脱兎のごとく
「似合う似合う。凄く勇者って感じだよ須田君。あつらえたようにピッタリだわ」
神の国の聖騎士の衣装。しかも儀典用の見た目重視のものを持って来させた。
頭にはいかにも勇者という感じの羽飾りを装備させている。
「こんな羽根を頭につけてるの勇者かワルキューレくらいですよね。幼児なら可愛いでしょうけど」
バトルメイドの土井は聖女鈴木には心酔しているが、勇者には辛辣だった。
「いいのよカッコイイんだから。神々しい感じが凄くいいじゃない」
「それよりぼろっちい錆びた剣はどうにかなりませんか? 抱きしめて離してくれないんですよ。呪われた剣とかじゃないですか?」
野村達男子チームは、須田を着替えさせるのに文字通り死ぬほど苦労したのだ。聞き分けの悪い駄々っ子が、超人的な力を持っているのだから始末が悪い。
「私の鑑定ではバッドステータスはついていませんね。それどころかなかなかの性能みたいですよ。きっと大切な思い出があるのでしょう」
「でも、コーディネートを考えればおかしくありません?」
「そこは、そう、ユニークでいいじゃない。勇者なんだから、少しくらい普通じゃない方が、なんかそれっぽくありませんか?」
鈴木が言えば黒でも白になる。イエスマン体制というのはそういうものだ。
すでに神の国の神官達も鈴木の支配下に組み込まれつつあり、誰もそのことに疑問すら感じていない。
勇者が悪の皇帝金田を討ち取れば、神の国を逆に呑み込むことさえ可能かもしれない。少なくとも大きな影響力を確保できるだろう。
鈴木は、お札製造機として便利に使われて終わるつもりはなかった。
「いいわね、須田君。あなたは光の勇者として使命を果たすの。悪の魔王に堕ちた金田を倒すの。魔王をやっつけるのが勇者のお仕事でしょ? わかる?」
「カネダ……コロス」
「そうよ、偉いわ。民を救ってくださいね」
勇者を手懐けるとは、さすがは聖女様だと、周囲の者達の尊敬の視線が集まる。
テイマーの制御下にあるならば、猛獣は凶暴であればあるほど良いのだ。
「よっしゃあ! 俺様は帰って来たぜ」
かつてはコソコソ逃げるように飛び出した賢王の城。見覚えのある建物が小さく見えて来た。
「あそこにゃもう戦える奴は残っちゃいねえ。センコーも死ぬ前に少しは役に立ったな」
人探しの魔法は便利だ。そのためだけに生かしておいても良かったが、その場の勢いで殺してしまった。まあ、あんな奴でも魔法使いだ。敵に回すと魔法は怖い。やはり自分の判断は正しかったと思いなおす。
「カネダ様! 何か飛んできます!」
「なんだあ? また奴らか」
ロボットのゾンビみたいな兵器については、金田なりに理解していた。鹵獲したものを動かしてみたが、整備しなければすぐに壊れてしまった。あれは空を飛べる重機のようなものだ。飛べるといってもヘリのようにスピードが出るわけでもない。
怖いのは空から一方的に放たれる魔法だけ。粗末な鎧を着て兵達に紛れ込んでしまえば、まず狙われることはない。
「神輿のようなものをぶら下げてます。あ、女だ! イイ女が乗ってる!!」
「いい女?」
こんな遠くからそこまでわかるものかと金田は思う。
確かに立派な服を着た男女が、吊り下げられた籠に乗っているが……顔は見えない。見えないが、嫌な予感がした。
帝国軍の正面に男を一人残し、奇妙な乗り物は飛び去って行った。
「あいつはヤベエ気がする。変更! 別の町に変更だ!!」
だが、血の気の多い連中が、たった一人の相手に怯む訳もない。
「やっちまえ! やっちまえ! やっちまえ!」
連携も何もなく、ただ数の暴力で襲い掛かる。
叩きつけられる雑多な武器。
「まさか? やったのか? そんな筈はない」
それはそれで無駄に怯えてしまった自分の面子に関わるじゃないか。複雑な気持ちで殴り倒された男を眺める金田であった。
「なんだあ? ぼろっちい剣だな」
倒れた男を気の済むまで殴りまくってから、戦利品の物色にとりかかる帝国軍の兵士達。
今まで何度も繰り返して来た行為であり、これからもずっと続く。愚かな彼らは、根拠もなくそう信じていた。
剣を奪われそうになった瞬間。スイッチが入ったように勇者は跳び起きる。
「なんだこいつ? まだブフォッ」
周囲の男達の頭が消滅していた。
金田だけが、高速で振り抜かれた剣の動きを捉えていた。
「ヤベエヤベエヤベエ! あいつ勇者の須田だ! あんなの無茶苦茶だろ!! 俺じゃぜってえ勝てねえじゃん」
なりふり構わず脱兎のごとく逃げ出した。




