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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の弐 河童(カッパ)

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河童(11)

「警部……あんた…狂ってるよ……」

「そうか?……そうなのかも知れんな。刑事でありながら、何のためらいもなく子供を二人も溺れさせたんだからな。まあ、もう自分ではよく分からないが……」


 豊峰は思う。

 もし本当に袴田の言うように自分が狂っているのだとしたら、それは希がいなくなった瞬間から、妻と同じように何かが壊れていってしまったのだろうと。

 でもそれで構わない。

 そうでなければ、きっと自分という存在を維持することは出来なかったはずだ。

 歪な形であれ、息子を捜すことが出来ている今の自分に豊峰は満足していた。


「……その子は。琴音ちゃんはまだ生きているんですか?」

「ん?ああ、今は薬で眠っているだけだ。ちゃんと生きた状態で溺れてもらわないと正しい結果が得られないからな」

「そう……ですか……」


 琴音が生きていると分かって安心した半面、そのどうしようもなく救いのない理由に袴田は言葉を続けることが出来なかった。


「なあ、袴田。希は海になんて流されていない。俺には分かる。絶対にこの川のどこかにいるんだ。俺が見つけるのを待ってるんだよ。それに、今度こそ上手くいく気がする。だから――見逃してくれないか?」

「……警部」

「希が見つかれば前の二人も一緒に見つかるかもしれないぞ。そうなれば一気に事件は解決するじゃないか!」

「もう…手遅れなんですね……」

「おいおい、何を言っているんだ?まだ手遅れなんかじゃない。これから――」

「違う!!そんな話をしてるんじゃない!!」


 袴田の怒声が暗闇に響き渡る。


「ここに来るまでは自分の考えに半信半疑でした。心の奥では警部がそんな馬鹿なことをするはずがないって思ってた。でも……もう覚悟を決めました。警部、あなたを誘拐の現行犯で逮捕します!」

「袴田……」

「出来れば説得して自首してほしかった……。でもそれは無理なんだと思い知りました……だから――」


 袴田はそう言うと豊峰に向かって一歩踏み出した。


「お前は人の気持ちを解ろうとする優しい奴だ。凶悪な犯罪者を取り締まる俺たちにとっても、その優しさはいつかきっと武器になる。お前は良い刑事になるよ……」

「何を――」

「しかし、その優しさはお前の美徳であり――欠点でもある」


 豊峰は素早くしゃがみ込むと、倒れていた琴音を抱き上げて、その首に自分の太い腕を回す。


「警部!」

「動くな!!……動かないでくれ。頼む……」


 それはこの場において初めて見せる豊峰の感情の動き。

 哀願するかのような哀し気な表情で後ずさる。


「俺は…希に会いたいだけなんだ……。今もきっと冷たい水の中にいる希を早く助けてやりたいだけなんだよ……」

「……警部の気持ちが分かる、なんておこがましいことは言いません。でも、俺なりに理解しようとはしています。それでも!他の誰かを犠牲にしてまで果たして良いことだとは決して思わない!それは俺が刑事だとかじゃなく、一人の人間としてそう思うんです!……琴音ちゃんを放してください。どのみち……計画が明るみになった以上、もう警部の目的を果たすことは出来ませんよ……」

「そんなことはない!俺はどんな手を使ったとして希にもう一度会うんだよ!!」


――ぴちゃり


 豊峰の叫びに反応したかのように何かが水面を打ったような音がした。


――ぴちゃり


 それは河原の石をを濡れたナニカが歩くような音。


――ぴちゃり


 豊峰と袴田はその接近してくるナニカに気付き川面の方へと視線を向ける。


――ぴちゃり


 暗闇の中に一層深い闇が姿を現す。

 袴田はそれまで豊峰に向けていたライトをそちらへ反射的に向けた。


 そしてその光に映し出されたのは――



「希!!」



 その姿を見て豊峰は歓喜の声を上げた。




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