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第9章: ヒーローはいない


視点: ロリアン・ヴェロルン




暗闇が支配する中、普通の人間なら低い光では何も見えないだろうが、私には慣れたものだ。何年も同じ仕事をしていれば、そうなるものだ。黒いコートを身にまとい、宮殿の外壁をよじ登っていく。冷たい風が私の赤茶色の髪を引っ張るように揺らしていた。




どれほど危険な任務であろうと、これは私自身がやらなければならないことだった。仲間に任せるわけにはいかない。物事を確実に遂行したいなら、自分でやるしかない。痛みに慣れた指がひたすら壁をつかむ。




もし飛べたら、どれだけ簡単だっただろうか…




さらに2階層を登り、ようやく目的地に到着した。そこは“英雄たち”の部屋だった。前日に行われた召喚の儀式には、どうしても腑に落ちない点があった。




召喚陣には3人の子供が立っていた。しかし、高位の貴族たちに紹介されたのはたった1人の英雄だけだった。




他の英雄たちはまだ意識を取り戻していない、という言い訳がされた。私はその言葉が真実であるかを確かめに来たのだ。英雄たちの部屋がある階に接続された空き部屋の窓をこじ開けて侵入する。




その部屋は簡素だった。机が一つ、シングルベッドと椅子、そして事務用のテーブル。まるで召使いの部屋のようだが、今は誰も使っていないようだった。私は複雑な抑止魔法がかけられた首飾りを発動させた。それは私を透明化させるものではない。もっと単純な魔法だ。他人の認識を曇らせ、私の存在を「気づかれない」ものにする。私の姿を見た記憶すら残らない。




「強力な魔導士や鋭い感覚を持つ者に出会わないことを祈るだけだな…」とつぶやきながら、部屋のドアを開けた。




廊下は真紅の絨毯で覆われ、足音を完全に吸収していた。壁に並ぶ魔法の灯火が穏やかな光を放ち、あたりは宮廷の豪華さそのものだった。しかし、この場には何かしらの緊張感が漂っていた。ここは力と陰謀が渦巻く場所であり、一歩の誤りが命取りになる可能性がある。




私は最初に確認するべき部屋に向かった。扉の前には兵士が立っている。当然、彼は私を認識できない。しかし、扉を開けて中を確認する方法がない。私はポケットからもう一つの魔道具を取り出した。中央に小さな穴の開いた「魔眼石」だ。それを右目に当てると、部屋全体にマナの痕跡が覆っているのが見えた。厄介なことに…。




次の部屋に向かう。そこにも兵士が立っていた。再び魔眼石で覗いてみると、またしてもマナの痕跡が見えたが、何かが違和感を感じさせた。その強度は並の魔導士のようだった。その次の部屋も同じ状況だった。




一体、何が起きている?




突然、扉のきしむ音が耳に入った。廊下の両端を素早く確認する。その音は最初の部屋から聞こえた。扉の隙間から漏れる光が、周囲をわずかに照らしていた。




「おお、田中様、まだお目覚めですか?」兵士の声が聞こえる。




柔らかな声が応じた。「眠れないの。ちょっと歩こうと思って。」




まだ魔眼石を持っていた私は、その声の持ち主のマナの痕跡を確認した。異常――この言葉しか浮かばなかった。




「では、お供いたします。」兵士がすぐに申し出た。




「必要ないわ。誰かに付きまとわれるのは好きじゃないの。すぐ戻るから。」そう言って、彼女は歩き始めた。ブロンドの髪を後ろで結び、見た目は12歳くらいの子供。しかし、その立ち居振る舞いは経験豊かな将軍のようだった。彼女は皮のズボンと白いシャツを着ており、儀式の時の装いとはまるで違う。彼女の向かう先は…私の方だった。




私はすぐに壁に身を押し付け、彼女が通り過ぎるための空間を作り、待機した。彼女の足音がなぜか緊張感を漂わせ、近づくたびに重みを増すように感じられた。彼女は訓練された魔導士ではない。ただ、私は待てばいいだけだ。魔眼石をポケットにしまった。




しかし、彼女と目が合った瞬間、背筋に寒気が走った。それは単に彼女の異常なマナの痕跡のせいではなく、その視線が見えるもの以上に何かを見抜いているような鋭さを感じさせたからだ。その目には、深く不安にさせる何かがあった。好奇心が私に反して声を上げたくなるほどだったが、それ以上に、彼女から遠ざかりたいという本能が湧き上がった。




彼女に見られたのか?




だが、彼女は廊下の端を見てそのまま私の横を通り過ぎていった。一言も交わさなかった。鼓動が高鳴る。




見られていない。ただの偶然だ。




私は元の侵入経路である部屋へと向かい始めた。




だが、もし彼女が見ていたとしたら?彼女を始末するべきか?そんなことをすれば事態はさらに悪化するだろう。




私は冷静を保つ必要があった。今、一番重要なのは何が起きているのかを理解することだ。他の部屋で見たマナの痕跡は、ただの一般人のようなものだった。それでは説明がつかない。




考えられる可能性は三つ。第一に、召喚されたのは一人だけであり、王は三人いると偽って政治的影響力を得ようとしている。第二に、召喚は行われたが、三人のうち真に優れた能力を持つのは一人だけであり、異常体質――つまり“田中香織”のような存在だ。そして第三に、この王国は他国から倫理的に問題視されている魔法研究を長く行ってきた歴史がある。おそらく、他の二人は“香織”ほどの能力がなく、解剖の対象となっている可能性がある。部屋のマナの痕跡はその目くらましかもしれない。




この謎を突き止めなければならない。この情報は確実にこの王国の手綱を引き締める材料になる。あるいは、他の利益や情報と交換することもできる。時間の問題だ。




私は宮殿の壁を降り始めた。あの厄介な魔導士たちさえいなければ、もっと自由に出入りできるのに。どれだけ振り払おうとしても、頭にこびりつく一つの考えがあった。




彼女に見られていたのか?




もし彼女が味方になれば、この任務は格段に容易になるだろう。諜報と妨害を繰り返す日常の中で、危険な事態への対処法は学んだ。しかし、彼女の存在は無視できない脅威だ。彼女を民衆のために戦う側へ引き込めることはできるのだろうか?彼女の性格を見極めることが不可欠になるだろう。

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