勇者再び
「カネダどもが迫って来ております。聖女様に万一があってはなりません。我々と避難していただきます」
有無を言わせぬ神の国の使い達。だが、最近すっかり貫禄が身に着いた聖女鈴木は少しも慌てず、逆に使者達に使いを命じる。
「神の国は人材が豊富なのでしょう? 道を開く者を大至急派遣して頂きたいの。毒をもって毒を制します」
「いえ、勇者召喚は簡単に行えるようなものではなく……」
「あら、準備すればできるみたいね。大丈夫、今回やってもらうのはずっと簡単ですから」
自信たっぷりの聖女の態度に、使者達は従わざるを得なかった。あるいはそれが、聖女のカリスマの成せる業なのかもしれない。
勇者須田は、ひとりぼっちで震えていた。暗い穴の中、たった一人で。
ここには彼を傷つけることのできるモンスターはいない。中には食用になるモンスターもいる。空腹になればそういったモンスターを炎の魔法で仕留め、生焼けの肉を貪り喰った。
ダンジョンに閉じ込められた当初、何人かの仲間を失ったが、そいつらは死んで当然の弱い連中だった。生き残った精鋭達とダンジョンを攻略し、仲間と共に勇者は強くなっていった。
共に何度も死線を超えるうちに、芽生えた真の友情。だがそれはあっけなく砕け散ってしまった。
ダンジョン深部で、いつものようにモンスターを狩っていた。延々と繰り返される効率化された狩り。強力なモンスターも、彼らの前にはただの経験値、その筈だった。
たまたま通りかかった別の群れがリンクしてしまった。たったそれだけのことで、パーティーはあっけなく崩壊。
命からがら逃げ伸びて、入り口に辿り着いた時には仲間は誰もいなくなっていた。
その日から須田は全ての気力を失った。ダンジョンの入り口にうずくまったまま眠り続け、飢えと渇きに耐えられなくなった時だけ雑魚モンスターを狩って喰う。
何度も死のうと思ったが、それすらもできず、終わらない悪夢のような時間だけが過ぎていく。
そして、ついにその時が訪れる。
消えていた道が再び現れた。白い光の中から女が手招きをしている。
「あう……あー……」
「いらっしゃい勇者。あなたにはまだ果たすべき使命があります」
「あー……うー……」
戸惑いつつも、須田は光の中へと一歩ずつ踏み出すのだった。
「なんだ? あ?」
物陰から飛び出して来た少年。その手に握りこまれたナイフの刃は、金田の脇腹に突き立っていた。
「効かねーなー、おい」
裏拳で無造作に少年を払いのける。普通の人間などそれだけで虫の息だ。
金田の帝国軍はならず者の集団であり、装備もてんでバラバラ。復讐するために潜り込んで来る者達を見分ける術はない。
皇帝を自称する金田を狙う者が一番多く、毎日のように暗殺未遂が起きる。大抵は怒りに任せてオーバーキルされる運命だ、が、金田は気まぐれだ。
「いい根性しとる。戦士に取り立ててやれ」
たまたま虫の居所が良かったりすると、暗殺者を親衛隊に入れてしまったりする。皇帝の気まぐれには誰にも逆らえず、金田の親衛隊は血に飢えた狼の集団のようになっていた。
未熟な若者達にとって、皇帝に選ばれし者という特別感は甘美な毒であった。強い者が偉いという単純明快なルールも受け入れ易かった。
弱い者は何をされても文句は言えないが、強ければ何をしても許される。弱さは悪で力こそ正義。
襲撃と略奪を何度か繰り返せば、故郷を焼かれた哀しみも金田への恨みも忘れてしまう。何しろ今は奪う側の立場なのだ。若者達は、まるで生まれついての盗賊のように、無辜の民を蹂躙していく。
「やっぱ人間は無茶できてナンボだよなあ。いい子チャンは生きる価値なしだ」
血に飢えて暴れる兵達を見て、皇帝は笑う。
金田はふと有田のことを思い出す。火薬を作れるから生かしておいてやったが、地味で気に入らない奴だった。今はどこで何をしているのか? きっちり殺しておけば良かった。
手下にしていた伊集院も近頃はあまり見かけない。今は自分よりあいつの方が強くなっているかもしれない。殺せるものなら、あいつも始末したいところだ。あのロボット兵みたいな敵と戦って戦死してくれないものだろうか?
時に大胆な行動をとる癖に、金田は小心者だった。あるいはそんな自分が嫌で、殊更に乱暴に振舞っているのかもしれない。
破竹の快進撃を続けていても、破滅の予感に常に怯えているのだ。
そして、その予感は現実となる。




