紅茶の呪い
「気にくわん。実にけしからん」
白の司教モリーエールは、愚痴りながらティーカップに口をつける。
青の塔最上階の応接室。向かいに座る青の聖母バルディアとは同世代で、良きライバルだった。
「お口に合わなかったかしら? あなたも随分茶葉を仕入れてるって噂だけれど?」
「紅茶は美味い。味も香りも実に素晴らしい。最近は一日に五回はてぃーたいむをしておる。それが気にくわんのだよ」
それを聞いて、青いドレスに身を包んだ老女は上品に笑う。傾国とまでうたわれた美貌は今では見る影もないが、モリーエールの記憶の中の彼女は今でも美しいままだ。
「まさかお茶にこんな楽しみ方があったとはねえ。長生きはするものだわ」
「遥か東方で育てられる茶葉に、南国産の砂糖、西方の檸檬、北の国の白磁の茶碗。どれも高価なものばかり、溶かした金を飲んでいるようなものだ」
「マンドレイク商会から買えば随分お安いでしょう? 彼らは頼めばいくらでも寄進してくれるし」
「寄進ではない、奴らは金貸しだ」
「ある時払いの催促なし、利息はないし、別に返さなくてもいいそうよ。あなた、まさか返すつもりなの?」
「いや、それはそうとだな、奴らは物わかりが良すぎる。金はいくらでも気前よく出す癖に、我々に媚びようとしない。何故だ?」
「それだけ儲けているのでしょう? あの空飛ぶ絨毯があれば、遥か遠い国の果実ですら新鮮なまま持ち帰れるのですから」
「あれの速さは異常だ。八枚羽根の竜骸でもまったく追いつけないのだぞ」
「聖鎧でしょう? 竜骸をそう呼ぶと、あなたが決めたことじゃない」
モリーエールは顔をしかめると一気に茶を飲み干し、至福の表情になる。
「新鮮な牛の乳を入れると、みるくてぃーという飲み方になるそうよ」
「牛の乳であれば、早馬で届けさせることもできるか? いや、すぐに駄目になるな」
「私は乳運びを四枚羽根の飛行訓練に取り入れましたよ」
バルディアは今度はミルクティーを注いでくれる。
「容器やお湯の温かさ一つでも、随分香りが変るんですよ。お茶というものは、なかなかに奥が深いものです」
白く濁ってしまった紅茶に、恐る恐る口をつけるモリーエール。
「ほう、これは、なんとも」
甘い乳の香りが茶葉の香りと混ざり合い、鼻孔に広がっていく。舌の上に流れる、味わったことのない極上の飲み物。
いや、どこか懐かしいような? 幼子の頃の記憶の断片が呼び覚まされるような。
負けた、完敗だ。モリーエールは悟った。一度この味を知ってしまったら、この先の人生を茶葉なしで送るのは耐えられない。
茶葉の産地はわかっているのだ。細々とではあるが、これまでも取引されていた。ただ、その国はあまりに遠く、危険な航海の途中で大半の船は沈んでしまう。茶葉が金より高価になるのも仕方ないことだ。
いくら権力を振りかざそうと、無いものは手に入らない。つまりはそういうことか。
人質をとられたも同じではないか、自分は生涯あのマンドレイク商会に頭が上がらないのだ。
だが、一生紅茶を飲み続けられるのなら、それも良いかとモリーエールは思うのだった。
セーラちゃんの地母神の力と吉田のシャーマンの能力がコラボすると、なんか発酵してしまうことが判明した。
たまたま茶葉を仕分けしていた時に、吉田のミスで全部ウーロン茶みたいにしてしまった。
でも飲んでみたらスッキリ美味かったんで結果オーライ、怪我の功名だ。
発酵つながりで味噌と醤油にチャレンジしてもらったけど、何故か上手くいかない。
「味噌も納豆も簡単なのになあ。田舎のお祖母ちゃんはいつも作ってたよ」
梅木さんはそう言うが、肝心のコウジカビや納豆菌がなければ始まらない。天然酵母ならゲットしたんだけどなあ。秋山さんが大喜びでリンゴ酒を仕込んでいる。
ちなみに発酵途中のリンゴサイダーは女子達にも大人気だったけれど、アルコールが出来てしまうと甘くなくなって美味しくないので大人二人しか飲まない。
炭酸飲料ならジュースにドライアイスをぶち込めばできるんだけど、元はおならの炭酸ガスとか心情的にちょっとアレだったんで作ってなかったんだよ。おならを飲ませたりしたら、バレた時怖いし。まあ、リンゴサイダーの炭酸も酵母菌の排泄物由来なんだけどね。
最近は赤松も空気を圧縮してドライアイスを作れるようになったし、炭酸飲料を飲みたかったら勝手に作ればいいさ。結界で圧縮するのにハマった赤松は液体窒素とかも作ってる。何に使うんだよ?
醤油はコウジカビ待ちだけど、茶葉の発酵は上手くいったってことで、吉田とセーラちゃんに火が付いた。南の方へ飛べば砂糖も手に入るので、これはもう紅茶でしょってことらしい。
おかげでティーカップに使えそうなのを探して世界中を飛び回る羽目になった。北の国で売ってたのは、白磁っぽいけど白磁じゃないファンタジーアイテムだ。融けない氷とか言ってた。
お金があるもんで、調子に乗っていろいろ買ってたら、すぐに商売できる程たまってしまった。
閑を見ては倉庫とか建増してるけど、キリがないんで売れるものは売ってしまえってことで、紅茶とか似合いそうな上流階級っぽい人達にボッタくり価格で売ってみた。
一応、事前に市場調査はしたけどね。値段がつけられない程高価なものみたいだし、参考にはならなかった。紅茶だし、お茶とは違うし、勝手に値段設定していいよね?
ボッタくり価格に関わらず、予想に反して紅茶は売れに売れた。この世界のお茶には麻薬成分が含まれているのかもしれない。カフェインって麻薬だったっけ?
お金持ちでも毎日飲めば破産してしまう。さすがにそれは後味が悪いので、無利息でお金を貸し付けた。貸したお金が返してもらえたことはないけれど、秋山さん曰く政治献金みたいなものなので、別にいいのだ。
大金を自分達の間でぐるぐる回して何をしているのかわからないけれど、生産者さんにも喜んでもらえているので、いいことしてる感はあるよ。
スパイスばっか運んでちゃ飽きるしね。商売ごっこじゃないかと言われればそうなんだけれど、皆でワイワイやってるのは楽しい。
不良グループが配ってるバズーカとかがどんどん性能アップしてきているので、神の国の連中に軍資金を流す意味でも商売は有効だしね。
最初はアキンド商会にしようと思ったんだけど、日本語だと不良グループにバレるのでセーラちゃんに名前を考えてもらってマンドレイク商会にした。
マンドレイクは地球にもあるマンドラゴラのことだ。貴重な薬草だけれど、採集する時に死人が出るそうだ。ま、ちょっと物騒だけど、せっかくセーラちゃんが考えてくれたんだし問題ない。
美しいバラにはトゲがある、みたいな? そんな感じが出てて、いいと思う。




