暖炉のある家
結婚前、僕の彼女は「暖炉のある家が欲しい」と言った。それは彼女にとって夢であり、結婚する男性への条件なのである。
僕は必死に働いた。昇進し、社内での地位も高くなった時、彼女にプロポーズした。
「結婚してください」
僕が手を取ると、彼女は満面の笑みで、
「はい。喜んで」
と言った。
僕たちは快哉を叫んだ。
*
結婚二年目。
僕たちの家が建てられた。もちろん、暖炉のある家だ。
「なぜ、暖炉のある家が条件だったの?」
僕が聞くと、
「暖炉の火を見ると落ち着くし、それに、裕福さの象徴って感じがする」
と彼女は答えた。
*
結婚四年目。
僕たちは少しずつ疎遠になっていた。僕の仕事が多忙なせいもあるが、妻はなにやら怪しい動きをしていた。気のせいであってくれと願っていた。
暖炉を使う頻度は減っていた。
*
結婚六年目。
子供はいない。一緒に不妊治療をするかどうか尋ねると、
「もう、子供は必要ない」
という返答だった。
暖炉は使われていなかった。
*
結婚九年目。
彼女は外出していることが多くなった。問い詰めると、
「お友達と出かけているだけ」
とか
「同窓会」
といった理由だった。
*
結婚十年目。
彼女はいない。
暖炉から、爆ぜる火の音が聞こえた。
あたかも、彼女の断末魔のようだ。
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