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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の弐 河童(カッパ)

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河童(2)

 森一翔が行方不明となって一週間が過ぎた。

 連日多くの捜査員が動員され、周辺の聞き込みや事故に遭いそうな場所の捜索が行われていた。しかし依然として捜査の進捗は芳しくなく、いくつか警察に寄せられた目撃情報の裏付けも全て空振りに終わっていた。


 そして捜査本部は先月発生した男児行方不明事件との関連性への疑いを強め、付近の捜索中心の捜査から、何者かによる連れ去り誘拐事件としての捜査へと比重を置き始めていた。


「課長!もっと重点的に周辺の捜索を続けるべきです!」


 豊峰は強い口調で上司である太田に詰め寄った。

 今年五十になる豊峰郡司(ぐんじ)は、警察官としてのキャリアだけで言えば太田よりも長い。その厳つい風貌も相まって、階級としては上の太田であっても、勢いよく迫られるとその迫力に一瞬たじろいでしまう。


「ぐっさん落ち着いて。別に捜索活動を止めるわけじゃないです。ただ、誘拐の線が濃厚になった以上、捜査の範囲を広げるしかないでしょう?」

「それでも亀水きすい川の捜索にかかる人員は減らされるのでしょう?」


 H市の中心を流れる亀水川は、県境のダムから続く一級河川である。

 今回行方不明になった児童が家を出て塾に向かう際、この川沿いを通っていたことが付近の防犯カメラの映像に収められていた。

 しかし児童は塾に辿り着くことはなく、それより先に設置されていた防犯カメラにも映っていなかった。

 つまり、児童は一人で川沿いを歩いていたところで何らかの事件か事故に巻き込まれたということになる。


「それはもちろんそうなります。こちらにも人員に限りがありますからね。それに元々合同捜査本部が置かれたのは、連続誘拐事件であると上が判断したからであって、川の捜索に人数を割くためじゃあない。最初からその線で上は動いているのはぐっさんも知っているでしょう?」

「それは……承知していますが……」

「まあ、ぐっさんがそう思う気持ちも分かりますよ。先月行方不明になった子供もあの付近で目撃されたのを最後にまだ見つかっていない。それに――去年事故に遭ったあなたの息子さんも」

「……」

「しかし、今回のはどう考えても事件だと私は思っています。高石が指揮を執るのは気に食わないですけど、うちとしては人員を回してもらえるのは助かりますから。それにもし誘拐なんだったとしたら、ぐっさんだって一刻も早く救出してあげたいでしょう?」

「……そう、ですね。分かりました」

「……明日には一課にも何らかの指示が出ると思います。よろしく頼みますよ」


 渋々ながら了承した豊峰の心境を察した太田は、これ以上彼の心を乱さないようにと、静かな落ち着いた口調でそう言った。





 陽はすっかり落ち、その日の捜索活動が終わった亀水川は静かな闇の中にあった。

 川は住宅街に沿うように流れてはいるのだが、堤防を兼ねて一段高く築かれている道路上にはまばらにしか街灯が無く、長く伸びた雑草が生い茂る広い河原にはほとんどその光が届かなかった。


 豊峰はその河原の闇の中にいた。

 腰の辺りまである草をかき分けながら上流に向かって歩いている。

 その目は虚ろで、浅瀬に足を踏み入れ、足首辺りまで川に浸かっていることすら気にも留めない様子だった。


 ばしゃばしゃと水を蹴り上げる音が響く。

 普段ならうるさく鳴いている虫の声もしない。


 深い闇の中に、豊峰の歩く水音だけが聞こえていた。




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