嵐の前
「勇者が聖女のところにいるみたいなの」
人探しの魔法は厄介だけど便利だ。吉田は本当に怠け者なんだろうか? 怠けているふりをして勇者達の監視をしていたんなら、なかなかの策士だよ。
「勇者達って、どこかの島のダンジョンに閉じ込められてたんじゃ?」
「どこでも繋がる魔法の道でしょ。壊れてたのなら修理だってできる理屈よ」
「タイミング良すぎない? 金田が攻めて来てるんでしょ?」
基本的には関わらない方針だけど、オーリィさんには恩があるからね。帝国軍があっち方面に流れていくようなら、なんとかして止めたいと思っている。
「鈴木ってさあ、秀才バカなのよね。あたしと同じタイプだから分かり易いのよ。あいつ、金田に須田君をぶつける気よ」
秀才バカといえば、須田こそピッタリそんなタイプだ。頭が良くて勉強してそうなのに、成績は僕と同じくらいなんだよ。
異世界に来ちゃったら、学校の成績なんて大した意味は無いんだけれど、要領のいい奴を見分ける参考にはなるね。
「須田も鈴木も働き者タイプではあるよねえ。吉田を見ていると、最近は怠け者への評価がうなぎのぼりなんだけど」
「ありがとう。誉め言葉だと受け取っておくわ。そういうミー君も働き者よね?」
「うん、一生懸命に余計なことをしてる自覚はあるんだ。無能な働き者で迷惑をかけます」
「うーん、ミー君はそういうのとはちょっと違うのよね。飛行機を発明したライト兄弟みたいな……マッドサイエンティスト?」
物は言いようだよね。それってディスられてるよね?
「金田は戦士で、須田は勇者か。金田には帝国軍がいるけど、須田の仲間は誰だっけ?」
「……ダンジョンで須田君以外は死んじゃったみたい。本当に怖いところね」
怖いのはダンジョンなのか異世界そのものなのか? そう言えば吉田も勇者グループだったよな。仲のいい友達もいたかもしれない。
「賢王の部下の偉そうな爺さんが言ってたわ。勇者は別格だって。誰も勇者には勝てないって」
剣士の上位互換で、凄い魔法もいろいろ使えて、しかも成長も早い。普通に超強いね。おならは使えないだろうけど。
たった一人でダンジョンから生還したとなると、レベルも上がりまくってるんだろうな。
「あれ? 金田を倒したとして、もっとヤバイ事態? 須田ってそこまで性格ヤバくないよね?」
「そこなのよ。須田君はある意味超ヤバイのよ。凄い馬鹿の金田とはベクトルが違うヤバさよ。むしろ先生に近いかも。ああ、先生が一人で凄く南の方にいるわ、この辺ね」
吉田が指した地図の一点を見て首をかしげる。小さな漁村がいくつかあるだけで、荒れ果てた土地が続く貧しい国だ。
火薬の材料でもあるのかな? 最近の帝国軍は爆弾をほとんど使わなくなっていることとも符合する。
今のうちに始末しちゃった方がいいのかなあ?
大勢の人を不幸にした正真正銘の悪人だけど、殺してしまえばきっと後悔するだろう。
殺さなければ、さらなる悲劇を引き起こすかもしれない。そうなったら悔やんでも悔やみきれないだろうなあ。
結局、決めかねて放置することにする。そんな決断ができる人間が世界の主人公なんだろう。英雄だ。救世主だ。
でも僕はそんなものにはなりたくもない。何も知らなければ悩まずに済んだのに……あ。
「吉田も、その、難儀な能力を手に入れちゃったよね」
「わかってくれる? 見てるだけでヤキモキするしかないんだけど、誰かに伝えればいいように利用されちゃうのよね。あー、もうやだ。プリンを食べてゴロゴロしてたいだけなのに」
義を見てせざるは勇無きなり。勇なんて無くてもいいじゃん。僕らは勇者じゃないんだから。
でも、それじゃあ何か心の隅に引っかかるんだよ。僕は勇者になりたいんだろうか?




