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避難訓練

『おーれーはー、ゆうーしゃーだぞー、がおー!』

 

『ガオー』

 

 お、コロもノリノリだな。絶対意味わかってないだろ。

 

 今回は避難訓練なので、僕は勇者須田の役で海から島に侵入する。竜骸だか聖鎧だか知らないけど、あれに乗って来るだろうって想定だ。

 コロは調子に乗ってすぐスピードを出そうとするので困る。竜骸はもっとフワフワゆっくり飛ぶもんだ。

 

 須田になりきったつもりで、島の周囲をぐるっと一周する。どうする? 建物のある場所に乗り込んで一気に制圧するか、誰もいない荒れ地を制圧して橋頭保にするか?

 須田だったらいきなり王手をかけてくるだろうな。

 

 それっぽくノロノロと広場に着地する。

 

『ゆうしゃーだぞー。がおー』

 

『ガオーガオー』

 

「いくらなんでもガオーはないだろ。勇者は怪獣か?」

 

 竹井がツッコミを入れて来る。その恰好ときたら。

 

「ぷぷ、良く似合ってるよ」

 

 凄くモブな衣装に、残念なメイク。

 須田から女子達の貞操を護るために、梅木さんが腕を振るった結果だ。

 

「あ、あたしは何着ても似合うんだからね」

 

 あはは、モブが何か言ってるよ。

 

「どう? 私のナチュラル駄メイクは? 萎えるでしょ」

 

 美人の梅木さんも化けましたな。どこにでもいそうな普通のおばちゃんって感じだ。

 

「信じられないです。薄化粧するだけで、まるで別人じゃないですか」

 

「あら、ナチュラルメイクって実はかなりの厚化粧なのよ」

 

 顔というキャンバスを一旦下地で塗りつぶせば、描き手の腕次第でどんな美女にもできるらしい。今回はその応用ってことか。

 

「須田君ってキレると怖いって聞いたから、露骨に醜くはしなかったのよ。嫌悪感は抱かせずに、男の子にとってはコレジャナイ感のある顔に仕上げてみました」

 

 昔、どこかの国が戦争に負けた時、美しい女性は顔に醜い入れ墨をして難を逃れようとした。そんな話をどこかで聞いた。多分マンガだ。

 

「でも、好みなんて人それぞれじゃないですか。須田のストライクゾーンなんて分からないんだし」

 

「お姉さんに抜かりはないわ。そのあたりのリサーチも完璧よ」

 

「ねーっ」

 

 クラスの女子達に聞けば、男子達の好みなど手に取るようにわかるのだという。いや、ありえないよ?

 

「ミー君のストライクど真ん中はセーラちゃんでしょ?」

 

「今はそうだけど、セーラちゃんに出会ってからであって」

 

「初々しいなあ青少年」

 

「ひゅーひゅー」

 

 あ、これって揶揄われてるな。

 


 

「勇者様、お食事です」

 

 セーラちゃんがカツカレーセットを配膳してくれる。対勇者スペシャルメニューだ。

 

「ダメだ! セーラちゃんは地味メイクでも可愛い! これじゃ勇者にいただかれてしまうって!」

 

 むしろギャップ萌えというか、正統派ヒロインにはない魅力が付加されてモードチェンジしたというか。

 

「親馬鹿ね」

 

「これが噂の親バカかあ」

 

 好きに言ってろ。とにかく要改善だよ。本番では配膳係は僕がやろう。

 

 須田になりきってカツカレーを食す。あいつは一年以上カレーを食っていない筈だ。

 スプーンにライスをすくい、カレーに浸して口へ。うん、美味い。スパイスのブレンドは日本のカレーを意識したもので、練り込まれたリンゴや南国の果実が芳醇な味の膨らみを与えている。

 そしてタマネギ! 飴色に炒めてルーのベースに加えられたものと、仕上げの直前に加えられたシャキシャキ感の残るもの。タマネギの様々な魅力がルーの中で混然一体となって……これならタマネギ嫌いも納得だ。

 

 トンカツは、普通にトンカツだ。超美味い。

 結局、廃油石鹸はまだ開発できていない。羽山は化学式とかは完璧に覚えていたけれど、反応の際の圧力や温度、必要な触媒についてはそこまで詳しくなかった。教科書にも書かれてなかったし。羽山は詰め込み教育の弊害だとか叫んでいたけれど、さすがにそういうのは大学レベルなんじゃないかな?

 

 赤松の結界は便利だけれど、圧力計も温度計もないし、試薬の類もないんじゃ、実験が成功したのか失敗したのかも良く分からない。

 

 で、実験は上手くいってないみたいなんだけれど、廃油を出さずに揚げ物を作る方法をたまたま発明してしまったらしい。

 なんでも結界で高温高圧状態にして、油を霧状に吹き付けるらしい。厳密に言えば揚げ物とは違うけれど、カツカレーにしてしまえば違いなんてわからない。

 

 まあ、美味しければいいと思うよ。

 

 サラダバーはマヨネーズや各種ドレッシングで楽しめたけれど、野菜に関しては嫌いな人は何をどうしても嫌いだからねえ。

 

 そして、〆というか本命というか、クリームあんみつプリン乗せ。

 プリンは吉田の趣味としか思えない。あんことプリン。無理やり感というか、唐突過ぎるだろ。

 

 美味しいんだけど、どこから匙をつけていいのかわからないよ。美味しいんだけど。

 あんことアイス、プリンとアイス、あんことプリン。いろんな組み合わせは飽きなくていいけどね。

 寒天のレベル高いね、おい。いつの間に? これならシンプルに寒天と黒蜜でも良くない? 美味しいけど。

 

「勇者スペシャルプリンあんみつのお味はどうかしら?」

 

 吉田が凄いドヤ顔で聞いてくる。うん、この笑顔の前には駄メイク意味ないな。

 

「冷たく冷やしたわらび餅が食べたくなった。きなこで」

 

「えー、何よーそれ」

 

 何よと言われても困る。とにかくそういう気分になったんだから。

 

 まあ、でも、平和裏にってのは、多分無理だな。下手に出ても、どんどん要求がエスカレートしていくのは見えている。結局は命を懸けて戦わなくちゃならないだろう。

 

 一度降参してから抵抗しようとしても、大阪夏の陣だ。最初から戦う覚悟を決めること。結局それが被害を最小化するんだな。

 

 覚悟、覚悟だ。簡単なようで難しい。秋山さんがストレスで胃に穴が開きそうになってるのもわかるよ。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 化粧の話、火の鳥の一巻にあった気がする
[良い点] なんでも試してシミュレートしてみないと見えない事もある。でもみんな楽しんでるねw [一言] いくら不死身だろうとタダでは済まぬと思わせなければ。
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