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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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覚(17)

「ああ!いくらでも言ってやるわ!ここはワシの作ったワシだけの世界!ワシの思ったことが叶う理想の世界じゃ!何が起ころうと、ここから出るつもりはないわ!!」


「なら――未来永劫そこにいると良い」


 物部が何を煽っているのか分からずに聞いていると、 突然物部の周囲に無数のお札が浮かび上がってきた。

 そしてそれぞれが強い光を放ちながら、物部の身体の周りを円を描くように高速で廻り始める。


青龍せいりゅう白虎びゃっこ朱雀すざく玄武げんぶ――」


 揃えた二本の指を左から右へ、上から下へ。呪文のような言葉を呟きながらと九字を切るような動きをする。


勾陳こうちん帝台ていたい天王ぶんおう三台さんたい玉女ぎょくにょ


 浮かんでいたお札が隊列を成すように飛んでいき、父だったものの周囲の闇に鎖のように絡み巻き付く。


「はっ!無駄だ!貴様程度の力でこのワシを封じる事など出来ぬ――何じゃと!?動けぬ!何故じゃ!?これしきの陰陽術で何故ワシが――」


「お前はその闇の世界の中で無敵なんだろう?人の認識を書き換え、自分の思った通りに操ることが出来る。しかし俺も似たような力を持っているんだよ。この光の世界の中において、言葉を書き換え、認識を変える事が出来る」


「言葉をじゃと!?」


「お前は自分の思ったことが叶う世界の中から《《絶対に出ない》》んだろう?」


「貴様……もしや!?」


「なら――その願いを叶えてやるさ」


「やめろ……ヤメロおおおお!!!」


「おん・あぼきゃ・べいろしゃのう・まかぼだら・まにはんどま・じんばら・はらばりたや・うん」


「がああああぁぁぁぁぁ!!」


 まるでお経を読み上げるような呪文。

 闇に絡みついたお札の光が一層強くなり、僅かな闇の中に立つソレは断末魔のような叫びを上げた。


 「よく見ろ会長。あれがお前の父を騙り、お前の生きる道を語っていたモノの正体だ」

「あれが……」


 拘束された空間で蠢き苦しむそのモノにそれまでの父の面影など微塵も残っておらず、目は深い皺に隠れて見えず、その外見ははかなりの高齢の老人のように見える。そして歪に後ろに伸びた後頭部は奇妙で、その頭には一本の髪の毛も生えていない。

 何かで……どこかで見た事がある風貌……。

 まるでぬめりとしたなまずのような見た目……。


「こいつの正体は『ぬらりひょん』という妖――鬼だ」


 ぬらりひょん……聞いたことがある。

 多分、妖怪アニメとかに出てくる結構有名な妖怪だったと思う。

 そいつが父さんの正体……いや、違う。こいつが父さんを騙っていただけなんだ。


「元々は勝手に人の家に上がり込んで飯を食う程度の悪さをする鬼だったが、多くの人と接し続けるうちに人間の持つ悪意に当てられ、やがて人を支配する化物へと変化していった。それは封じられた千年の間も消える事はなく、むしろ大きく膨れ上がる形となり、会長――お前を利用して人間世界そのものを支配しようと企んだのだろう」


「そんな大それたことを……」


 たとえ物部の言っている事が本当なのだとしても、人の心を読めるくらいで世界を支配することなんて出来るんだろうか?

 もし出来るのだとしたら、僕はこの後も人として生きていて良いんだろうか?

 いつかまた同じような事が起こって、その時も僕は今と同じ気持ちで拒絶する事が出来るんだろうか?



 やはり僕はこの世界にいてはいけないんじゃないのか……。


 何か重大な事をしでかす前に消えてしまった方が世の中の為なんじゃないだろうか……。


 それはたとえ望まずして得た力だとしても、これまでその力を都合よく利用して生きてきた僕が取る最低限のケジメなんだろうと思った。



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『ぬらりひょん』


家の者が忙しくしている夕方時などにどこからともなく家に入り、茶や煙草を飲んだり自分の家のようにふるまい、家の者が目撃しても「この人はこの家の主だ」と思ってしまうため、追い出すことはできない、またはその存在に気づかない。


一般に瓢箪鯰ひょうたんなまずのように掴まえ所が無い化物であるとされる。


※出典※

ウィキペディア 「ぬらりひょん」 より抜粋




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