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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の壱 絡新婦

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13/22

絡新婦(13)

「ナンデェェェ!!ハルガァァァ!!ドうしデェェェ!!」

「それが分からないから貴様は鬼なんだ」

「ウるザァァァイ!!ヲ前が!!ヲ前がゼンブ悪いんダァァァ!!」

「煩いのはお前だ。別れの挨拶も済んだようだし、貴様もこの世に未練はあるまい」

「未練ダと!?アルに決まってイルダロォォォ!!ワダシは貴様らのハダセない未練から生まれダんダゾォォォ!!晴香を喰わずにオワレルものガァァァ!!」

「なら――その未練を抱えたまま闇の世界に戻るがいい」


 物部の目の前に浮かぶ呪符の光が更に強くなり、その輪郭がぼやけ始める。

 滲むような光が左右に広がっていき、その光の中に新しい呪符の輪郭を浮かべだす。

 三枚、五枚、七枚――次々と増殖していく呪符は光の輪のように伸びていき、徐々に絡新婦の周囲を取り囲み、床に書かれた闇の九字格子へと光のカーテンを下ろしていく。


元柱固具がんちゅうこしん八隅八気はちぐうはっき五陽五神ごようごしん陽動二衝厳神おんみょうにしょうげんしん害気がいき攘払ゆずりはらいし、四柱神しちゅうしん鎮護ちんごし、五神開衢ごしんかいえい、悪鬼をはらい、奇動霊光四隅きどうれいこうしぐう衝徹しょうてつし、元柱固具がんちゅうこしん安鎮あんちんを得んことを、つとみて五陽霊神ごようれいしんに願いたてまつる」


 身動きの取れない絡新婦を中心に円柱状に浮かび上がる光の帳。

 そして闇の格子が組み木細工のように立体化されていき、細長い絡新婦の八肢を拘束する。


「ヤメロォォォ!!嫌ダァァァ!!あのナニモナイ暗い場所トコロにモドルノハ嫌ダァァァ!!」


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう――呪符封鬼じゅふふうき五陽霊神陣ごようれいしんじん


 呪符で囲われた空間が強烈な光を放ち、その光の波動が大気を振動させる。


「ヤベテッ!嫌ァ!!嫌ダ!嫌ダ!嫌ダァァァ!!」


 檻に囚われた絡新婦の身体が、光に押し潰されるように闇の格子と共に床に沈んでいく。


「ドウジテ!!ネエェェ!!ハルガ!!タズケデヨォ!!ハルガァァ!ハルガァァ!!――晴香ぁぁぁ!!!」


 最後に聞こえたのは絡新婦ではなく、晴香のよく知る愛莉の声。

 晴香は消え逝く愛莉の姿に背を向けたまま、目を固く瞑りその声を聞いていた。


 そして訪れる沈黙。


(ごめんね)


 小さく聞こえた愛莉の声。

 晴香はすぐ傍で聞こえたその声にハッと閉じていた両手を開いて、その中に捕まえて子蜘蛛に目をやる。


 手の中で大人しくしていた子蜘蛛は、晴香がその姿を見た途端――光の粒子に分解されていき、その姿を崩しながら宙に広がっていき、晴香が無意識に手を伸ばしたが、その手が触れる前に霧散して消えていった。


「愛莉……」


 晴香の呟きは子蜘蛛の後を追うように虚空へと吸い込まれ、誰に届くことなく消えていった。




「物部先輩……」

「……なんだ?」

 宙を見つめたまま晴香は物部へと話しかける。


「私、愛莉はやっぱり鬼なんかじゃなかったんだって思うんです」

「……そうか」

「だって、最後にあの子は私に何もしなかったもの」

「……そうだな」

「本当に愛莉が鬼なんだったら、あの時、私ごと燃やしてでも助かろうとしたと思うんです」

「……」

「でも、愛莉はそんなことしなかった。あの子はあんな姿をしていても、私の知っている愛莉だったんだって思うんです」

「……そうかもしれない。なら俺を恨むか?友達を封じた俺の事を」

「……いいえ。先輩を恨むなんて筋違いです。一番近くにいた私がもっと早く気付いていてあげていたら、もっと違った結果になっていたかもしれないんですよ?もっと愛莉のことを分かっていてあげていたら……」

「……アイツにとって、今日は特別な日だったんだろう」

「……涼くんの誕生日ですか?」

「それもある。おそらくアイツは今日、お前も含めて家族全員を喰らうつもりでいた。そう決めていたからこそ、朝からその喜びを抑えきれなかったんだろう。そして本人も気付かないうちに溢れ出た妖気がお前に付着していた。そうでなければ俺でもアイツの存在に気付くことが出来なかった。それほどまでにアイツは人として完全に世界に溶け込んでいた。だから、お前がどれだけ傍にいたとしても気付けなかっただろう。だからお前が気に病むことはない。早く忘れることだ」

「……もしかして慰めてくれているんですか?」

「……事実を言っているだけだ」


 晴香が物部の方を振り向くと、物部は晴香に背を向けるように宙を見つめていた。


「ありがとうございます……。でも、私は忘れませんよ。これからもずっと愛莉と過ごした日々を忘れずに生きていきます。あの子がどんな存在だったとしても、私にとっては大切な、大切な友達ですから」

 晴香はそう言って物部の背中に向かって吹っ切れたような笑顔を向けた。


「……そろそろ時間だ。この空間はもうじき消える」

「――あ!?」

 そこで自分たちが燃え盛る愛莉の家の中にいたことを思い出す晴香。


「えっと……私たち、大丈夫なんです……よね」

 元に戻った途端に焼け死ぬとかなってしまえば、せっかく助かったことの意味が無くなる。

 晴香は少し焦った様子で物部に問いかけた。


「大丈夫だ。すでに空間の座標は変更してあるからな。ここから出た先はあの家の中ではない」

「……座標を変更?」

 晴香は物部の言っている意味が分からなかったが、すでにここまで起こったことが自分の理解を超えている。なのでそれ以上詮索するのを止めた。物部が大丈夫だというのならそうなのだろうと。


古角こかど晴香」

「は、はい」

 物部は急に振り返ると、晴香の方へと近づいてくる。


「お前の覚悟は立派なものだ。しかし――すまんな。俺は『封記委員』なんだよ」

「――え?」



 近づいてきた物部と目が合った瞬間、晴香の意識は深い闇の中へと落ちるように消えていった。




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