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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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覚(6)

「誰にも聞かれたくない話っていうのは?」


 彼女に言われるがままに教室の中へと入る。

 斜めに西日が差し込む窓際にもたれかかるように立つ萩原さん。

 僕はゆっくりと教室の中央付近まで進んで足を止めた。


「校則違反を見逃せっていうんだったらそれは――」

「違いますよ。そんなのはどうでも良いんです」

「じゃあ何の話?」


 彼女と対峙しているだけで得も知れない不安な気持ちに襲われる。

 何を考えているのか分からないというのはこんなにも恐ろしいことだったのか。


「先輩は何で人間のフリをしているんですか?」

「え?」


 それは全く予想していなかった質問。

 一瞬頭の中が真っ白になって、それからその言葉の意味を考える。


「……いや、君が何を言っているのか分からない。僕はれっきとした人間だよ」


 そう口に出してハッとする。


「ほら、心当たりがあるんじゃないですかあ」


 僕の表情からそれを読み取ったのだろう。

 彼女は口元を歪めるように笑った。


「……いや、そんなものは無いよ。そもそも僕が人間じゃなかったら何に見えるって言うんだい?」


「妖怪ですよ。それ以外の何者でもないじゃないですかあ」

「……妖怪?」


 それを聞いて少し安心した自分がいる。

 そんな空想上の生き物に例えられるということは、僕が人の心を読めるということに気付いたわけじゃなく、ただ単に僕をからかおうとしているんだろう。


「妖怪ねえ……。僕ってそんなに変わった姿に見えるかい?これでも見た目は普通だと思ってたんだけどなあ」

「ええ、見た目はどこにでもいる普通の高校生に見えますよ。私だってどこにでもいる普通の女子高生に見えるでしょう?」


 ああ、そういうことか。

 彼女は僕から校則違反の免罪符を取ろうとしてるんだ。


「その手には乗らないよ。それを僕が認めたら、君の恰好がおかしいんじゃなくて、それを否定している校則がおかしいと認めたことになるからね」

「……なるほど。どこまでも生徒会長なんですね、先輩は」

「いや、二学期が終わるまでだよ」


 どこまでも生徒会長をやるわけじゃない。

 僕の生徒会長としての任期は二学期の終了時点で終わるんだから。


「……もしかして、本当に気付いていない?まさか……そんな……」

「僕が何に気付いていないのかな?君の魂胆は見切ったと思うけど?」

「ははっ!あははははっ!!これは傑作ですね!それだけの異能を持っているのに、自分がまだ人間だと信じていると?」

「……異能?」

「知ってますよ!先輩は人間の心が読めるんですよね!」


 それはまるでハンマーで殴られたような衝撃的な一言。

 何故知っている?今日初めて会ったはずなのに、どうして僕の秘密を知っている?


「ははっ!先輩は本当に自分が人間だと思っていたんですかあ?」


 黄昏れに染まる教室に彼女のあざけるような声が響く。


「普通の人間にそんな真似出来るわけないじゃないですかあ?それともそれが自分に与えられた特別な才能だとでも自惚れていたんですかあ?」


 そんなことを思ったことなど一度もない。

 何ならこんな力が無ければ良いとすら思っている。


「先輩は人間の恐れが生み出した仮初かりそめの存在」


 やめろ。


「人の姿をして人間の生活に紛れ込んでいるマガイモノ」


 それ以上はやめてくれ。


「妖怪、あやかし――鬼。そう人間たちに呼ばれている、人の闇の世界の住人なんですよ」


 僕の心の中に残っていた最後の壁に大きな亀裂の入った音が聞こえた。




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