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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の弐 河童(カッパ)

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河童(9)

 子供の背丈ほどある長い草丈の生い茂った河原。

 陽はとうに落ち、厚い雲によって月光すら届かない漆黒の闇。

 聞こえてくるのは水の流れる微かな音と虫の声だけ。

 時刻はすでに日付を跨ぎ、川沿いを走る道路には歩き行く人も通り過ぎる車もなかった。



――ぴちゃり



 河原の石が鳴る。



――ぴちゃり



 裸足で濡れた石の上を歩くような音。



――ぴちゃり



 まるで何かを探しているように、ゆっくりと、ゆっくりと。



――ぴちゃり



 冷たい水の足音だけが闇の中を動いていた。



 足音の主は背中に背負っていたものを静かに河原に下ろす。

 それは幼い女の子供。

 冷たい石の上に置かれた女児は背中が濡れたことにも何の反応をすることもなく、ぐったりとした状態で目を閉じたままだ。


 川面を眺める影。

 大きく一つ、ふぅと息を吐く音が聞こえた。


 影は振り返ると、女児の傍にゆっくりとしゃがみ込んだ。

 そしてその身体に手を伸ばそうとした。


 その時――


「動くな!!」


 急に茂みの中から叫ぶ声が聞こえ、影の身体がビクッと大きく跳ね上がった。

 がさっという草をかき分ける音がし、同時に強い光が背後から影を照らす。


「動かないで!その子から離れてください!」


 影はその声に従うように立ち上がると、ゆっくりとした動作で振り向いた。


「……こんなところで何をしているんですか?――《《豊峰警部》》」


 懐中電灯の光に映し出された人物は、県警捜査一課の警部である豊峰郡司だった。


「……袴田か。急に大きな声を出すから驚いたじゃないか」


 声の主が同僚の袴田だと分かったからか、豊峰は軽い笑顔を浮かべ、どこかほっとしたような声を漏らした。


「……答えてください。警部は裸足になってまでここで何をやっていたんですか?それにその子はどうしたんですか?いや、どうするつもりだったんですか?」

「おいおい、人聞きの悪い言い方をするなよ。俺はこの子がここで倒れていたのを見つけたからだな――」

「こんな暗い中、こんな草の茂ったところに倒れている小さな子どもをですか?一体どこから?どうやって?」

「河原を歩いていて偶然だよ。お前も知っているだろう?俺が……ずっと希のことを捜していたことを……」

「ええ、知っています。俺だけじゃなく、署内のみんな知っていましたよ。警部があれからずっと一人で聞き込みを続けていることも、この川の周辺の捜索を続けていることも」

「だったら――」

「だからこそ気付かなかった!答えはずっと前から俺たちの手元にあったってのに!」

「お前何を言って――」

「警部。そこに倒れている子は立花たちばな琴音(ことね)ちゃんですよね?少し前に家族から部屋にいたはずの娘がいなくなったと署に連絡がありました」

「……そうなのか。この子が誰なのかまでは知らない。ただここに倒れていたから――」

「先月行方不明になったのは西村祐輔、今月は森一翔、そしてそこの立花琴音。この三人には警部に関係する共通点がありますよね?」

「…………何のことだ?」

「希くんが行方不明になって一週間後。彼が川に流されたのを見たと口を揃えて証言した三人ですよね?」


 豊峰の表情から笑みが消え、周囲に緊張が走る。


「……だとしたら何だと言うんだ?俺が二人の事件に関係しているとでも言うのか?そんな偶然だけで刑事の俺が子供を攫ったと?」

「……それだけじゃないですよ。今言ったでしょ?答えはずっと前から目の前にあったんですよ。西村祐輔の事故――いや、事件発生当時の捜査資料も確認しました。そして今回の森一翔の事件。どちらも付近の防犯カメラにも、周辺の聞き込みからも不審な人物がいたという証拠や証言は得られていません」

「だからこそ俺たちが血眼になって探しているんだろう?」

「《《不審な人物》》は、です。ねえ警部。近隣住民は警部が警察だと名乗って何度も聞き込みをしていたことを知っています。そして署内のみんなも警部が非番の日や、勤務明けに一人で亀水川周辺の捜索を続けていたことを知っていました。そんな警部が、事件発生の前後に付近で目撃されたり、防犯カメラに映っていたとして、誰もそれを不審な人物だなんて思いませんよね?」

「…………」


「二件の行方不明事件の日はどちらも警部は非番でした。そしていつものように希くんの事故の件でこの近辺に来ていた。いや、そういうていを装っていたんですね?当日の防犯カメラの映像に警部が映っていたこともすでに確認済みです。今のところ状況証拠だけですけど、その子がここにいる事も含めて、全ての無実を証明出来ますか?」

「…………」

「不審ではないけれど、犯人は最初からずっと俺たちの前に姿を現していたんです。ただそれに気づかなかっただけ……。でもどうして……希くんのことは事故だったんでしょう?それを見た三人には何の罪も――」

「事故なんかじゃない……」


 豊峰がぼそりと呟く。



「あれは事故なんかじゃない……。



 希は……殺されたんだよ。



 ――この子らにね」

 



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