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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の弐 河童(カッパ)

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河童(12)

「ああ……希……」


 豊峰はわなわなと震える声で我が子の名前を呼ぶ。

 琴音を抱えていた腕の力が自然と抜け、その小さな身体はするりと滑るようにその腕の中から河原へと落ちていく。


 そしてふらふらとした足取りでそちらへと歩き出した。


「あ……ああ……」


 袴田は自分が照らし出したモノの異様な姿に恐怖を覚え、ただ身体を震わせながら近づいていく豊峰を見ていた。


「希!やっぱりここにいたんだな!ごめんな!お父さん見つけるのが遅くなっちまって!」


 そのモノの身長は豊峰の腰の上辺りまでの小さなモノで、一見すると子供の様に見えなくもなかった。

 しかしその外見はとても人間の子供には見えない。


 一切の衣服を身に着けていないその姿は、全身がぶよぶよとふやけたように膨張して垂れており、青黒く変色した肌の色からは生きている者の生気を感じることはない。

 顔の皮膚はところどころ剥がれ落ち、その下にはどす黒い腐敗したような肉が見えており、頭髪のほとんどは抜け落ち、僅かながらに残った髪が余計にその異様な風貌を際立たせていた。


 袴田はその姿に見覚えがあった。

 しかし袴田が知る限り、それは決して立って歩く類のモノではなかった。


「そうか、呼んでいたのはあの人だったのか」


 突然背後から聞こえてきた声に、袴田のそれまで金縛りのように硬直していた身体が反射的に振り向いた。

 そこに立っていたのは全身を黒の法衣に身を包んだ青年――物部カケルだった。

 闇の中に立つその姿は、まるで顔だけが浮かんでいるように見えて、袴田は声にならない叫びを上げた。


「うるさい。人の顔を見て驚くとは失礼だな」


 切れ長の細い目を更に細めて袴田を睨みつける。


「あああ……き、君は――い、いや!あれは君の悪戯か!?」


 袴田はそう言いながら震える指を異形のモノへと向ける。

 豊峰はそのモノの前にしゃがみ込み、その全身を覆いかぶさるように抱きしめていた。


「あれは――河童という鬼だ」

「――は?」


 袴田は物部が何を言っているのか分からなかった。

 まず、河童というのは鬼ではなく妖怪?だし、空想上の生き物?のはずだ。

 そうではない。あれは君、もしくは君たちがやった悪戯なのか?と自分は聞いているのだと。


 物部は戸惑う袴田を残念そうな目で見ると――


「俺は物部という。俗にいうところの陰陽師というやつだ」


 物部はこういう自己紹介が嫌いだった。

 これまでに何度もこういう説明をしているが、ほとんどの場合、「ああ、そうなんですね」とはならない。

 大体の場合は、「こいつ何言ってんだ?頭大丈夫か?」という反応をされる。

 目の前に立派なあやかしがいるにも関わらずだ。


「信じる信じないはあんたの勝手だが……どうする?あの人はあんたの同僚なんだろ?このままだと、《《あちら側》》へ行ってしまうぞ?」

「あちら……側?」


 袴田の目には子供の水死体にしか見えないナニカに泣きながら抱き着いている豊峰。

 その二人?の姿にこれまでに感じたことのない恐怖が袴田を襲う。


「あれが……河童だと?どう見ても時間が経った水死体にしか見えない……」


 目の前に広がる異様な光景に、袴田の心は徐々に物部の言う事を信じる方へと傾いている。


「実際そうだからな」

「――え?」

「頭に皿があり、手足に水かき、きゅうりが好物で相撲を取る。そんな御伽噺に出てくる河童という生物は存在しない。


 あそこにいるのは、ただの子供の水死体。


 元々は村の口減らしの為に「いらない」とされた子供が川に捨てられていた。

 溺れた子供は誰に助けられることも無く死に、川を流される間に体はふやけ、貯まったガスが体を膨張させる。川底にある石に何度も何度も打ちつけられた頭部の頭髪は抜け落ち、やがて岸に打ち上げられた死体は腐っていき、その身体は青黒く変色する。


 村人たちは自分たちの罪を隠すために、その水死体を河童という妖怪だと騙り、部外者を川に近づけないようにした。


 棄てられた子供などいない。

 あれはただの妖なのだと。


 そんな人の悲しい心が生み出した妖。


 それが河童と呼ばれるモノの本質だ」


「いらないと棄てられた……子供……」



 袴田の頭の中に先程の豊峰の言葉が繰り返し流れていた。




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