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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の弐 河童(カッパ)

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河童(1)

 子供の背丈ほどある長い草丈の生い茂った河原。

 陽はとうに落ち、厚い雲によって月光すら届かない漆黒の闇。

 聞こえてくるのは水の流れる微かな音と虫の声だけ。

 時刻はすでに日付を跨ぎ、川沿いを走る道路には歩き行く人も通り過ぎる車もなかった。



――ぴちゃり



 河原の石が鳴る。



――ぴちゃり



 裸足で濡れた石の上を歩くような音。



――ぴちゃり



 まるで何かを探しているように、ゆっくりと、ゆっくりと。



――ぴちゃり



 冷たい水の足音だけが闇の中を動いていた。





『S県H市で、小学2年生の森一翔くん(8)が行方不明となり、警察が公開捜査を開始しました。

 一翔くんは今月10日の午後、塾に行くと言って自宅を出た後、行方が分からなくなっています。警察は一翔くんが何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとみて捜査を進めています。

 13日からは消防と協力して、自宅周辺の河川などを中心に捜索が行われています。

 一翔くんは、身長120センチ、痩せ型で、短髪。事件当時、白いTシャツに茶色の短パン、白いスニーカーを着用していました。


 なお、H市では先月も小学生が行方不明になる事件が発生しており、警察は子供を狙った連続誘拐事件の可能性も視野に――』




「戻りました」


 聞き込みを終えた袴田はかまだが捜査一課へ戻ってくると、奥の席で警部の豊峰とよみねが机の上に置かれた報告書の山をじっと睨みつけていた。


「おかえり」

「あ、ただいま戻りました」


 袴田に一瞥もくれずに報告書を読んでいる豊峰。そのあまりの真剣な表情に声をかけて良いものか思案していた袴田に、先に戻ってきていた先輩刑事の伊関いせきが声をかけてきた。


「俺が戻ってきた時からずっとあんな感じだわ。お前の報告は少し待った方が良い」


 伊関は軽く豊峰に視線を送ると、やれやれといった感じで大きく息を吐いた。


「何か進展があったんですか?」

「いいや、全く。だからこそこれまでのところで何か見落としがあるんじゃないかって必死なんだろうさ」

「そうですか……」

「まあ、事件を解決したい気持ちは俺たちも同じだけど、思い入れは警部の方がずっとデカいだろうからな」

「……そうかもしれませんね」


 豊峰の置かれている立場を知る二人は内心複雑な心境でいた。


「警部としては自分の力で解決したかったでしょうね」

「そりゃそうだろう。でも、子供の身の安全が第一だから仕方ない。個人の気持ちを優先させた結果、事件が最悪の事態になったなんてことだけは絶対に避けなきゃいけないからな」

県警うちの人員だけじゃ捜査に限界がありますしね」

「警視庁《本社》との合同捜査は、うちのお偉いさんたちにしてみたら面白くないだろうけどな」

「太田課長なんて露骨に機嫌悪かったですからね」

「うちの課長と今回の指揮を執る高石本部長とは警察学校の同期らしいからな」

「ああ、それは……」

「向こうは何とも思ってないんだろうけど、高石さんに先を越された感じになっている課長にしてみれば、何とも思われてないことが余計に腹立つのかもしれない」

「そういうもんですかね」

「さあ?エリート様の気持ちは俺なんかには分からんけどな」

「僕は事件が解決されて、子供たちが無事に帰って来てくれたらそれで良いんですけどね」

「全くだ。つまらん意地の争いだけはやめてもらいたいね」


 そんな会話の間も豊峰が二人に反応することはなかったので、袴田は口頭での報告を諦めて、先に今日の報告書を作成するべく自分の席へと着いた。




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