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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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33/41

覚(5)

 最初それはほんの小さな違和感だった。


「物部委員長。あんまり手荒な事は――」


 そう言いながら近づいた僕だったが、二人に近づくにつれてその感じる違和感はどんどんと大きくなっていく。


「会長助けてください!セクハラです!いや、これは暴力ですよ!暴力!不当な権力の行使による自由の弾圧ですよこれは!」

「どの口がそんな戯言をほざいているんだ。お前が逃げようとしなければ俺だってこんな真似はせん」

「私だって先輩が掴まなければ逃げようとしませんよ!」

「どういう理屈だそれは?」


 そんな不毛な言い合いを続ける二人を見ている僕の心はざわざわと騒めき立つ。


 聞こえない……。


 萩原愛莉からも心の声が何一つ聞こえてこない。


「会長ってば!ぼおっと見てないで助けてくださいよ!」

「あ、ああ……いや、助けるといっても……」


 彼女が本当にそう思っているのか、ただ逃げ出す口実で言っているのか判断が出来ない。


「助ける必要などない。今日こそはこいつにしっかりと解らせてやらねばならん」

「どこに連れ込んで何をする気ですか!?エッチ!!変態風紀委員長!!」

「お前は脳みそに虫でも湧いているのか?」


 どうしたものかとしばらく悩んだ末に、とりあえず物部を説得して話し合いという名の説教に持ち込むことには出来たが、父以外に心の声が聞こえない人間が目の前に二人もいるなんて事への動揺は大きく、物部が何をしゃべっていたのかの記憶は無い。そして、僕はいつの間にか相手の気持ちが解らないとこんなにも不安に感じるようになっていたことに気付いて唖然とした。




 結局その日の授業の内容はほとんど頭に入って来ず、ぼんやりとした頭のまま生徒会活動も終わった。


 生徒会室の戸締りをして部屋を出る。

 すでに陽は傾き、遅くまで残っている運動部以外のほとんどの生徒が下校した校舎には夕日が差し込んでいた。



 職員室に鍵を返して、今日欠席していた顧問の机の上に今日の議事録を置く。

 部活動の終わった教員たちはすでに帰宅している為か、室内には数人しか残っていなかった。

 僕は目の合った先生に帰りの挨拶をしてから黄昏色に染まった廊下へと出た。


 日中は多くの生徒たちで賑わっている学園が、まるで違う世界に迷い込んだような静寂に包まれている。

 幻想的な雰囲気。

 夕暮れ時。

 黄昏時。

 ――逢魔が時。


「会長」


 突然の声にビクッとして声のした方を振り向く。

 そこは普段使われていない空き部屋。放課後は新聞部が部室として使っている。


「……君は――萩原さん」


 その教室の入り口に立ってこちらを見ていたのは、今朝物部とやりあっていた萩原愛莉だった。

 すでに部活は終わっているようだけど、それならどうして施錠していないのだろう?彼女は新聞部だったんだろうか?


「今朝の事で少しお話があるんですけど、ちょっとだけお時間良いですか?」


 朝とは全く違う雰囲気をまとった彼女が落ち着いた声でそう言った。


「もしかして僕が通るのを待ってたの?」

「はい。先輩が職員室から帰るなら絶対にここを通ると思ってました」

「いや、僕に用事があるなら待たなくても言ってくれたら……」

「誰にも聞かれたくなかったんです。だから待ってました」


 彼女はそう言って妖艶とも思える笑みを浮かべた。




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