スカートつきの鎧
オーリィさんのお屋敷を入ってすぐの廊下に、全金属製の鎧がディスプレイしてある。こういうのってありがちだけど、実際に飾っている人を見たのは初めてだ。
昨日までの僕は、悪趣味だなあ程度にしか思ってなかった。重いだけで小銃弾すら防げないようなシロモノに興味はなかったんだ。
でも今は違う。注目すべきは独特なスカートの形状だ。金属製のスカートがお尻をすっぽり覆うように広がっている。
この形状ならば、ダイレクトに噴射したガスで効率よく浮力を得ることができるだろう。
「あらあら、やっぱり男の子ねえ。鎧に興味があるの?」
じっくり調べていたら、オーリィさんに見つかってしまった。
「魔法の実験に使ってみたいのでお借りできませんか? 壊してしまったらごめんなさい」
「そうね、鎧は必要ね」
何故か鍛冶屋に連れて行かれてしまった。鎧は装備する人に合わせてオーダーメイドするものらしい。
でもお高いんでしょう? お金持ちの金銭感覚ってよくわからないよ。
鍛冶屋のハルバルさんは、オーリィさんがいない時は平気で野グソとか言っちゃうフランクなオッサンだった。いろいろ面白い話を聞かせてくれる。
僕が気になった鎧のスカート部は、野戦の時に用を足しやすくするためのデザインらしい。ちゃんと実用性があったんだな。おなら変換が使える僕には必要ないけどね。
せっかくなので、木型を選ばせてもらってスカートの形状をよりおならに最適化する。足の裾部も膨らんだタイプを選んだ。補助エンジンを仕込んだら、ホバーで地表を高速移動できそうな形状だ。
「高熱が伝わらないように耐熱素材を張り付けて欲しいんですが。石綿とかありませんか?」
自分のおならで火傷するような事故は避けたい。石綿は健康被害が心配だけど、中世レベルで入手可能な耐熱素材としては非常に優秀だ。
「坊ちゃんは火魔法使いか。それなら火竜の鱗を使うか」
ドラゴン素材か、いいね。でもやっぱりお高いんでしょう?
「まさか材料は自分でとってこい? 的な?」
「なんじゃ、わざわざ自分で拾いに行きたいのか?」
「落ちてるものなんですか?」
「森に行けば竜の化石なんぞいくらでも転がっとるじゃろ?」
うわあ、なにそのありふれちゃってる感じ?
「生きてるドラゴンはいないんですか?」
「あんなバケモンがまだ生き残ってたら、恐ろしくて外も歩けんぞ」
ちょっと残念? いや、化石しか残ってないなら、いずれドラゴン素材枯渇するからね? 大丈夫かこの異世界。
ドラゴンの鱗を使う場合、鎧の鉄板は別に薄いのでかまわないらしい。鉄は高価だから材料費的にはむしろ安上がりなんだそうだ。
ハルバルさんがジュースの缶並みに薄い鉄板を木型にカンカンすると、鎧のパーツがみるみるうちに出来上がっていく。
「客が皆こうだと楽でいいんじゃが」
ドラゴン鎧の方が作るの簡単だった件。
仕上げに火竜の鱗を張り付ける訳だ。無造作に置かれていた木箱に、ぎっしり入っていたドラゴンの鱗。ピンク色した薄い板状の謎物質だ。何かに似てると思ったら生ハムだ。半透明なところとかそっくりだ。
「ワシが貼っていくから、ボンは火魔法で炙ってくれ」
指先からおならファイアー。いい感じに火力を調整してやると、鱗は面白いように溶けて鉄板に張り付いていく。
「大丈夫ですかこれ? 蝋みたいに熱に弱いんですけど」
「それはボンの魔法が強力だからじゃ。それに火竜の鱗は熱を魔力に変化させる。ボンが頑張って魔力を吸い取れば問題ない」
いつの間にか僕の呼ばれ方がお坊ちゃまからボンになっている。そんなことはどうでもいいな。MPって吸い取れるものだったのか? 良く分からないけど、実際に試してみれば理解できるだろう。
鱗貼りの作業は結構楽しくて、あっという間に終わってしまった気がした。が、気づけばもう夕方だ。
「ふう、いい仕事をさせてもらったぜ」
「あの、僕お金持ってないんですけど」
「お代はお嬢様から頂いとるわい。それ着て帰るか?」
鎧を装備するのは結構大変だった。一人で着るのは難しいだろう。
でも、身に着けてしまえば、思ったより軽くて動き易い。
さて、まずは普通のおならで実験だ。お尻と両足から軽くおならを放出すると、それだけで体がぶわっと浮き上がる。計算通り!
次はいよいよ耐熱テストだな。メタンと酸素の混合気を点火。アフターバーナーも熱くなーい!
熱の代わりに火竜の鱗からMPがリバースして来る。あれ? これって無限機関? 実際にはそこまでいかないけど、使ったMPの二割くらいは回収できそうだ。嬉しいオマケだよ。
パワーは十分! 地上を滑るようにスイーッと高速移動、からのUターン、そしてジャンプ! 飛びまーす! 着地もふわっと滑らかだ。
バランスを崩すとやっぱ墜落しそうだな。使いこなすには訓練が必要だ。でも、風の鎧をまとっているから多少の衝撃は大丈夫……あまり高く飛ぶのはやめておこう。
あれ? ハルバルさんが滅茶手を振っている。おいでおいで? 戻って来いってこと?
「おい、あんな使い方聞いてねえぞ!」
「説明が下手でごめんなさい。僕、不器用ですから」
「いや、謝らんでいい。すげえぞボンボン! 鎧が火吹いて空飛んでた!! 作り直しだ! もっといい感じに弄ってやるよ!」
炎が当たる部分に追加で鱗を重ね貼りにして、完璧に熱気が漏れないようにする。さらに、鎧が僕の体重を無理なく支持できるように、パッドを入れて調整してくれる。
夜中まで夢中に作業していると、オーリィさんが馬車で迎えに来て凄く怒られた。