蝗の帝国
戦士金田の帝国は、いきなり苦境に立たされた。
食料がない、金がない、頼みの綱の火薬も全く補充が追いつかない。
神の国の軍勢を中心に、周辺の敵対勢力が次々に攻め寄せて来る。周り全部が敵なのでどうしようもなかった。
もはや帝国の運命は風前の灯と思われたのだが……
金田は短気だった。そして馬鹿だった。作物の収穫を待てなかった。
本拠地を捨て、自ら全軍を率いて乾坤一擲の賭けに出る。被害を顧みず隣国になだれ込み、数の力で勝利してしまう。
「なんだよ、やっぱ俺ツええじゃん。火薬なんていらなかったんだぜ」
備蓄されていた食料は全て略奪し、武器も財宝も家財道具も奪えるものは全て奪った。戦死者は多かったが、ならず者や食い詰め者達を吸収し、帝国軍はむしろ勢力を増した。
仲間にならない人間は、拉致して牛馬のごとく荷を運ばせ、戦闘時には肉の盾とした。
帝国軍は都市を占領しようとはせず、略奪が終われば火をかけて全て焼き払ってしまう。そして次の場所へと向かうのだ。
この世界の常識から大きく外れた連戦に次ぐ連戦。皇帝金田の無策によるものではあるが、これが帝国軍を利する結果となる。
神の国の聖鎧は飛行能力こそあるものの、移動速度は馬より速い程度である。偵察隊からの情報を得てから、軍を編成して出撃しても、焼き尽くされた廃墟が残るのみであった。
小規模の部隊が偶然に会敵することはあったものの、聖鎧を見ると帝国軍は蜘蛛の子を散らすように散開してしまう。聖鎧の魔法攻撃がせいぜい十回程度であることを見抜かれているのだ。
地上に降りて武器で戦っても、逃げ散る相手に戦果を拡大することはできず、むしろ聖鎧を鹵獲される不手際さえ起きてしまう。
損耗を恐れた神の国の上層部は、聖鎧の地上戦を禁ずる通達を出すことになる。消耗戦を避け、拠点防衛に注力することで保護国の王達を庇護した。
帝国軍の一番の目的は食料の略奪であり、拠点の攻略にはこだわらなかった。強敵は避け、無防備な農村を食いつぶして通り過ぎていく。
領土を持たぬ帝国は、まるで蝗の大群のように大陸を彷徨うのだった。
「金田帝国だってさ。なんかちょっと酷いことになってるね」
あいつらはもう終わりだと思ってたんだけどな。神の国に茶葉を納品しに行ったら、偉いさん達が頭を抱えていた。
「移動する帝国って、ジンギスカンの真似かしら?」
「私、呂布で似たようなプレイしたことあるよ。内政とか一切せずにね、税とか搾れるだけ搾り取って、どんどん隣のマップに攻め込んでいくの」
羽山がゲーム好きだとは知らなかった。
「三国志のゲームだね。でもそんなやり方じゃ統一とかできないんじゃない?」
あの手のゲームは全てのマップを占領すればクリアだ。勝ち続けても治安が悪化すれば、反乱続出で天下はとれない。
「上の国から始めれば、一ターンで何度も順番が回ってくるの。あと、登場武将を全部斬るの。全部の国が弱くなって、そのうち反乱も起きなくなるよ」
うわあ、ひどいプレイだ。でもちょっとやってみたい。
「最近のゲームだと対策されてるから無理かも。父さんの古いパソコンで遊んでたから」
「ゲームの話はともかく、リアルでそれやっちゃう金田は頭おかしい」
この世界の人間を大勢苦しめて、何やってるんだろうね。
僕なら終わらせることはできると思う。バフ有りなら、徘徊する帝国軍とやらを全て焼き払うことも可能だろう。
でもそれは、何万人も殺すということだ。そんなとんでもないカルマは背負いたくないし、背負わせたくない。
やるならバフ無しでやらないとなあ。嫌だなあ。
「神の国も案外情けないね。でも大丈夫だ。イナゴの群れはいずれ餌を喰い尽くして消滅するもんだ」
秋山さんは簡単そうに言ってくれる。そうだといいな。関わらずに済むならそれが一番いい。
「何もあたし達が責任感じることないし。バカと同郷だから? そもそもバカを召喚した奴が悪いから」
竹井にしては正論だ。
「金田に踊らされてる帝国軍だって同罪よね。異世界人を苦しめてるのも異世界人ってことよ」
赤松の言う通りかも。
「現地の人達にそこまで本気で抗おうって気概が感じられないのよね。私達も資金援助以上のことはしない方がいいと思うの」
梅木さんは難しいことを言う。
でも、皆の意見を聞いているうちに冷静になれたよ。命を懸けた戦いに、安易に参加すべきではないね。
それより今は力を蓄えるべきなんだ。おなら気化爆弾は効果範囲が広すぎて実戦では使いづらい。ピンポイントで強敵を倒せるような技が欲しい。
おならバーナー、おならトーチ系は高温は出せるけど、動く相手にはリーチが短い。
直接対決だと火炎放射よりロケット弾の方が強いよね? なんとなくだけど。
おならの力はやっぱり広域攻撃向きなんだろうか?
ああ、ならいっそ、眠りのおならを広域に拡散するのはどうだろう? 時間稼ぎにはなるかもね。
状態異常系のおならをクラスター化したらどう化けるか? いざという時に備えて実験だけはしておこう。




