勇者のロボ
「でかいだけのオモチャかと思っていたが、空を飛べるというのは、なかなかいいな」
須田は黒の司教から借り受けた聖鎧で、聖都の上空を飛び回る。八枚羽根のもので、一般の聖鎧よりも随分速度が出る。動かすのに必要な魔法力も桁違いのようだ。
どうやら自分は試されたようだ。上手く鼻を明かしてやれたので腹も立たない。
外見は騎士の鎧のようだけれど、乗り込んでみると骨の魔物だった。ダンジョンではスケルトンや動く鎧とも戦ったので、不思議とも思わない。
スカスカのコクピットに気密性はなく、骨の隙間からびゅうびゅう風が吹き込んで来る。後付けされたような鎧は、針金で骨に巻きつけられているだけだ。風でガタガタ揺れる上に、視界を遮る。無くてもいいのではないか?
後からついて来ている黒の騎士団の聖鎧を見ようと振り返って、須田は妙な感覚に戸惑う。骨の隙間から覗き見ようとしたのに、そんなことをしなくても何故か背後の光景が透けて見えている。
「こいつの目に見えるものが見えている?」
聖鎧の兜の中身は大きな骸骨だ。目玉がはまっていたのは、あれは魔法の道具だったのだろう。
「面白いなこれ。俺自身が戦った方が強いが、それも丁度いいハンデだろう」
慣れれば聖鎧の手足を自分のもののように動かすこともできる。それは、自分が巨人になったようなものだ。
しばらく飛び回り満足した須田は、聖都の塔を探してひやりとする。あれだけ目立つ建物なのに、どこにも見当たらない。迷子になったか?
地上に降りて待っていれば、そのうち手の者が探しに来るだろう。だがそれは彼のプライドが許さない。
自分は完全無欠でなければならない。奇跡の復活を遂げて以降、ますますその思いは強くなっていた。
迷子になったことを無かったことにするために、いっそ聖都全てを焼き払ってやろうか?
ふいに彼は、夏休みの宿題が間に合わずに、学校が火事になれと祈ったことを思い出す。
「俺は、一体誰なんだ?」
皆を救うために必死で頑張っていたことは覚えている。勇者は孤独だ。たとえ報われることがなくても、正義を執行し続けなくてはならぬ。
ようやく追いついて来た黒の騎士団と共に、黒の塔に帰還する須田。
着陸は思いのほか難しく、何度か失敗した挙句、床に体当たりするつもりで飛び降りると上手くいった。
「八枚羽根を御するとは、さすが勇者様。大したものですな」
拍手をしながら出迎える黒の司教。
「なるほど、聖鎧とはこういうものか。こいつを貰ってやるから勇者に相応しい誂えにするように」
司教の笑顔が凍り付く。
「で、ですが、八枚羽根の聖鎧は特別でございまして」
「ならばなおのこと勇者に相応しい」
そこまで欲しい訳でもないが、自分を試そうとした罰だ。
それに、どれほど貴重なものであろうと、喜んで差し出すくらいでなければ、手下にしておく価値すらない。
『こらコロ! 高く飛んだらダメだって! 反則負けだからね』
コロと遊んでいるのは竹井か。拡声器のテレパシー版みたいなので叫ぶのはやめてくれ。
あれだろ? エリアチャット。エリチャで叫ぶみたいなもんだぞ。
島の結界の範囲から出ないように、超低空飛行でじゃれ合う必要がある。おかげで皆ずいぶん飛ぶのが上手くなった。
ぶっちゃけ、空高く飛ぶだけなら初心者でもできるんだ。地上スレスレでピタホバとか、地形に沿ってビュンビュンレースとか、そういうのが難易度高い。
コロは構ってちゃんなので、僕一人だと正直面倒くさい時もある。皆が交代で遊んでくれるので助かるよ。
中でも竹井は面倒見がいい。梅木さん曰く、保母さんとか向いてるかもしれないそうだ。うーん、それはどうかな?
まあ、コロも竹井も精神年齢は五歳児レベルだし、遊び相手として丁度良かったんだろう。
そういえば、タマゴドン、最近では皆にタマちゃん呼ばわりされているあいつにも、なんとなく意志みたいものはあるようだ。それこそ猫程度で、コロみたいに激しい自己主張はしないけど。
竹井はタマのことも可愛がっている。あいつに関しては、日本にいた時よりこっちの方が幸せそうだ。
コンビニさえあれば、日本よりこっちの生活の方がいいんじゃね? って皆で言ってたけど、食生活に関しては劇的に改善されてきた。
住居についてもそこそこ良いものが建てられるようになって来たし、いずれは江戸時代の武家屋敷みたいのも夢じゃない。
衣服に関しては基本は外注しているけど、お金さえあれば、ほとんど注文通りに仕上げてくれる。女性陣も不満はないみたいだ。最近は誰も日本に帰りたいとは言わなくなった。
心残りは、日本に残して来た家族だけ。
もし帰れるとなったら、悩むなあ。セーラちゃんを置いていけないしね。




