告白
「大事な話があるの」
夕食後のプリンを食べながら、吉田が僕にそう言った。
何だろう? 今日のプリンは普通に美味しかったと思うけど? 卵か牛乳に問題があったのだろうか?
プリンに関して彼女が誰より鋭敏な味覚を持つのは確かなことだ。牛や鶏の餌が変ったりすればすぐにバレるし、そういった家畜の体調不良までただちに察知する。
おかげでアイナ婆さんには感謝されているし、家畜達の待遇も格段に良くなった。
吉田も材料の質が良くなったと喜んでいた筈なのに。本当に何だろう?
食後、森の吉田の小屋に向かう。
頼まれて何度かリフォームして、随分大きく立派になった。吉田は片づけられない子なので、狭いとすぐにゴミ屋敷化するんだよ。いや、どちらかといえば魔女屋敷だな。
まあ、僕も道具とか出しっぱなしにしたい方なので、気持ちは分からなくもない。土地は余ってるんだから、家を広げちゃえば解決する話だ。きちんと整理整頓する方が作業効率は上がるんだけれども。
小さなオイルランプを灯して、吉田は待っていた。爽やかな柑橘系の香りが部屋に立ち込めている。虫除けに使える木の葉のお香だ。
蚊への対策としては、虫使いの羽山がいるし。赤松の結界やおならバリアーも有効。マイクロ気化爆弾での迎撃にも成功している。
お香というのは随分古臭い、いや、由緒正しい方法だな。ジョチュウギクだっけ? そういう便利な植物はまだ見つけていないけど、蚊が嫌う香りを出す植物を森で見つけたらしい。
シャーマンだっけ? 結構暮らしに役立つジョブなんだなあ。
「ミー君あのね、結婚しない?」
「いつもの冗談だよね」
「もちろん冗談だけど、ノリ悪いなあ」
いや、冗談じゃないよ。そういうの結構傷つく人もいるんだから、遊びでやらないで欲しい。罰ゲームで告白とか、人によっては一生もののトラウマだからな。
そういうデリケートな機微がわからないから、うちのクラスの女子はがさつだって言われるんだよ。少しはセーラちゃんを見習ってほしい。
「で、大事な話なんだけど。クラスの子達の居場所を調べてみたの。暇だったから」
「この島には結界があるんじゃ?」
「島の皆はどこにいるか探れないわね。他にも見えなかった子は大勢いたから、同じような場所に隠れてるんでしょうね。そう思いたいわ」
ああ。死んでるって可能性もあるけど、どこかで生きてるかもしれない。
「聖女グループのメンバーは今まで通りって感じでね。あの子達はチート能力で上手くやっていけそうね」
「回復魔法は需要あるもんね。便利に利用されちゃいそうだけど、人助けだからやりがいはあるだろうし」
「ミー君はいい子ね。やりがい詐欺に騙されそうでお姉さんはしんぱいだわ」
いや、同級生にお姉さんぶられてもね。
聖女グループに関しては心配なさそうだ。一年間生きてこれたんだから、この先も多分生きていけるさ。
「勇者君達は、ダンジョン周辺で逞しく生き残ってるみたい。何人かいなくなってるけど……」
ダンジョンの位置って魔族の大陸側みたいだ。大陸間を結ぶワープゲートが存在したってことで、明らかに地球の科学文明を凌駕している。あっちの大陸までおならでも10分かかるのに。
「それは、相当レベルとか上げてそうだね。魔王とか倒しちゃわないか心配だよ。噂じゃ名君らしいよ、魔王」
「どうかなあ? レベルはそこまで上がってない感じだけど、須田君って自分に酔うと見境無いとこあるから」
「須田ねえ。あいつって地味なキャラだと思ってたのに」
「そうかなあ、ミー君とどっこいどっこいだったよ。ミー君は変わらないよねえ」
どういう意味だよ。だいたい、おならの力でイキっても恥ずかしいだけじゃないか。
「勇者グループは放置してても大丈夫だと思う。ダンジョンのある島から出られる船はないから。島の魔族さん達には迷惑をかけるけど」
「アマミノクロウサギを襲うマングースみたいになってるね」
召喚勇者は特定外来種かあ。いろいろ考えさせられる。
「問題なのは、先生達が不良グループと合流しちゃってることよ」
「え? そりゃまた妙な組み合わせだね。水と油じゃないか」
あいつは不良を嫌ってたからなあ。不良ってわりとガラスのハートが多いから、そういう大人にはすぐ気づくんだよ。
「そうだよね。まさか更生させようとか考えてるわけないし。なんで一緒にいられるのよ?」
「人探しの魔法でそこまでわからないの?」
「そこなのよねえ。人探しの魔法で相手を見つけ出して、魔法の目で詳しく偵察するのが最強なんだけど、魔法の目が使えるのって、聖女の鈴木さんと賢者の先生だけなのよね」
「え? まさか、賢者は両方使える?」
ヤバくないか?
組み合わせ次第で大化けする能力が存在する。
例えば、干物チームの歌と演奏と踊りのコンボとか、バフもデバフも超ヤバイことになる。普通に能力値が一桁上がっちゃうから、下手すると二桁上昇する。あいつらが真面目に練習したら、世界の平和が大変だよ。
まあ、不遇職が三人集まって初めて成立するわけだし、ゲームバランス的にはそれくらいあってもいい気はするけどね。怖いからあの三人には絶対応援されたくない。
人探しの魔法と魔法の目は、別にシナジー効果があるわけでもなく、それぞれ単体で使う訳だけれど、吉田の説明でヤバさに気が付いた。
相手が世界のどこにいても、見つけ出して覗き見できるんだ。犯人の捜査にでも使えば世の中の役に立つだろうけど、犯罪に使う方がもっと簡単だ。
賢者というのは器用貧乏なジョブで、いろんな魔法が使えるけれど、どれも三流止まりらしい。本職がいれば役立たず、だから戦闘グループから外されたのだろう。
だけど、この世界の魔法は自由度が高いんだ。工夫次第ではおならで空だって飛べてしまう。
「なんとなくヤバい気がするのよ」
「うん、絶対ヤバいと思う。なんとなくだけど」
知らなければ良かった。知りたくなかった。
吉田も一人で抱えておけなくなったから、僕を巻き込んだのだろう。
はあ、でも、知っていれば備えることはできるからね。何も知らないまま幸せに生きるのとどっちがいいかな?
もう少しはっきりしたことがわかるまで、皆には黙っていようと思う。




