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第8章: 無用な力



**視点: クリストファー・ルーズベルト**


このマント、高価そうだな。後悔することになるかもしれないが、仕方がない。死体から剥ぎ取って、腰に巻き付け、即席のスカート代わりにすることにした。


(「私のマントだぞ!そんな使い方をするなんて、何百年もの魔術的威厳を侮辱している!」) 頭の中に鋭い声が響いた。その瞬間、完全に呆然とした。


「今度は頭の中で喋るのか?まさかお前、寄生虫か何かか?」皮肉を込めて返した。


(「チッ…無能め」) 声は明らかに怒りを帯びていた。


他の死体も調べてみたが、大したものは何も見つからなかった。黒いマントをまとっていた死体に比べると、どれもみすぼらしい格好だった。声を上げて言った。「こいつら、助手でも研究者でもなさそうだな。一体ここで何があったんだ?」しかし、返事はなかった。


部屋の隅にあるテーブルに目をやると、青白く輝く結晶が何百個も並んでいるのが見えた。『これって価値があるのか?』と心の中でつぶやいた。


(「最高級の魔力結晶だ。ただし、お前みたいに魔力ゼロの無能には意味がないだろうがな」) マグナスの声が頭の中で返ってきた。


「今度は俺の考えを読んでるのか?プライバシーの侵害だぞ。元のオーブに戻ったらどうだ?」まだ台座に置かれているオーブを指差した。


(「戻りたくても無理だ。お前の体には転送呪文を発動する魔力がないからな。今この体に宿っているのは、私の記憶と魔力の本質だけだ。」)


「つまり、お前が役立たずってわけだな!それで、本当に宝物なんてあるのか?それとも俺を騙して体を乗っ取ろうとしただけか?」


長い沈黙が続いた後、声が再び響いた。(「この部屋の反対側の壁に緩んだレンガがある。それを引っ張れば、隠し場所が現れる。中には次元の指輪がある。」)説明が続く間に、既にその場所に向かって動き出していた。


「どうせその指輪を使えないんだろ?」返答はなかったが、聞くまでもなかった。装飾のある壁に向かい、手当たり次第にレンガを叩いてみた。緩んだレンガを見つけて引っ張ると、本当に指輪が現れた。しかし、やはりクリスタルに意識が向いた。きっと価値があるに違いない。別の死体から長い布を剥ぎ取り、それをテーブルの上に広げ、結晶を包んで端を結び、即席の袋を作った。手持ちの物を確認しながらつぶやいた。「魔力結晶37個、粗末な槍、そしてたぶん高価な黒いマント。」


「さて、この忌々しい迷宮からどうやって出るんだ?」声を荒げて叫んだ。「もう2日も食べ物なしだぞ!」数秒の沈黙の後、頭の中に声が響いた。


(「右側の三つ目の松明を時計回りに回せ。それで禁じられた森から出るトンネルが開く。」)


言われた通りに松明を回すと、壁の奥で何かが動く音がした。床と天井が震え、小さなハッチが開いた。中には10段ほどの階段があり、その先は洞窟のような狭い通路になっていた。身をかがめながら進む必要があった。そのトンネルは私の身長よりも20センチほど低く、およそ1メートル半だった。考え事をしながら歩き続けた。


(「マグナス、いるか?」)頭の中で問いかけたが、返事はなかった。無視されているようだった。(「寄生虫のくせに返事くらいしろよ。」)挑発すると…


(「黙れ、魔力ゼロの無能が!お前は私の百年かけた計画を台無しにしたんだ!」)


「百年って…それは随分長い時間だな。」返答はなかった。しばらく歩き続けた後、再び口を開いた。


「ほら、俺だって突然こんな世界に放り込まれたんだ。邪魔するつもりはなかったけど、あの迷宮でお前がしてたこと、どう考えても良いことじゃなかっただろ?」


またしても沈黙が続いた。


やがて、頭の中でため息のような音が響いた。


(「お前は本当に何も分かっていない…」)少し間を置いて声が続いた。(「私は多くを犠牲にしたんだ。それなのに…全てが無駄になった…。」)


その言葉にどう答えていいか分からなかった。彼が何を計画していたのか?死体、クリスタル、オーブ、そして彼が口にした言葉。彼が迷宮から出たがっていたのは間違いない。でも最初に言ったのは、「知識を授ける」とだった…。


(「どうやらお前もやっと気づき始めたようだな。その通り、お前の体は本来なら私のものになるはずだった。」)


足を止め、頭の中で問いかけた。「でも、なぜ失敗したんだ?」返答はなかった。再び歩き始め、「魔力ゼロの無能か…」と声に出してつぶやくと、思わず笑いがこみ上げてきた。怒りが伝わってくるのが分かった。


「まあ、お前の計画が失敗したのは気の毒だけど、今こうしてお前は俺の体の中にいるんだ。俺が死ねばお前も死ぬ。お前の知識は俺にとって役立つし、世界と関わりを持てるだけでもオーブに閉じ込められているよりマシだろ?」宥めるように言ったが、返答はなかった。


やがて、外の光が見えてきた。トンネルを抜けると、目の前には広大な砂浜が広がっていた。出口は岩に覆われ、隠れるようになっていた。


(「さて、大魔導師様、これからどこに行くんだ?」)心の中で尋ねたが、返事は期待していなかった。


(「次元の指輪の中に地図がある。」)嫌味な口調が伝わってきて、少し苛立ちを覚えた。


歩き始めると、再び声が響いた。


(「進む方向が逆だ。そのまま歩き続けろ。向かう先はカリンドール王国の港町、ヴァルドラだ。それと…マントを羽織れ。」)


足を止め、反対方向へ向きを変えた。「やっと役に立つ気になったのか?」と言いながらくしゃみを一つ。


(「魔力も名前もない貧弱な体か…お前ほどの不運の塊も珍しいな。」)


マントを羽織り、その言葉には反論の余地がないと感じながら、歩き始めた。


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