天の火
「うわあー! でっけー!」
「こりゃタイタニックも沈むわー。東京ドーム何個分? 北海道くらいあるんじゃない?」
いや、確かに大きい氷山だけど、北海道は言い過ぎだ。
たまたま北の海で馬鹿でかい氷山を見つけたので、干物トリオのバフつきで最強魔法を試し撃ちすることにした。
皆ノリノリで協力してくれる。発射実験ってなんかワクワクするよね。
「それじゃあ、実験開始します」
赤松が結界を張ってくれるけど、念のために高度を上げる。
空飛ぶ絨毯の上で竹井が笛を吹き、花村が踊り、梅木さんが歌う。
おおう! 凄いバフだよこれは!! みなぎるパワー! おまけになんかいろんな属性が付加されるみたい。
おなら攻撃は基本的にただの物理なんで、どんなに凄くても物理無効の相手には傷一つつけられない。
でも、属性がつくと魔法攻撃扱いになる?
あと、反射無効の効果。これが地味に安心。ぶっちゃけリフレクトされると死ねるし。
竹井の能力らしい、ちょっと見直した。
今回の実験で使用するのは、おなら気化爆弾。それをクラスター化したものだ。
クラスター化というのは僕がそう言ってるだけだけど、要するに同じ魔法をひとまとめにできる。
おなら気化爆弾を三発まとめてクラスター化しておけば、いちいち三回魔法を使わなくてもいい。
さらに、おなら気化爆弾のレベルが上がれば、クラスター化した魔法もレベルが上がる。
クラスター化したものをさらにまとめてクラスター化することもできるので、結構いろいろ使えそうなんだよ。
今回は三の三乗、つまり二十七発分のおなら気化爆弾を氷山にぶつけてみる。
別に必要はないんだけど、それっぽく氷山に手をかざしてみる。ああ、こんな時は何か技名を叫ばないとね。
「スーパーウルトラ火の玉ファイアーボール!!」
残念ながら、エフェクトとか出ないんだよね、おなら魔法は。
最初、チカッと光っただけだった。距離が遠いからね。
だけどみるみる火球が膨らんでいって、氷山を呑み込み、ドーンって凄い音がした。
結界がなければ、皆の鼓膜が破れたかもしれない。
光ってから音が届くまで30秒くらい数えたから、一万メートルくらいの距離があった?
わりと丁度いい距離感だったと思う。このくらい離れていないと危険だね。
巨大な氷山が跡形もない。天に昇って行くキノコ雲を見て、なんだか怖くなってきた。
「何よこれ? 核兵器じゃない」
「違うよ。放射能とか出てないし」
核兵器は悪いものだと教えられてきたから、一緒にされるとなんか嫌だ。単なるガス爆発だし。メタンと酸素を燃やしただけだし。クリーンで地球に優しいんだ。
「ソドムとゴモラを滅ぼした天の火って感じね」
「ラーマヤーナではインドラの矢って呼ばれてた奴ね」
「あ、それ嘘だから。ラーマーヤナにインドラの矢って登場しないのよ。アニメ見た後で私調べたし」
梅木さんと花村が凄くマニアックな会話をしている。楽しそうだからいいけどね。ああ、二度とアニメとか見れないのか。
「氷山消えちゃったよ。ミー君凄いじゃん。金田なんかに絶対負けないって」
「いや、絶対はないよ。それに金田だってレベルアップしてるだろうし」
「常識的に考えて、戦士じゃ核兵器に勝てないと思う」
「だから核兵器じゃないって」
「でも魔王城ごと消し飛ぶレベルよ」
「それは皆のバフとかあったから」
「確かに干物トリオのバフ超ヤバイかも。あたしMP全然減らないし」
ああ、そうか。僕も今の攻撃をもう百回くらいできそうだよ。
それならクラスターをもう一段階重ねて、八十一発分にしてみようか?
