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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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覚(9)

 目覚めると僕はベッドの上に寝ていた。

 ここは……病院?それとも保健室だろうか?

 白い天井に純白の布団。

 周囲にはぐるりと白いカーテンが張られている。

 何か酷い悪夢を見ていた気がするけど、内容は思い出せない。

 ゆっくりと身体を起こす。そして何故自分がここにいるのかを考える。

 最後の記憶は……頭に浮かんできたのは物部カタルの顔。

 普段愛想の無い彼が珍しく慌てたようか表情をして僕に何か言っている記憶。

 でも何を言っていたのかは思い出せなかった。


 ベッドから降りて置かれていた靴を履く。

 囲むように巡らされていたカーテンを開けると、そこはやはり学園の保健室だった。

 僕が起きたことに事に気付いた保険医の女の先生が目が覚めた?と声をかけてくる。

 先生が言うには貧血で倒れたところを運び込まれたらしい。

 僕が倒れた時に物部が偶然通りかかったらしく、彼が僕を保健室まで運んでくれたとのこと。

 ああ、それであの記憶があるのか。

 多分彼は僕の事を心配して声をかけてくれていたんだろう。

 意外と物部にも人間味がある事が知れて、僕は少しだけ嬉しく思った。


 時計を見るとちょうど六時限目が始まったところ。

 僕は先生の無理しないでまだ寝ていた方が良いという忠告をありがたく固辞して保健室を後にした。


 廊下に出て手足の感覚を確かめる。

 軽く柔軟体操のような動きをしてみるけど、特にどこにも問題は無さそうだ。

 貧血か……今までなったことが無かったけど、知らないうちに体に無理をさせていたのかな?自分で思っていた以上に生徒会活動が負担になっていた?それで急に倒れたんだろうか?

 しかし今はとりあえず教室に戻って授業を受けなきゃと考え、僕はゆっくりと廊下を歩きだした。


 少し進んだところで、ふと違和感を感じた。

 そういえば、保険医の先生からは何も聞こえてこなかった……。

 普段なら会話している相手の声は勝手に聞こえてくるはず。

 もしかして――あの先生も父や物部と同じように……そして萩原愛莉と同じように……。


 その瞬間に倒れるまでの全ての記憶が一気に思い出された。




 僕が保健室に運ばれてから三日が過ぎた。


「おはよう。会長」

「あ、おはよう……千堂さん……」

「ん?まだ調子悪そうね……無理せずに休んだ方が良いんじゃない?」


 千堂さんは僕の顔を下から覗き込むように見てそう言った。


「うん……まだちょっとね。でも休む程の事じゃないから大丈夫。心配してくれてありがとう」

「そう……それなら良いんだけど……。でも本当に無理しちゃ駄目だよ」

「分かってる。僕も自分の身体が大事だからね」


 彼女は僕の事を本心から心配してくれて言っているんだろうか?

 それとも社交辞令的な会話だったんだろうか?

 もしかしたら自分の印象を良くする為なんて思いがあって……。


 駄目だ。そんなことを思っちゃ駄目だ。

 好意で言ってくれているに決まってるじゃないか。彼女はそんな計算高い人間じゃないはず。


 でも僕はそう信じる事が出来ない。


 あの日以来、僕は誰の心の声も聞くことが出来なくなってしまったんだ。

 だから相手がどんな気持ちで話しているのかが解らない。

 その言葉の裏にどんな真意が込められているのかと勘ぐってしまう。


 怖い……。

 人の気持ちが解らないのが怖い。

 他の人たちはどうしてこんな世界で生きていけるんだろう?

 目の前で笑っている人間が、自分に対して悪意を持っているかも知れない。

 優しく声をかけてくれた人が、実は悪人なのかもしれない。

 そんな何も分からない世界で、どうしてみんな笑って暮らせているんだろう?


 無理だ。

 僕にはそんな事は出来ない。

 こんな暗闇の世界で生きていける自信が全く無かった。




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