……ねえ……」

「お腹いっぱい食べて良いからねえ」

「嫌……」



「晴香はその後で私が美味しく食べてあげるからねえ」




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