「大変大変! 魚がいっぱい死んでるし!」
確認のため高度を下げてみると、海面に無数の魚が浮いている。
「うわあ、環境破壊してしまった!」
生き物はいないと思っていたんだけれど、まさか魚が死ぬとはね。
「ニシンじゃない? 新鮮だったらお刺身も美味しいわよ」
「なら回収する」
赤松が結界で魚だけを引き上げる。うわあ、便利過ぎる。僕はもう漁をしなくていいや。
「何トン? 何十トンあるのよ? 絶対食べきれないわよ。こんなに干物にできないし」
「いや、諦めちゃそこで試合終了だよ。僕は不可能を可能にするから」
心当たりはある。
弾道軌道で一気に魔族の国の漁港へ飛ぶ。彼らは魚が大好きなんだ。毎日大量の魚を消費する。
結論から言うと、新鮮なニシンは飛ぶように売れた。いくつかの港町を回る予定だったのが、最初の港で完売してしまった。ちょうど不漁だったのと、魔族がニシン大好きだったせいだ。
ニシンの売り上げなんて香辛料取引に比べればはした金だけれど、食べ物が無駄にならなかったのが嬉しい。
「僕はそこまでニシン好きじゃないけどね。小骨が多いし」
「酢漬けにしたり、煮ものにしたりして骨まで美味しく食べるのよ。圧力鍋があれば自慢のニシン料理を作っちゃうんだけどね」
梅木さんって女子力高いよね。美人で性格も良くて料理上手とか、完璧超人かよ。
「圧力鍋? そんなの余裕よ」
ドヤ顔の赤松。どうせ結界だろ? 最近こいつはなんでも結界で解決しようとする。
島にとんぼ返りして料理教室が始まる。
ご飯を多めに炊いといてという梅木さんの言葉の意味を、僕達は思い知らされることになる。
「はひゃうまい」
秋山さんが泣きながらご飯をかきこんでいる。気持ちはわかるよ。
僕はニシンの小骨が嫌いだったんだけど、骨までなんかホロホロと楽しい食感? 数の子や白子もトロトロで、なんか幸せ。
魚醤とショウガで味付けしたのはわかる。でもそれにしちゃ美味過ぎる。舌が喜んでブルブル震えて、勝手に箸が進むよ。
「梅さん結婚して!」
竹井が馬鹿なこと言ってるけど、皆うんうん頷いている。気持ちはわかる。こんな凄い料理を毎日食べられるのなら、悪魔とだって契約するだろう。
「作り方は覚えました。あとはこの味が出せるまで練習あるのみです」
セーラちゃん偉い。
「圧力鍋がなきゃ無理なんですけどね」
ドヤ顔の赤松。
そういえば圧力鍋って、買っても使わなくて死蔵されるケースが多いらしい。洗うのが面倒だかららしいけど、魔法の結界なら洗わなくていいのか。
結界の可能性がヤバいね。僕もおなら魔法で似たようなことができるけど、性能が段違いなんだよ。
おならロケットには、加圧できれば高性能化できるプロセスがいくつかある。赤松並みのおなら結界が使えればなあ。
手持ちのカードだけでなんとかするなら、やはりおならロケットのクラスター化かな? 力押しではあるけれど、確実に大推力が手に入る。
怖いのはこれ以上スピードを上げると宇宙に飛び出してしまうことだ。戻って来れないと宇宙の迷子だよ。
武器とかの威力を上げるのは簡単でも、平和利用? そういうのは難しいね。安全に使わないといけないからなあ。
まあ、不良グループに対抗しなきゃだから、攻撃手段はいくらあっても無駄にはならない。
あ、閃いた。敵にもし攻撃が通用しなかった時は、宇宙に捨てちゃえばいいんだよ。帰って来なくていいんだから、適当に加速しまくればいいだけだし。
もし封印されてる魔神とかそういうのがいても、復活する前に処分できるし。結構いいアイディアかもしれないぞ。




