正義の価値は
交渉の邪魔が入らないように、人気のない森の中に着陸する。
敵ロボはそんなに速く飛べないみたいだから、本拠地はそう遠くないのだろう。わざと逃がしてアジトを一網打尽にするって手もあったかな。
木の根元に捕虜のお姉さんを横たえる。結構上等なレザースーツみたいのを着ている。本革は濡れるとベコベコしてくるんだけど、ずっとコクピットにいるなら問題ないのかな。
ピンク色のボブカットで、髪型のせいかクラスメイト達より少し大人びて見える。染めているのかカツラなのか、生活に余裕がなければ髪まで気をつかっていられない筈だ。いいとこのお嬢さんかね?
島の女性陣はリンスがなくてボサボサだからね。この世界では獣の脂を整髪料にしていろいろするみたいだけど、さすがにそれは嫌だ。
梅木さんにムクロジを探して欲しいと言われているけれど、どんな植物なのか見当もつかない。石鹸なら売ってるのに、何が駄目なんだろうね?
この人はサラサラヘアーだから、ひょっとしたらシャンプーとかの情報が得られるかもしれないな。そっちの方がオーブより余程価値があるかもしれないぞ。
頭を探しても角がないから人間か? 魔族の国で人間が何をしているのか怪しいなあ。
起こそうとして、自分が寝間着姿なのに気づく。これじゃあ舐められるだろう。
面倒だけど鎧を装備する。コロに取り込まれた時に変形して、ゲームっぽいデザインに進化した。ぶっちゃけ、カッコいいけどどうやって作るんだよって構造をしている。3Dプリンターならまあ、作れるかなあ。
ついでに馬鹿っぽいけど真っ赤なマントをつけてみる。まあ、インパクトはあるからね。
おならで眠らせると半日は起きないんだけれど、そんな時は『ただのアンモニア』だ。アンモニアそのものは魔法でも何でもないけど、効果は抜群だ。
「ここは? くっ!」
素早い身のこなしで飛び起き、腰の剣を抜こうとするが、もちろんそんなものはない。
「探しているのはこれかな?」
インベントリから彼女の剣を取り出し、足元に投げてやる。さて、ここからどう煽ろうかな。
「私は! 我々は負けたのか? あなたは太陽の使者だと言った。負けた私達は悪者なのか?」
勝手に自問自答している。面白い人だなあ。
「そう僕は正義のヒーロー、愛と太陽の戦士グレートサンシャインさ。そしてこいつが頼りになる相棒のスペースコロナ。正義の炎に身を焼かれたくばかかって来い」
小学校に入る前は毎日ヒーローごっこをしてたから、キメ台詞はスラスラ出る。ついでにポーズもキメるぜ。
「そうか、やはり教団は悪だったのだな、うすうすそんな気はしていたよ。悪の報いは受けなばならぬ。殺せ」
え? それは困るんだけど。
「悪党なら悪党らしく仲間を呼び集めて、徒党を組んで再戦とか、そういうもんでしょ?」
「私は正義の騎士になりたかったのだよ。大人になって現実を知り、竜骸の力こそが正義だと自分を騙そうとしていた。だが、本物の竜の騎士の前では、まがい物でしかなかった。圧倒的な、あまりにも圧倒的な力こそが本物の正義」
「違うよ。強ければそれでいいなんて、そんなのは正義じゃない」
正義は難しいんだよ。単純な勧善懲悪が許されたのは昭和のアニメまでだ。世界市場を席巻した今どきのヒーローには、高度に政治的な配慮が求められるんだから。
僕にヒーローを語らせたら長いよ。いやそうじゃない。挑戦状を叩きつけないといけないんだ。オーブを少なくともあと二つは欲しい。
赤松に吉田、あと花村だろ? 竹井も欲しがりそうだし、そうなると羽山だって欲しいだろう。セーラちゃんだって仲間外れは可哀そうだ。梅木さんや秋山さんだって本当は欲しそうだしね。
そうなると、あと六個か。
「ならば正義とは一体なんだ? 教えて欲しい!」
「甘ったれるな! そういうのは自分で苦しみ悩んで探し続けるものなんだよ。僕の知っているヒーロー達は皆そうやって成長し、最後には本物のヒーローになった」
まあ、打ち切りになったりしてグダグダになっちゃったりすることも少なくはないけどね。自分で操作するRPGのヒーローなんかでも、押しつけがましいラストに納得できないこともある。
でも、人生ってそんなものだろう? 何でも全て思い通りになる方がおかしい。
ストーリーに納得いかなかった自分の感情も含めて、全てが思い出さ。神ゲーはもちろん素晴らしいが、クソゲーだって、時間の無駄だったとは思いたくない。
「そうか。子供の頃の青臭い私の正義こそが正しかったのだな。気づいた時には手遅れだった訳だ。私は悪、せめてあなたの手で殺してください」
だから、なんでそういう話になる?
「ヒーローの中には、正義に目覚めた悪人もわりといるんだ。犯した罪を償うために、誰に賞賛されることもなく戦い続ける」
「何それ? なんかカッコいい」
「そうでしょうそうでしょう。結局はどこまで己の信じる道を貫けるかってことだからね」
「なれますか? 私でも今からそんなヒーローに!!」
う、顔が近いよ。そこまで食いつくかなあ。
「しゅ、修行は厳しいぞ」
「覚悟の上です! 一度死んだ気になって何でもします師匠!!」
いや、何でもしますって言われてもなあ。ああ、悪党のアジトまで案内させればいいか。
「アジトですか? 予備の武器と呪符くらいしか残っていませんよ。魔法の目で監視されていると思いますから、本部の連中を挑発しますか?」
ああ、うん、挑発するつもりだったんだけどね。思ってたより用心深い組織みたいで、ちょっと引いてしまう。
二機ずつ分散して配置しているとか、最初から末端を切り捨てる気満々じゃないか。これじゃあ捕虜を尋問しても大したことはわからないよな。
そんな組織が見え見えの挑発に乗って来るだろうか? 勝てると思えば出て来るだろうけど、しまったなあ、今回ちょっと派手にやり過ぎた。警戒されたら、しばらくは出てこないぞ。
とりあえずこの人には帰還してもらって内部を探ってもらうか? いや、駄目だな。高確率で殺されちゃうけど、得る物がほとんどない。
騎士見習いとしてイステアと二人まとめて面倒見るか? 領主が面倒だけど、なんとでも誤魔化せるか。
「それで、君の名は?」
「只のライルです。でした。生まれ変わったということで、グレートサンシャイン師匠に新たな名付けをしていただきたく」
ああ、芸名というかヒーローネームね。
「ストロンガームーンとかどうかな?」
「言葉の意味はよく分かりませんが、長くて偉そうですね。力強さを感じます」
喜ぶ彼女を見てると、そこはかとなく罪悪感が。
はあ、ボーンゴーレムも修理してやるか。原型を留めないくらいに。
よく考えたら彼女の所属していた組織って、本当に悪なんだろうか? 突然村を襲って火を放つなんて悪者のすることで間違いないんだけど、この世界だとそんなに珍しくはないことだし。
文化が違うと正義の定義ってなかなか難しいんだよね。力が無ければ蹂躙される世界じゃ、強ければそれでいいってのも、普通にアリなんだよねえ。




