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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の壱 絡新婦

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11/17

絡新婦(11)

「やめろオォォォ!!嫌だアァァァ!!またあの何も無い世界に戻るのは嫌だアァァァ!!」

「愛莉……」

「ハ、晴香ァァァ!!助けてエェェェ!!お願い!!助けてエェェェ!!」


 九字に描かれた格子模様に重なるように浮かび上がる光の五芒星。

 何かに拘束されたように動きを封じられた絡新婦の八本の脚が引き込まれるように消えていく。


「喰らうつもりだった相手に助けを求めるか。ふん、まさに人の醜さを鏡写しにしたようなものだな」

「はるガァァァ!!おデがイィィィ!!ダズゲデエェェェ!!ワダシダヂィ!!トモダチダヨデェェェ!!」


 絡新婦は涙を流しながら、声の限り晴香に助けを求め続ける。


「無駄だ。今更貴様の声が届くはずもないだろう。常世の闇の中で己の業を呪い続けろ。急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう――」

「待って!!」


 呪符を展開させようとした物部の背中に晴香が抱き着いてきた。

 呪文を中断され、呪符がひらひらと地面へと落ちる。


「おい……何のつもりだ?」

「待って!待ってください!」


 背中を掴み、それは抱きつくというよりは縋りつくように懇願する晴香。


「ハルガァァァ!!」


 その様子を見た絡新婦が歓喜の声を上げる。


「愛莉を殺すんですか!?」

「……もしかしてコイツの事を心配してるんじゃないだろうな?コイツはお前のことを――」

「分かってます!愛莉が私を食べようとしたことも、おじさんやおばさん、涼くんを殺したってことも!」

「じゃあ――」

「それでも!――それでも、愛莉は……私の友達なんです……」


 物部の背中に頭を押し付けるように発した言葉の最後は力なく消え入りそうに小さかった。


「……理解出来ない。こいつは人間に成りすまし、お前たちをずっとたばかっていたんだぞ?お前が友だちだと思う感情も、コイツがそうなるように仕向けたことだ。全てまやかしにすぎない」

「……分かってます。先輩が陰陽師だって聞いて、もしかしたら愛莉の事を助けてくれるのかって思ったりもしました。でも、違うんですよね?愛莉は憑りつかれたとかじゃなくて、最初から鬼だったんですよね……私と出会った時からずっと……」

「ああ……そうだ。お前の知る萩原愛莉という人間は最初から存在しない。いや、その魂は産まれる前において、すでに蜘蛛となっていた」

「もう愛莉を普通の人間に戻す出来ないんですよね……。だから先輩は愛莉のことを……」

「鬼は憑き物ではない。元より《《そういうもの》》として生まれ出された怪異。それに俺は祓い屋ではないから、そもそもそんな面倒なことは出来ない。ただ――」

「ただ?」

「これがお前にとって何かの慰めになるかどうかは知らん。ただ、俺はコイツを封じるだけで、別に殺すわけじゃあない」

「え!?」

「人の想いを具現化した存在である妖は死なん。今ある肉体を滅ぼそうと、その存在を如何な力で否定しようと、人が人である以上は決してこの世から無くなることはない。それほどまでに人の持つ業とは深いものなのだ」

「人の持つ業……」


 晴香は顔を上げて絡新婦を見る。

 しかし、そこにいるのは愛莉の面影など全く失くしてしまった醜い一匹の蜘蛛。

 爛れた顔の半分ほどまでに大きく裂けた口で繰り返し晴香の名を叫び続ける様は、悍ましいなどの一言で済ませられるほどの生易しい恐怖ではなかった。


「絡新婦とは人が愛する者へ抱く独占欲が生み出した鬼。誰にも奪われたくない。自分のものにしたい。それが例え相手の意思に反することであっても。徐々に強くなる想いは、やがて想い人の命を奪う行為へと発展する。自分のものにならないのなら、いつか誰かに取られるくらいならいっそ――。それは常人には理解出来ない行動原理。自分以外にはまるで理解の及ばない情念。周囲はその凶行を人の所業とは思わない。そのようなことが出来るのは人の心を持たない鬼の所業だ、と」

「人の想いが生み出した鬼……」


「糸に捕らえた獲物を長い手足でからめとって喰らうジョロウグモ。人がその姿に重ね合わせて生み出されたのがコイツだ」




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