聖女鈴木
「それで、吉田さんの足取りは何かつかめて?」
象牙のテーブルセットにけだるげに頬杖をつきながら、聖女鈴木が訪ねる。
「何分、肝心の人探しの魔法を使えるのが吉田一人でしたから。聖女様のお力でもおわかりにならないのですか?」
メイドの土井にとって聖女は全知全能で当然と言う認識らしい。嫌な気はしないが、若干面倒臭い。
「おわかりにならないのよねえ。尾行とかならともかく、魔法の目で人探しは無理よ。先生も確保しとくべきだったわね」
「アイツはクズですよ。殺しちゃえばいいのに」
鈴木は苦笑しつつも、本当に殺す者がいたらマズイなと思う。
地球人同士で殺し合えば相手の力を奪えると、賢王が口を滑らせたことがある。奪える力というのが経験値なのか、魔法やジョブを奪えるのか、それは分からない。
有効な手段だと知れ渡れば、実行に移す者が現れるだろう。
すでに何件か起きている筈だが、いずれも殺人者が姿をくらましているため、結果は不明。人探しの魔法が使える吉田なら何か知っていたかもしれない。
「衛兵の中にも私の信者は多い。外部の者に攫われた可能性は低いかもしれませんね」
「逃げたんですか吉田の奴? ありそうですけど、どうやって?」
教団の連中が怪しいと鈴木は思う。今ではこの国を事実上支配している宗教国家は、賢王などより余程厄介だ。
悪役なら悪役らしく最後まで頑張ればいいのに、賢王は国ごと教団の配下になった。聖女鈴木を手土産にして。
今のところ鈴木に与えられたノルマは、一日一枚、怪しげな呪符に魔力をチャージする簡単なお仕事だけ。信者を増やすための宗教活動はやんわり禁じられている。
教団の求める信仰の対象は教団自身であって神ではない。鈴木自身も似たようなことをして上手くいっていたから、それがこの世界の宗教観なのかもしれない。
土着の神はいるみたいだが、教団が悪魔認定してしまえば神は死ぬ。死んだことになるらしい。
「中世どころか、古代ヨーロッパ風異世界よねえ」
「古代ローマですか?」
「ああ、そういうのあったわね。あれ? 古い時代の方が文明的?」
実は歴史に詳しくない聖女鈴木だった。
『オイッチ ニ オイッチ ニ』
アイナ村の広場を、得意満面でのし歩くコロ。
その後ろをイフリートとミストルーンがついていく。
リシアさんもイステアも魔力が足りず、イフリート達を飛ばすことはできなかった。なので歩かせる訓練からだ。
「歩いている! イフリートが自由に歩き回っているぞーっ!!」
イステアはイフリートのコクピットで大興奮だ。彼女にとっては大きな進歩なのだろう。
噂がどう伝わったのか、近隣の村々からもオーブを持って駆けつけて来る人達がいたけれど、どれもただの宝石やガラス玉だった。本物のオーブって一体何だろうね?
「そういえば、前に襲って来た奴のオーブってどうなったんですか?」
「さあねえ? 領主様のとこじゃないかい? 欲しけりゃ先に持って行かないと、偉い人は絶対返してくれないからね。いいものなら特にね」
アイナ婆さんは偉い人にはペコペコしている癖に、本当は嫌いみたいだ。まあ、逆らうと殺されるしね。
暴力には暴力ってことで、地方領主程度なら村人の反乱で逆にボコられることもあるらしいけど、そうなると次は国軍が出てくるわけで、偉い人には簡単には逆らえないようになっている。
それでもたまに国軍側がボコられて国が亡んじゃったりもするので、王様も楽じゃなさそうだ。セーラちゃん情報だと三代以上続く王国は意外に少ない感じ?
次からは領主にパクられる前にオーブは確保しよう。女子達が操縦にハマってて、いいオモチャになってるから、あと数台は欲しいしね。
謎の敵はまた襲撃して来るかなあ? 村人に被害は出るのは困るけど、襲って来るならできるだけ僕がいる時に来て欲しい。
「イフリート村のイフリート。ミスト村のはミストルーン。ならアイナ村のは、本当はアイナですかね?」
「違うよ。確かアフロだった筈だよ」
アフロ? モコモコの髪型じゃあるまいし、アフロはないなあ。コロの方がマシだね。
「村ごとに伝説が伝わっとるんじゃが、うちの村のはあまりたいしたことないからねえ。これからミーさんが頑張っとくれ」
すでに新しい伝説を作り始めているらしいけど、アイナ村には吟遊詩人がいないのでそんなにいいのはできないそうだ。
お金はあるし、優秀な吟遊詩人を雇おうかな? なんかちょっと違う気もするけど、どうせ伝説にされるんだったらカッコイイ方がいいと思う。




