計画倒れ
「はあ……はあ……あの人達全然聞く耳持ってないじゃない! 何が他の騎士も同行することになるでしょうね、よ! むしろ追い詰められたじゃない!」
「しょうがないじゃないですか! まさかあんなに騎士達の頭が固かったなんて……というかこうなった原因はドロシー様の悪評が広まりすぎているせいですからね!?」
「そこをあなたが何とかするんじゃなかったの!?」
「無茶言わないでくださいよ! 私だってやれることはやりましたからね!?」
私達は森の中を全力疾走していた。
理由は見ての通りだ。
もうこれ以上は走れない。
私達は息を切らしてへたり込む。
騎士達はドロシーが全員気絶させたのでこれだけ走れば追手はしばらく振り切れるだろう。
……正直ここまで悪い状況になるとは思っていなかった。
さっき全身全霊でお守りしますとか言ってた自分が恥ずかしい。
「はあ……しょうがないわね……こうなったら私達だけで行くしかないわ……全く、こんなに疲れたのは初めてよ……」
「ドロシー様一人くらい簡単に持ち上げられますよ。お運びしましょうか?」
「あなた私を地面に叩き落としそうだから遠慮しておくわ。というか出会ってからずっと敬語を使われているのにあなたから全く敬意を感じないのよね。どうしてかしら?」
「いえいえそんな! ドロシー様のことは深く尊敬していますよ! 敬意がないだなんてめっそうもない!」
「ふーん。やっぱり感じないわね。あなたもう敬語使わなくていいわよ。というか腹が立つから使わないで」
「ええ……」
どこが癇に障ったんだろう……。
私の敬語ってそんなにひどい? 少なくとも得意ではないけど。
でも言われたものはしょうがない。
すごく不自然な気もするけど。
「じゃ、じゃあ敬語は使わないようにしま……するわ」
「あとドロシーでいいわ。様なんかいらないわよ」
ドロシーはそう言ってぷいっとそっぽを向いた。
……もしかしたら、私がもっと気楽に話せるようにしてくれたのかな。
そこまでしてくれるほどドロシーにいい所を見せた覚えはないけど。
まあただ単にドロシーも堅苦しいのが苦手なのかもしれない。
城にいた時はちゃんとしていたんだろうけど。
「わかった。じゃあドロシーって呼ぶわね」
「素直でよろしい」
そんな事がありつつも私達は近くの街を目指した。
見つかるリスクはあるけど逃げるにしても色々と物がいるからこればかりはどうしようもない。
食料とか変装用の服とか。
できれば馬車も借りたいけど騎士に見つかりそうね。
しばらく歩いていると赤煉瓦の屋根が見えてきた。
「やっと着いたわね……それじゃあセレス、買い出しよろしく」
「ええ。私が戻ってくるまでに見つからないでよ」
「私はそんな間抜けじゃないわ。あなたこそ探られないでよ?」
茂みに隠れているドロシーに見送られながら街の中に入った。
木骨組みの街並みと石畳が私を出迎える。
城下町ほどじゃないけど賑わっているな。
人目を気にしつつ必要なものを買い揃え、そそくさと街の外に出てドロシーと合流した。
「お帰りなさい……ってすごい大荷物ね」
「2人分の旅行鞄だからこうなるわ」
「私も持つわ。あなたうっかり落としそうで怖いもの」
「筋肉のないドロシーじゃ持てないわよ。それこそ
落としそうで怖いわ」
「あら、私のことを舐めないで頂戴。これでも箸より重いものなんていくらでも持ってきたんだから」
そう言って私の荷物を全部ぶんどり持ち上げようとするドロシー。
しかしその重さを支えきれず荷物に押し潰されてしまった。
「ほら言わんこっちゃないわ! あんた皿より重い物持ったことないでしょう!?」
「心配いらないわよ……こ、このくらい全然平気なんだから……!」
「……さてはあんた意外とアホね」
呆れつつも荷物を取り返す。
するとドロシーは腹を空かせた犬のように吠えた。
「何ですって!? 私はあなたみたいに脳筋じゃないわ! きちんと王妃としての教育受けさせられてきたんだから!」
「じゃあ1+1は?」
「2よ」
「ハッ! あんたってホント馬鹿ね! 3に決まってるじゃない!」
「…………」
ドロシーは言葉を失い、馬のフンでも見るような目を私に向けてくる。
「冗談よ。馬鹿にして悪かったわね」
「え? 本当かと思ったわ」
「あんたの方がよっぽど私を馬鹿にしてるわ」
「愚民のあなたと私じゃ身分が違うんだから当たり前よ」
「あんたその身分から引きずり降ろされたじゃない」
「そうだったわね。でも私はあなたと違って賢いから愚民じゃないわよ。どっちにしろ身分は違ったわね。お生憎様」
「賢い人間は自分で賢いって言わないわよ」
「馬鹿なあなたにも分かるようにわざわざ言ってあげただけよ?」
「ご丁寧にどーも」
不毛な会話が続いたから適当な返事で切る。
ここまでどうでもいい会話が続いたのは人生で初めてだ。
私に友達がいればもっとまともな会話が出来たのかな……いやドロシーとは無理か。
「そういえばドロシーって友達とかいた? お姫様だから作りにくいんじゃない?」
「それ以上言ったら口を縫うわよセレス」
「へ~って事は居ないんだぁ~。私が友達になってあげようか?」
「自殺願望があるなら叶えてあげるけど?」
「友達として教えてあげるわ。質問を質問で返しちゃ駄目よ」
「友達っていうのはわざわざ友達とかって言わなくても成立する関係のことなんじゃないの?」
「じゃあ今度からは言わないわ。安心して頂戴」
「……はいはい」
そう呆れたように返事するドロシーの顔は嬉しそうだった。
よかったわねドロシー! 生まれて初めて友達ができて!